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♦︎伝説の槍は、僕を殺せない♦︎  作者: Blueberry
『第六章』伝わらない思い
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《第二十節》久しぶりの平穏(1)

すっかり投稿のことが頭から抜け落ちていました…。遅くなってしまって大変申し訳ございません。タイトルの通り久しぶりの平穏回ですので、気軽にお読みいただければと思います。よろしくお願いいたします。

 冷たい風が、頬をかすめる。

 遠くの山の奥に見える太陽は、気温までは変えてくれない。


(もうすぐ秋も終わりか…)


 時が経つのは早いものだ。

 ポリュイの大火災から、気づけばもう一ヶ月以上も経ってしまった。

 今は十一月(ガルシア王国では太陽暦を使用している)に差し掛かったばかり。

 この国では、十一月上旬には初冬を迎える。

 そのため、外はひんやりとして肌寒い。

 僕も久しぶりにマントを羽織り、薄手の手袋をつけている。


「殿下、寒くないですか?」

「うん、大丈夫だよ」

「そうですか。寒かったらいつでも言ってくださいね」

「ありがとう、ラグ」


 僕は今日、アポロ騎士団とともに、視察のため王都へ向かう。

 視察といっても個人的なもので、ほぼ遊びに行くようなものだが、今回は第一王子として赴くつもりだ。

 最近は身分を隠すことが多かったため、なんだか不思議な気分だ。


「殿下の瞳を外で見るのは久しぶりっすね。やっぱり綺麗だなあ」

「そうかな? ルイの色も好きだよ」

「嬉しいっすけど、殿下には負けるっす。殿下の瞳は〝王家の色〟っすから」

「……金色じゃないのに?」


 ジョーカー家の瞳の色は非常に珍しく、代々金色に限られてきた。

 そのため、金色は王家の象徴とされ、特別な輝きとして一目置かれている。

 嫁いできた者の瞳の色が遺伝することはなく、代々必ず金色を受け継いできたのだ。

 しかし、僕とリヴはそれぞれ青、赤という王家の歴史にはない色を持って生まれた。

 ただ、どちらも珍しい色であるため、金色と同じく〝王家の証〟として特別視されてはいる。


 陛下はこれを、瘴気への耐性をもって生まれた影響だと考えているが、耐性を持つのは僕だけのはずで、リヴには当てはまらない。

 そのため僕たちの瞳の謎は、今でも様々な見解が飛び交っている。

 一部の人々の間では、〝正当な王家の血筋ではないのではないか〟とも噂されているようだ。


「当たり前じゃないすか」


 しばらくの沈黙の後、頭上から少しだけ低い声が聞こえてきた。

 頭の上に手が置かれたかと思うと、次の瞬間には髪をわしゃわしゃとかき乱される。


「殿下、いいっすか? 俺は金色だから王家の瞳だなんて思ってないっす」

「え…?」

「正直緑色でも黄色でもなんでもいいんす。殿下が〝王族だから〟、青色が王家の色に見えるんすよ」

「!」


 王族だから、か。そういう風に反対に考えたことはなかったな…。

 普段から言われ慣れているせいで、金色こそが王家の証だと、自らも思い込んでいたのかもしれない。

 ルイの言う通り、それをどう思うかは人それぞれだというのに。


「……でも、殿下の瞳が綺麗に見えるのは、殿下の人柄なんだろうなあ」 

「ルイ、何か言った?」

「なんでもないっすよ〜」


 それにしても、集合時間はもうとっくに過ぎているというのに、サンはいつになったら来るのだろうか。

 サンに限ってまさか寝坊しただなんてことはないだろうし、何か準備でもしているのだろうか。

 そんなことを考えていると、タイミングよく遠くの方からサンの声が聞こえてきた。


「遅くなりましたー!」


 見ると、こちらに向かって全速力で走ってくるサンの姿が。

 あんなに離れていたというのに、もうあともう少しというところまで来ている。


「申し訳ございません。準備に手間取っていて…」


 辿り着くや否や、サンは深く頭を下げた。

 一向に頭を上げようとしないサンに、ルイが優しい声で言う。


「大丈夫だよ〜。でも、サンくんが遅れてくるなんて珍しいね」

