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♦︎伝説の槍は、僕を殺せない♦︎  作者: Blueberry
『第五章』任務の終わり
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《第十六節》秋の味覚

 サンとフィンがゼロの部屋から戻ると、ルイとオスカルが何やらものすごい剣幕で睨みあっていた。

 火の粉を散らす二人の隣で、サイラスが頭を抱えている。

 一体何があったのだろうと思っていると、ルイが大きな声で言った。


「俺はアップルパイがいいの! モンブランは気分じゃない!」

「ええ⁈ 秋といえば栗だよ! モンブランだよ!」


(な、なんだそんなことか…)


 ルイとオスカルは、食べたいスイーツの話で揉めていた。

 拍子抜けするサンをよそに、言い合いは次第にヒートアップしていく。

 どう止めるべきかと迷っていると、遅れて入ってきたフィンが、すっとルイの隣に立った。


「私もアップルパイがいいわ!」


「姐さ…ベイカー嬢⁈」「フィン様⁈」

 唐突な割り込みに、その場にいた全員が動きを止めた。

 フィンはくるっとルイの方を向くと、いたずらっぽくウインクをする。

 みんなの反応など、気にも留めていないようだった。


「やっぱり、アップルパイは最高よね! 分かる人がいて嬉しいわ」


 とびきりの笑顔に、ルイはたちまち目を輝かせた。


「フィン様ぁ‼︎ そうっすよね、そうっすよね!」

「ええ! ああもう、食べたくなってきたじゃない!」


 サンがやれやれ、と短く息を吐くと、突然外からガラガラと大きな音が聞こえてきた。

 なんだろうかと思っていると、空き部屋の扉が勢いよく開かれる。


「お・嬢・さ・まぁ! アップルパイ、お持ちしましたよ〜‼︎」


 現れたのは、フィンの侍女〝キーラ〟。

 銀糸の刺繍が施された黒色のワンピースに、大きなフリルのついた紺色のエプロンを身につけた、笑顔が素敵な女性だ。

 くるくるに巻かれた銀色の髪を、編み込んで一つに束ねている。


 まるで貴族の女性のような可愛らしい見た目は、他でもないフィンの好み。

 フィンはルリ・サピロスの中では最年長ということもあり、普段は大人の女性らしく上品に振る舞っているがその実、可愛いものが大好きな、いわゆる乙女なのだ。

 皆が困惑する中、フィンだけは彼女の登場に──いや、アップルパイの登場に目を輝かせていた。


「まあ、ほんと? キーラったらさすがね!」

「お役に立てて何よりです! お嬢様のために、朝から並んだ甲斐がありました!」

「朝から?」

「このアップルパイ、最近話題の〝ブロッサム〟という専門店で売られているのですが、人気すぎて販売開始からわずか三十分で売り切れてしまうんです。なので、今日は開店の一時間前から並ばせていただきました! 無事に購入できて良かったです!」


 キーラが興奮気味にそう言うと、フィンはキラキラした目で拍手をした。


「すごいわ! ブロッサムのパイは格別だもの、買えたのは奇跡と言っても過言ではないわ!」


 伯爵令嬢ともなれば、お店から直接取り寄せることも可能なのだが、それは〝お菓子に失礼(?)〟というフィンの独自の方針により、彼女自身も侍女たちも日々苦戦を強いられている。 

 そのため、人気の店だと買えるかどうかは運次第だった。

 その中でもブロッサムは王都で大人気の店で、毎日たくさんの人が買いに来るため、すぐに売り切れてしまう。

 フィンもこの店のスイーツを食べるのは初めてなのだそう。


 ブロッサムのアップルパイは、店の名前の通り、バスケットの形をしたパイの上に、薔薇の花にアレンジされたりんごが綺麗に並べられていた。

 まるでフラワーバスケットのようで、とても愛らしい見た目をしている。


「ああそうだ、申し訳ございません! 皆様、どうぞ召し上がってください!」


 キーラは勝手に盛り上がってしまったことを反省し、慌ててアップルパイを切ると、七枚の皿に取り分けた。

 ここには五人しかいないため、おそらく残りの二皿はゼロとリヴの分だ。

 彼女のさりげない気遣いに、一同は胸を熱くする。


「ありがとう、キーラ。とっても美味しそうね!」

「ありがとうございます! やったー! アップルパイだ!」

「とても美味しそうですね。私の分も取り分けてくださってありがとうございます」

「あ、ありがとう…ございます?」

「…いただきます」


 フィンとルイはとても嬉しそうに、オスカルは「モンブラン…」と呟きながら、サンとサイラスはまだ状況が掴めないまま、彼らは一斉にアップルパイを食べ始めた。

 フォークを入れた瞬間、編み込まれたパイ生地がさくりと崩れ、芳ばしい香りがいっぱいに広がった。

 口に運べば、ほどよく煮込まれたりんごが甘酸っぱくとろけ、舌の上にやさしい蜜のような甘みを残していく。

 後から追いかけるようにシナモンの香りが鼻に抜け、まるで花束を抱えたような幸福感に包まれた。


「美味しい!」


 一口食べた瞬間、フィンはぱっと笑顔を咲かせた。

 その一言に釣られて、ルイが「最高〜!」と嬉しそうに頷き、サイラスは「こんなに美味しいアップルパイは食べたことがない」と素直に感心する。

 サンも思わず肩の力を抜き「…美味しいな」と小さく笑みを漏らした。

 そんな中、オスカルだけは黙々とパイを口に運びながら、ぼそりと「やっぱりモンブランが良かった…」と呟く。

 しかし、場が一瞬静まり返ったかと思えば、次の瞬間にはみんなが吹き出して、室内はにぎやかな笑い声に包まれた。


「早くあいつらにも食べてもらいたいな…」


 サンは皆に聞こえないくらい小さな声で呟くと、美味しいアップルパイをもう一口口に入れた。

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