第7話 日中首脳会談
2024年2月26日15:00(現地時間) 中華人民共和国・北京 人民大会堂
北京冬季オリンピックの閉幕からわずか6日後。まだ五輪の熱気が残る首都・北京の人民大会堂に、世界中のメディアの視線が一身に集まっていた。日本国内閣総理大臣・大島康二は、国賓として招待され北京を訪問していた。
迎えたのは、中国の槫平秋国家主席。アメリカが突如消失して以降、崩壊した世界秩序の中でアジアの2大国が直接対峙する、歴史的な首脳会談であった。
「大島総理、北京へよく来られた。米国の不在という未曾有の危機において、隣国である我々が手を携え、新たなアジアの平和と安定の秩序を築くことこそが時代の要請である」
槫主席は堂々とした微笑みを浮かべ、穏やかな口調で歓迎の言葉を述べた。中国側の狙いは明白であった。米国という後ろ楯を失った日本に対し、アジアの覇権国としての中国を受け入れさせ、東シナ海や台湾海峡における影響力を暗に承認させること。外交的圧力によって日本を牽制し、屈服させることであった。しかし、大島康二の眼差しに迷いはなかった。日中双方の外交・防衛首脳が居並ぶ円卓の席で、大島総理は槫主席の目を真っ直ぐに見据え語り始めた。
「槫国家主席、温かい歓迎に感謝いたします。我が国としても、地域と世界の平和のために建設的な関係を推進する立場に変わりはありません」
大島は前置きを置いた後、言葉のトーンを極限まで硬く落とした。
「しかしながら、我が国の安全保障と原則に関する明確な認識を、この場でお伝えせねばなりません」
会談場の空気が一瞬にして凍りついた。
「まず、尖閣諸島は歴史的にも国際法上も疑いようのない日本固有の領土であります。我が国は同諸島において実効支配を維持しており、解決すべき領有権問題そのものが存在しないという立場です。万が一、我が国の領土・領海・領空に対する侵犯の試みがあるならば、日本国政府は自衛権を行使し、断固とした防衛措置を講じる所存です」
日中メディアのカメラが集中する前での、一切の曖昧さを排した踏み込んだ宣言であった。だが、大島総理の踏み込みはこれだけでは終わらなかった。大島は一息つくと、槫主席を凝視しながら、世界外交史を揺るがす決定的な一言を言い放った。
「さらに申し上げます。我が国は、台湾をひとつの独立した国家として正式に承認し、外交関係を樹立する準備を進める意志があることを表明いたします。台湾海峡の平和と民主主義は、我が国の安全保障と不可分であり、力による現状変更や威嚇を我が国は断じて容認いたしません」
「――なっ・・・!?」
人民大会堂の会議室に、激しい衝撃とどよめきが走った。中国側の外交官や人民解放軍幹部たちの顔が瞬時に怒りで朱に染まる。1972年の日中共同声明以来、日本が維持してきた「一つの中国」を実質的に打ち破り、台湾の国家承認へと舵を切るという、前代未聞の爆弾発言であった。槫国家主席の顔から笑みが完全に消えた。その瞳には、隠しきれない激怒と冷酷な殺気が宿っていた。槫主席は机の上にゆっくりと両手を置くと、低く地鳴りのような声で反論した。
「大島総理。言葉を選びたまえ」
槫主席の威圧的な声が部屋に響き渡る。
「台湾は我が国にとって不可分の神聖なる領土であり、「一つの中国」原則は我が国の最核心的利益だ。また釣魚島(尖閣諸島)も我が国固有の領土である。貴国のその発言は、我が国の内政に対する重大な干渉であり、主権への公然たる挑発とみなす!」
槫主席は立ち上がりかけんばかりの威圧感で大島総理を睨みつけた。
「我が国は主権と領土の一体性を守るため、いかなる手段をも辞さない。レッドラインを踏み越えたことの代償は、貴国と貴国国民が支払うことになるだろう。中国人民と人民解放軍の意志を軽視しないことだ!」
中国側もまた、一切の妥協を排した毅然たる、そして露骨な威嚇の姿勢を見せた。会談は予定を大幅に繰り上げて打ち切られ、共同記者会見も中止となった。
同日夜、北京市内から命からがら外交用暗号通信を送った大島総理の同行スタッフたち。会談の凄まじい緊迫感に、誰もが息を呑んでいた。北京での歴史的な決裂。人民大会堂の奥深くに戻った槫国家主席は、直ちに中央軍事委員会の緊急幹部会合を招集した。
「日本の態度は明白となった。彼らは台湾と結びつき、我が国の悲願を阻止する気だ。・・・もはや猶予はない。予定通り、3月中旬に作戦を発動する。同時に、日本が介入できないよう東シナ海での軍事的圧力を極限まで高めよ!」
大島康二総理の退路を断つ決断と、中国側の毅然たる激怒。北京での首脳会談は、対話による平和の道を完全に閉ざし、3月中旬の東アジア開戦へのカウントダウンを決定づける不可逆の引き金となったのだった。北京での激突の報が打たれると、日中両国の報道と論調は激しい対照を描き、世論は未曾有の熱量で沸き立った。
【日本国内の反応】
日本の大手テレビ局や新聞各紙は、一斉に特報や緊急解説番組を編成。大島康二総理の決断を歴史的転換点として大きく報じた。
新聞・テレビ報道「米国の不在という未曾有の荒波の中で、曖昧にされてきた安全保障の根幹を毅然と示してみせた」「『一つの中国』の呪縛を解き、台湾の民主主義と連携する覚悟を北京の真っ只中で表明した大島総理の外交的勇気を評価する」といった擁護・支持の論調が主流を占めた。
SNS・ネット世論では「#大島総理支持」「#台湾国交樹立」「#尖閣断固防衛」などのハッシュタグが瞬く間にトレンド1位を独占。「よくぞハッキリ言った!」「中国の威圧に屈しない真のリーダー」「これこそが主権国家の誇りだ」といった賞賛の声が爆発的に拡散された。
一部からは「中国を刺激しすぎではないか」「経済的打撃や軍事的事態への懸念」を口にする声もあったものの、米国を失った不安の中にいた多くの国民にとって、毅然とした姿勢を貫く大島総理の姿は圧倒的な支持を集めたのである。
【中国国内の反応】
一方、中国側では官製メディアが総力を挙げ、前例のないレベルでの激しい日本批判を展開した。
国営メディア「日本の暴挙、極めて危険な一線を踏み越える」と大見出しを掲げた。社説では大島総理の発言を「中国の主権と全人民に対する公然たる冒涜」「実質的な宣戦布告」と極限の言葉で猛批判。
対外メディア「日本政府は自らの過ちによって招く恐ろしい壊滅的結末を直視すべきだ」「軍国主義の復活であり、我が国は主権を守るためいかなる断固たる手段も辞さない」と威嚇を重ねた。
ネット世論では検閲と官製の誘導も相まって「日本製品不買運動」や「対日断交」を叫ぶ激しい反日感情が急速に燃え上がりネット上は戦時下さながらの異常な高揚感に包まれていた。
両国メディアの熾烈な言葉の応酬は、もはや外交による修復が不可能なレベルにまで日中関係を冷え込ませた。この世論の過熱と決裂こそが、北京の中央軍事委員会にとって開戦に向けた国内の国内固めを完了させる決定的な最後のピースとなったのだった。
次回も楽しみによろしくお願いします