「あはは…実は、剣の手入れをしていたら、すっかり夢中になってしまいまして…」

「うわぁ、いつもの俺だ…。まさかサンくんから同じセリフを聞くことになるとは思わなかったよ」


 剣の手入れ…。

 騎士団ともなると、そういうこともあるのか。

 そこまで夢中になれるものがあるのは、なんだか羨ましい。

 僕はサンとルイの会話に感心しながら、くるりと後ろを振り返った。


「それじゃあ、みんな揃ったことだし、そろそろ行こうか」

「はい」「そうっすね!」


 こうして僕たち一行は、王都へつながる門をくぐった。


♢♢♢


 道路の真ん中を走る車輪の音、行き交う人々の笑い声、スイーツの甘い匂い。

 足を踏み入れた途端、とても賑やかな景色が目に飛び込んできた。


「わあ…すごい…」

「ははっ、まるで初めてきたみたいですね」

「だって、何度見てもすごいんだもん」


 少し歩みを進めると、僕たちに気がついた人々が、何人か手を振ってくれた。

 そのうちの一人に手招きされ、僕はすぐにそちらへ向かう。


「ゼロ様、お会いできるのを心待ちにしておりました。呼び止めてしまって申し訳ございません。ゼロ様にどうしてもお伝えしたいことがありまして」


 笑顔が素敵な、とても溌剌とした女性だ。

 隣には小さな子どもが、こちらを見てニコニコと微笑んでいる。


「ゼロさま、あいにきてくれたの?」

「うん、そうだよ。ミラちゃん元気にしてた?」


 〝ミラ〟とは、この少女の名前だ。

 随分と前に教えてもらい、それから親しみを込めて〝ミラちゃん〟と呼ばせてもらっている。

 ちなみに最初に話しかけてくれた女性は〝リンダさん〟という人で、この子の母親だ。


「うん! みら、ゼロさまにまたあえますようにって、まいにちいのってたんだよ!」

「ほんと? 嬉しいなあ。ありがとう」


 頭を撫でると、ミラちゃんはまた嬉しそうに微笑んだ。

 とても可愛らしい笑顔に、僕も思わず笑ってしまう。


「そういえばリンダさん。どうしても伝えたいことってなんでしょう?」

 僕が思いついたように問うと、リンダさんはそっとお腹に手を当てて、とても嬉しそうに言った。


「私、妊娠したんです」


 その言葉に、僕もアポロ騎士団の者たちも、途端に目を輝かせた。

「わあ、おめでとうございます!」

 僕を含め、皆が口を揃えて言ったものだから、リンダさんは少しだけ恥ずかしそうに笑う。


「来年の春には生まれる予定なので、よろしければまた見に来てください」

「ええ、もちろん! 無事にご出産されることを祈っています」

「ふふっ、ありがとうございます」


 少しだけ世間話をしてからリンダさんとミラちゃんの元を離れると、今度は斜め向かいの店から、手を振りながら僕の名を呼ぶ老夫婦が。

 今度はそちらへ向かい、老夫婦に挨拶をする。


「お久しぶりです。ギルさん、レイラさん」


 片手に新聞を握っているのが〝ギルさん〟、花束を抱えているのが〝レイラさん〟だ。

 軽く頭を下げると、二人はとても穏やかに微笑んでくれた。


「まあまあ! お久しぶりです、殿下。いつ見ても素敵な笑顔ねえ」

「殿下に会うと、いつも元気が出るんですよ。おかげで最近は腰痛も治りましてね。もしかしたら殿下には、誰かの心を癒す特別な力があるのかもしれませんね」


 特別な力……そんな風に言われたのは初めてだ。

 僕にそんなすごい力はないけれど、そう思ってくれているだけでとても嬉しい。

 気がつけば、頬がわずかに熱くなっていた。


「少しでもお力になれたのなら光栄です。そういえば、ロイドさんは今日はどちらに?」


 〝ロイドさん〟というのは、二人の息子さんのこと。

 父上の秘密の友人の一人で、昔からとても良くしてもらっている。


「ああ、あの子ならこの通りの向こうにある〝セレンディピティ〟という喫茶店で働いていますよ。ちょうど三ヶ月前に開業したばかりなんです」

「そうだったんですね。後で立ち寄ってみようかな…」

「まあ、それはあの子も喜びますよ。それでは、お気をつけて」

「ええ、ありがとうございました」


 二人と別れてからも、たくさんの人に呼びかけられては世間話などをして、僕たちはのんびりと中央通りを歩いていった。

 

