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♦︎伝説の槍は、僕を殺せない♦︎  作者: Blueberry
『第六章』伝わらない思い
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《第十九節》許される罪(1)

「ゼロ。お前は本当に言うことを聞かないな…」

「…申し訳ございません」


 翌朝の午前九時五十分。

 王の執務室では、リヴによる任務の報告が行われていた。

 室内には陛下とリヴ、それからゼロもいる。


「お前はリヴのことになると、考えるより先に行動してしまう…。過ぎてしまったことは仕方がないが、今後は気をつけなさい」

「はい…」


 ゼロが怒られているのは、謹慎中であるにもかかわらず、ルリ・サピロスの任務に関わってしまったからだ。

 リヴを救出するためとはいえ、王の命令に背くことは許されない。

 もちろん、それはゼロも分かっていたのだが、それでもあの時、リヴが連れ去られたことを知ってから、気がつけば無意識に体が動いてしまっていた。

 ゼロが丁寧に頭を下げて謝ると、王は困ったような笑みを浮かべた。


「……オスカル殿のことは、確かに罪に問うことは難しい。しかし、今後また同じようなことがないとも言い切れない。彼のことは、こちらで詳しく調べさせてもらう」

「ありがとうございます」


 窓から心地の良い風が流れ込み、シルクのカーテンを優しく揺らす。

 ゼロは暖かな太陽の光に目を細め、ゆっくりと顔を上げた。

 しばらく黙っていた王は、それと同時に口を開く。

「今日ここへお前たちを呼んだのには、もう一つ理由がある」

 王は真っ直ぐにゼロを見据えると、穏やかな表情で告げた。


「ゼロ。本日でお前の謹慎を解こうと思う」


「「‼︎」」

 王の発言に、ゼロは目を大きく見開いた。

 リヴに至っては、嬉しさのあまり、すでにうっすらと目に涙を浮かべている。

「どうして…」

 ゼロの問いに、王は目尻を下げて答えた。


「昨日、南部に遠征していた諜報部隊から報告があってな、ポリュイの大火災は〝領主とエスペクトロによる仕業〟ということで解決したんだ。どうやら、どこかへ避難していた人々が町に戻ってきて、そう証言してくれたらしい。エスペクトロに関しては、彼らのものと思われる所持品も見つかったそうだ」


「しかし、それは…」


「分かっている。本当はお前とオスカルも関わっていたのだろう? だが、現段階でお前たちを罪に問うことは難しい上に、どちらかといえばお前は巻き込まれた側だ。それならば、お前に罰を与えるべきではないと判断した」


 王はそこまで説明すると、深いため息をついた。

 机の上の報告書に目を落とし、ゼロの反応を待つかのように黙り込む。

 リヴは何とも言えない表情をしながら、王とゼロを交互に見ていた。


「分かりました。ありがとうございます」


 沈黙が流れる室内に、ゼロの声がはっきりと響く。

 ゼロは背筋を伸ばし、いつも通りの笑顔を浮かべていた。

 しかし、発せられた声はどこか機械的で、何の感情もこもっていない。

 王はしばらく報告書を見つめていたが、やがて顔を上げて静かに告げた。


「話は以上だ。もう下がって良い」

「かしこまりました。失礼いたします」


 ゼロは王に背を向けると、そのまま一度も振り返ることなく執務室を後にした。


♢♢♢


「…さん、兄さん、兄さん‼︎」


 少し遅れて執務室を出たリヴは、先を歩くゼロの背中を追いかけていた。

 しかし、何度名前を呼んでも、ゼロは一向に立ち止まってくれない。

 仕方がないため全力で走って追いつくと、リヴはもう一度ゼロの名前を呼んだ。


「兄さん!」

「……そんなに必死で追いかけなくても、僕は逃げたりしないよ?」


 ゆっくりと振り返ったゼロは、困ったような笑顔を浮かべていた。

 そんなゼロの様子に、リヴは呆れたように口を開く。


「だって兄さんが答えてくれないから…。いつもならすぐに振り返ってくれるじゃん」

「そうだった?」


 広い廊下に、重い沈黙が流れる。

 ゼロもリヴも、お互いに目線を合わそうとしない。

 だがリヴだけは、必死に言葉を探しているようだった。


「…ねえ、兄さん」


 リヴの声に、ゼロは徐に顔を上げる。

 普段は透き通っているはずの瞳が、深海のように暗く冷たい青色をしていた。


「兄さんは、陛下に〝罰を与えてほしかった〟の?」


 リヴの問いに、ゼロはほんの一瞬眉を動かした。

 しかし、すぐに笑って口を開く。


「…嫌だなあ、誰が好き好んで罰を望むの? そんなわけないでしょう?」

「そっ、か…」


 そう答えたはいいものの、リヴは納得のいかない様子でゼロを見た。

 目の前に立つゼロは、いつも通りの笑顔を浮かべている。

 だが、長年一番近くでゼロを見てきたリヴには、それが作り笑いだということは分かりきっていた。

 だってこの表情は、嫌というほど見慣れている。

 事件が起こった八年前と、全く同じ表情だから。


「兄さん」


 リヴはもう一度ゼロの名前を口にすると、ポケットの中から何かを取り出し、そっとゼロに手渡した。

「これ、つけて」

 ゼロの手のひらに置かれたのは、ルリ・サピロスのブローチだった。

 青と赤の二つの三日月が向かい合い、その間に金色の直線が入った、ルリ・サピロスの紋章。

 青と赤はゼロとリヴ、金色の直線はガルシア神話に出てくる〝伝説の槍〟を表している。


 伝説の槍とは、瘴気の耐性をもつ者を唯一殺すことができた、古の時代に存在したとされる武器のこと。

 ゼロ以外の者はそのことを知らないのだが、ゼロはこの紋章に〝いつかあの日の罪を暴き、その槍で僕を殺してほしい〟という密かな願いを込めている。

 ブローチを胸に付けると、ゼロは徐に顔を上げた。

 すると、リヴは襟から首領のバッジを外し、手際よくゼロの服に付ける。


「やっぱり、これは兄さんが付けるべきだね。僕には似合わない」

 襟を整えながら、リヴはそう呟いた。

「そんなこと…」

 ゼロが咄嗟に否定するが、リヴはふるふると首を横に振る。


「ある。だからもう、二度と外さないでね」


 ゼロはしばらくの間黙り込んでいたが、やがて徐に口を開いた。

 顔を上げたゼロの表情は、作り笑顔には変わりないが、先ほどより少しだけ穏やかな表情になっている。


「…それじゃあ、ラピスラズリに戻ろうか」

「うん」


(……何もできなくて、ごめんね)

 後ろを振り返って歩き始めるゼロの背中を、リヴは悔しそうな顔で見つめていた。

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