第8話 憲法改正
2024年3月12日16:30 日本国東京・永田町 国会議事堂
「本起立採決の結果――賛成多数。よって、日本国憲法改正案は可決されました!」
衆参両院の議場に、万雷の拍手と怒号のような歓声が響き渡った。2021年の岸和田政権下で本格的な議論がスタートして以来、幾度となく政治的対立と頓挫を繰り返してきた憲法第9条の改正。アメリカ合衆国の突然の消失という前例のない地政学的激変、そして先日の日中首脳会談での決定的な冷え込みを経て、ついに大島康二政権2年目の2024年3月12日、日本国憲法は創案以来初となる歴史的大改定を果たしたのだった。
議長席のすぐそばで、大島康二総理は静かに目を閉じ、深く息を吐き出した。手元のデスクに置かれた資料には、旧条文と新条文が鮮明に対比されていた。
【旧・憲法第9条】
第1項:日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
第2項:前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
【新・憲法第9条】
第1項:我が国の平和と独立及び国民の生命・財産・幸福追求の権利を守るための必要に準ずる実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高指揮官とする自衛隊を保持する。
第2項:自衛隊の行動は法律を定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
第3項:自衛隊は個別的自衛権及び集団的自衛権の権利を保有する。
長年、自衛隊を「違憲か合憲か」という曖昧な法的灰色地帯に置き去りにしてきた制約は完全に払拭された。「戦力の不保持」をうたった旧第2項は撤去され、自衛隊は明確に国家の正規の実力組織として位置づけられた。そして第3項において、個別的自衛権のみならず、台湾や有志国との共同防衛を可能とする「集団的自衛権の保持」が憲法上に明記されたのである。国民投票を経て正式に公布・施行されたこのニュースは、瞬く間に世界中を駆け巡った。
同日夕 日本国内の反応
日本のSNSは、文字通り蜂の巣をつついたような大盛り上がりを見せた。「#憲法9条改正」「#自衛隊明記」「#3月12日新時代」などのワードがトレンドの上位を独占。「ついに日本が自分の足で立つ日が来た!」「大島総理、よくぞやり遂げてくれた」「戦後70年以上の呪縛が解けた」といった歓喜と支持の投稿が数百万件単位で爆発的に拡散された。
アメリカという強大な巨大な傘を失い、隣国の脅威に怯えていた国民にとって、自国の防衛体制が明確な法的根拠を得たことは、計り知れない安堵感と自立への誇りをもたらしたのだった。
同日夜 周辺諸国の反応
だが、この日本の歴史的決断に対し、周辺国家は即座に猛反発を示した。北京の中国外務省報道官は、緊急記者会見を開き、激越な口調で日本を非難した。
「日本の憲法改正は、アジア太平洋地域の平和と安定に対する公然たる挑発であり、『日本の軍国主義の完全なる復活』に他ならない! 我々は日本が歴史の教訓を忘れ、再び侵略の道を歩もうとしていることに極めて強い怒りを表明する!」
モスクワのロシア外務省も「極東におけるパワーバランスを破壊する危険な暴挙」と声明を出し、平壌の北朝鮮国営メディアは「我が国に対する直接的な侵略の野望をむき出しにした」と最大級の威嚇報道を行った。中・ロ・北による「軍国主義の復活」という合唱は、日本国内を威嚇すると同時に、自国の軍事行動を正当化するための国際的なプロパガンダであった。
同日深夜 首相官邸
官邸の執務室で、外務省の杉山外相と加藤防衛相が大島総理を囲んでいた。
「中国、ロシア、北朝鮮が一斉に牙を剥いてきましたね。特に中国メディアの荒れようは異常です」
杉山外相の言葉に、大島総理は重々しく頷いた。
「彼らが騒ぐのは予測通りだ。自衛隊が集団的自衛権を明記したことで、台湾侵攻に対する日本の法的壁が消えたからな・・・」
大島は窓の外、静まり返る東京の街並みを見つめた。北京ではすでに、3月中旬の台湾侵攻作戦に向けた最終カウントダウンが刻まれていた。
「改憲はゴールではない。ここからが本当の試練だ。防衛省、自衛隊の全部隊に実戦即応態勢(レベル2)を指示してくれ。来るべきその時は、もうすぐそこまで来ている」
3月12日の憲法改正。それは、戦後日本のあり方を根底から塗り替え、直後に迫る世界大戦への準備を完了させる、運命の一手となったのだった。
次回も楽しみによろしくお願いします