♢♢♢


 ゼロが色々な人と話をしている間、後ろに控えていたサンはその様子を静かに見つめていた。


(やっぱり、すごいな…)


 知ってはいたのだが、ゼロは会う人会う人の名前を全て覚えていた。

 名前だけではない。その人の趣味や好み、以前話した内容なども、全部。

 そのおかげで、人々から強い好感を得ているのは明らかだ。

 何より、みんなのゼロを見る目が、とても穏やかで落ち着いている。


(信頼されているんだな)


 ゼロの後ろ姿を見ながら、サンは心の中で呟いた。

 すぐ後ろから、また賑やかな声が聞こえてくる。

 見ると二人の少年がこちらへ向かって走ってきていた。


「ゼロ様ー‼︎」


 一人の男の子が叫ぶと、ゼロはすぐに話をやめて後ろを振り返る。

「あっ、トムくんとジョゼくんだ。二人とも、少し見ない間に大きくなったね」

 ゼロの言葉に、二人ともたちまち目を輝かせる。


「ほんと⁈ オレ、毎日牛乳飲んで頑張ってるんだ!」

「ボクもボクも! いつかゼロ様も追い越してやるんだ!」

 二人が誇らしげに鼻を鳴らすと、ゼロは目尻を下げて微笑んだ。


「ふふっ、きっとすぐに追い越せるよ」


 二人の少年はすっかり上機嫌になると、今度は隣に立つサンの方を向いた。

 つま先から頭の上までじっくりと眺め、それから目を大きく開く。


「すげぇー! オレの一・五倍くらいある!」

「にいちゃんかっけーな‼︎」


 突然身長を褒められたサンは、困ったように頭を掻いた。

 サンは昔から高すぎる才能ゆえに、褒められるよりも畏れられることの方が多く、素直に褒められるとなんだかむず痒くなってしまうのだ。

 決まり悪そうにするサンに、少年たちはお構いなしに詰め寄る。


「にいちゃん! どうやったらそんなに高くなるんだ?」

「は⁈ え、えーっと…」

「にいちゃんみたいにカッコ良くなるには、どうしたらいい?」

「えぇ…」


 サンが答えに迷っていると、ゼロはくすくすと笑って言った。

「あははっ、サンは昔から背が高かったよね」

「そ、そうですか? 殿下とあまり変わらなかったような気が…」

「それは十歳までの話でしょう。それからあっという間に大きくなったんだから」

 二人の会話を聞いていた少年たちは、とても羨ましそうな顔でサンを見つめる。


「いいなぁ」

「ボクも伸びるかなぁ」


 口々にそう言う二人を見て、ゼロは思いついたように手を打った。

「ああ、そうだ。でも、サンの格好良さの秘密はね…」

 ゼロは少年たちに近づき、こっそりと耳打ちをする。

 すると、二人はみるみるうちに顔を真っ赤にした。

 三人とも同時にサンの方を見たが、ゼロだけは今にも笑い出しそうな顔をしている。

「ちょっと、何を吹き込んだんですか!」

 咄嗟にサンが問い質すと、ゼロは見たことのない表情でニヤリと笑う。


「サンなら分かるんじゃない?」

「いいや、まったく」

「そう。まあ、いずれ分かる時がくるよ」

「殿下…前にも言いましたが、それが同い年の言うセリフなのですか?」

「あまりにもサンが鈍感だから、仕方ないでしょう」

「悪かったですね、鈍感で」


 二人のやりとりを見ていた少年たちは、顔を見合わせて困ったように笑った。

「ゼロ様とにいちゃん、仲良しだなあ」

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