第9話 台湾海峡Ⅰ
2024年3月13日8:00 東シナ海〜台湾海峡
日本の歴史的改憲の決定からわずか一夜明けた3月13日早朝。アジアの緊張は一気に極限状態へと達した。中国人民解放軍海軍の「太原(131)」「廈門(154) 」「南京(155) 」 「淄博(156) 」「長春(150) 」「鄭州(151) 」「済南(152)」の7隻が台湾海峡の中間線を越えて侵入を開始した。
報を受けた日本政府は直ちに臨時閣議を招集。大島総理は海上自衛隊に対して海上警備行動を発令した。直ちに展開した海上自衛隊は佐世保基地の第1護衛隊群第5護衛隊のDDG-173「こんごう」DD-108「あけぼの」DD-109 「ありあけ」DD-115「あきづき」、第2護衛隊群第2護衛隊のDDH-182「いせ」DDG-178「あしがら」DD-102「はるさめ」DD-119「あさひ」を南西諸島周辺の海域に隙のない海上封鎖線を形成。
同時に、緊急出動した韓国海軍DDH-971「広開土大王」 FFK-955「馬山」 FF-956「慶北」 FF-959「釜山」ら第1艦隊第11駆逐艦戦戦隊が台湾海峡周辺へ急行し、中国海軍と目と鼻の先で重々しい睨み合いを開始した。
同日 10:30(現地時間) 中国・北京 中国外務省
洋上の冷ややかな緊張が走る中、北京の中国外務省では外交の命運を賭けた極秘交渉が行われていた。在中日本大使館の福田特命全権大使は、緊迫した面持ちで外交交渉のテーブルに着いた。対峙するのは、冷徹な目つきをした中国の李外相である。だが、交渉会議が開始された直後、李外相は挨拶もそこそこに、いきなり威圧的で強めの口調で福田大使へ言葉を言い放った。
「単刀直入にフクダくんに申し上げる。貴国は我が国に対して内政干渉をしている状況であることを強く抗議する。韓国の大使にも話したが、我が国は内政干渉を断固として拒否する。それについて何か意見はあるかね?」
最初から話し合う気など毛頭ない高圧的な姿勢であった。しかし、福田大使は鋭い眼光で李外相を見返し、一切怯むことなく毅然と応じた。
「我々日本政府の考えは、南西諸島及び東シナ海、そして東アジア地域の安定を目的として海上自衛隊を派遣しています。交戦の意志はありませんが、攻撃を与えた場合、我々は然るべき対応を取らせていただきます」
「ふん・・・中々威勢の良い言葉を言い放つではないか。我が解放軍の力を知らずに偉そうな口を・・・」
呆れた表情を浮かべた李外相は、蔑むように福田大使を睨みつけた。その傲慢な態度に、福田大使の胸の中に怒りが怒涛のように湧き上がる。福田は拳を握り締め、強く反論した。
「貴国は現在、一線を越えようとしている! あなたの判断で多くの人間の命が奪われることに、何も感じないのか!?」
しかし、李外相の顔には冷ややかな笑みが浮かべたのみであった。
「呆れたものだな。今日はもう帰ってくれたまえ」
「っく・・・!」
一方的に退出を命じられ、福田大使ら交渉班は言葉を飲み込みながら中国外務省を後にした。大使館へ向かう公用車の車内。流れる北京の街並みを眺めながら、福田大使は覚悟を決めた表情を浮かべ、日本政府へ向けて緊急電報を打電した。
『最善を尽くしたが、中国側の反発により外交交渉は決裂した。今後も交渉は続けて行く方針ではあるが、あらゆる事態に備えてほしい』
後部座席で同行していた若手外交官が、震える声で尋ねた。
「福田さん・・・やはり、戦争になるんでしょうか?」
福田大使は静かに、しかし力強い眼差しで部下を見つめた。
「戦争にはならない。いや、させない。例え相手が我々を拒否しようとも、決して諦めることはしないはずだ。君も肝に銘じておきたまえ」
「分かりました、福田さん」
大使館に到着した直後、在中韓国大使館から緊急の連絡が入った。9日に行われた韓国側の交渉も完全に決裂したという報告であった。中国側に一切の歩み寄りの意思はなく、「完全に交戦の意思がある」ということだけが痛烈に伝わってきた。ここまで来た以上、もはや相当の覚悟が必要であった。
同日 14:30 東京・首相官邸
外交交渉の決裂から3時間後。官邸の執務室で、大島総理は福田大使から送られてきた交渉結果の報告書を重々しく確認していた。
「やはり厳しかったか・・・。アメリカの助けが無い以上、頼りに出来るのはNATOとオーストラリアぐらいか・・・」
大島が思慮に沈んでいたその時、ドアが激しく叩かれ、加藤防衛大臣が大慌てで部屋に飛び込んできた。
「総理! 緊急です! 台湾海峡にフィリピン海軍、オーストラリア海軍、インド海軍が到着! 威嚇攻撃を開始しました!」
「何!?」
大島総理は思わず立ち上がった。海上自衛隊からの緊急電報によると、13日14時00分、フィリピン海軍、オーストラリア海軍、インド海軍の連合艦隊が台湾海峡へ電撃的に到着。展開していた中国海軍駆逐艦に向けて複数回にわたり艦砲射撃による威嚇を実施し、圧倒的な連携と協力の姿勢を見せつけたのである。あまりにも手際が良く、完璧すぎるタイミングでの3か国の到着に、大島総理は首をひねった。
「どうしてこうなった・・・? なぜこれほど見事なタイミングで動き出せたんだ?」
大島の問いに、加藤防衛大臣が興奮を抑えきれない様子で答えた。
「はい! 実は3月9日に行われた中韓交渉で、韓国の交渉が決裂した直後、錣大使が韓国政府側に即座に報告を入れたそうです。それを受けた韓国の楊大統領が、インド・オーストラリア・フィリピンに対して『台湾海峡における自由と平和の維持活動への参加』を直ちに要請し、3か国がこれを引き受けてくれたとのことです!」
「そうか・・・! 楊大統領には、後で深く謝意を伝えなければならないな。・・・それで、肝心の現場の戦闘の方はどうなっている?」
加藤防衛大臣は表情をキリッと引き締め、手元の最新報告書を読み上げた。
「そうですね・・・戦闘の経過に関してですが、中国海軍の駆逐艦7隻から2発ずつ、計14発の対艦ミサイルが発射されました。しかし全ミサイルを、海上自衛隊護衛艦に搭載されている新鋭の迎撃誘導弾にて完全に破壊・撃墜しました! 迎撃誘導弾の開発を進めておいて本当によかったですね」
14発のミサイルが海上で全弾撃ち落とされたという朗報に、大島総理は小さく安堵の息を漏らした。だが、その瞳にはすでに次の局面を見据える鋭い光が宿っていた。
「あぁ。ただ・・・これからがいよいよ忙しくなる。覚悟して臨もうじゃないか」
「はい!」
アメリカなき世界において、有志国連合と日本は自らの手で平和を守るため、終わりなき本格的決戦の渦中へと足を踏み入れたのだった。
次回も楽しみによろしくお願いします




