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♦︎伝説の槍は、僕を殺せない♦︎  作者: Blueberry
『第五章』任務の終わり
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《第十五節》開かない瞼

第十四節の方に一部続きを追加しています。編集前の第十四節を読んでくださっている方は、追加した部分をお読みになってから、第十五節に進んでいただけたら話が繋がると思います。お手数ですが、一度戻っていただけますと幸いです。

 どこまでも澄み渡った青空。

 光り輝く太陽に負けない、煌びやかな王宮。

 リヴたちは無事に、オスカルを連れて王宮へと帰還した。

 王都から王宮へ繋がる門を潜り抜ける間、サンは眠り姫ならぬ〝眠り彦〟を起こそうと奮闘していた。


「リヴ、リ〜ヴ、そろそろ起きろ」


 ずっと世間話をしていたサンたちとは違い、リヴは馬車に乗り込んでから一度も起きずに眠り続けていた。

 それだけ疲れが溜まっていたのだろう。

 眉間に皺を寄せ、たまに苦しそうな呻き声をあげていた。


「駄目だ…。全く起きそうにない…」

「うーん、どうしましょう」


 サンとフィンが唸っていると、オスカルが思いついたように声を上げた。


「こういう時は、殿下に任せるのが一番良いのでは?」

「確かにそうですが、あの子は…」


 フィンは窓の外に目をやり、小さくため息をついた。

 道案内を終えてから、ゼロの声はぱたりと消えてしまった。

 それ以降、ほんの少しの瘴気すら見ていない。

 それが何を意味するか理解していたフィンは、困ったように眉を下げた。


「おそらく、今はここへ来れないと思います。別の方法を考えた方が良いでしょう」

「そうですか…」


 しかし、声をかけて起こす以外に、良い方法は思いつかない。

 あれこれ考えてはみたものの、結局サンがリヴを背負って連れて行くことになった。

 馬車から降りて、王宮の中央にある最も大きな建物へと歩いていく。

 手入れの行き届いた庭園が、サンたちの無事の帰りを祝福してくれていた。


 建物へ辿り着くと、サンを先頭に、フィン、オスカルの順で建物へと入っていく。

 最初に向かったのは、アポロ騎士団のルイとサイラスが待つ空き部屋だった。

 扉の前に立ち、ドアを数回ノックする。

 すると、ゆっくりと扉が開かれ、副団長のルイがひょこっと顔を出した。


「わあ、サンくん! おかえり〜! フィン様もお疲れさまっす!」


 ルイはいつも通りの明るい笑顔で迎えてくれたが、サンに背負われながら眠るリヴを見て、少しだけ眉をひそめる。


「リヴ殿下はどうされたの?」

「過酷な任務で随分とお疲れのようです。何度声をかけても起きないので、そのまま連れてきました」

「そっかあ…。サンくんもお疲れさま。ゆっくり休んでね〜」


 一礼をしてサンが部屋の中へ入ると、丸テーブルの向こうにサイラスが座っていた。

 こちらを見た瞬間、勢いよく立ち上がる。


「サン…‼︎ 良かった…っ、無事だったんだな!」


 サイラスは目にいっぱいの涙を溜めていた。

 いつも冷静な彼からは、想像のできない表情を浮かべている。


「あはは…サイラスさん、昼からずっとこんな感じなんだよ〜」

「ご心配をおかけしました。力不足で申し訳ございません」

「いやいや、サンくんほどできる子はいないでしょ。まあ、これには事情があって…」


 ルイはサイラスの代わりに、ゼロが部屋で休んでいる旨を伝えた。

 瘴気の使いすぎで、意識を失ってしまったことも。


「そうですか…。では、俺はベイカー嬢と二人で殿下の様子を見てきます。可能であれば報告もしておきたいので。先輩方はリヴ殿下と…オスカルさんを頼みます」

「「オスカルさん?」」


 ルイとサイラスが首を傾げると、部屋の外からオスカルが顔を出した。

 丁寧に頭を下げ、挨拶をする。


「お久しぶりです。元ミネルヴァ騎士団所属の、オスカル・マーフィーと申します」


 オスカルの自己紹介に、ルイは遠い記憶を辿るように目を細めた。

 オスカルが騎士団の団員として働いていたのは、今から約八年前のことであるから無理もない。

 しばらくしてようやく思い出したらしいルイは、納得したような表情ではなく、どこか冷めた目つきでオスカルを見上げた。


「ああ、あのオスカルね…。お前のことはよく覚えているよ。よくも俺の前に顔を出せたな?」

「いやあ…私もできれば貴方とは会いたくなかったのですが、今回ばかりは仕方がないのですよ。ね、サン?」

「………」


 ルイは怒りを隠そうともしなかったが、サンが何も言わなかったため、渋々了承したようだった。

 リヴは全身泥だらけのため、眠ったまま専属の従者に預けられ、オスカルはルイと対面の席に座り、再び錬金術を始めてしまった。

 ひとまず、ここは大丈夫だろう。

 そう思い、サンはフィンを連れて部屋を後にした。


♢♢♢


 空き部屋を出たサンとフィンは、大きな中央階段を上がり、長い廊下を進んでゼロの部屋の前で立ち止まった。

 コンコンコン…と軽く扉を叩くも、返事はない。

 ルイから寝ていると聞いていたため、サンとフィンはそっと扉を開けて、部屋の中へと足を踏み入れた。


(静かだな…)


 室内はとても広く煌びやかだが、どこか温かみを帯びていた。

 大きな窓には、濃い青色に金糸の刺繍が施されたカーテン。

 机の上にはきちんと並べられた分厚い本と羽ペンに、小さな花瓶に生けられた白色のダリア。

 透明感のある花弁が、ゼロの優しさを表しているようだった。


 しばらく入り口付近で立ち止まっていたサンは、フィンに促されて部屋の奥へと歩みを進める。

 大きなベッドはレースのカーテンで閉ざされており、中から微かに寝息が聞こえてきた。

 二人はそっとカーテンを開けて、枕の方へと近づいてみる。


「良かった…息はあるみたいね」


 ゼロは柔らかい布団の中で、静かに眠っていた。

 フィンの言う通り息はあるが、眉間に皺を寄せてひどく苦しそうな顔をしている。

 普段は頼れる存在であるはずなのに、こうして目を閉じていると、見た目通り十歳の少年にしか見えないのだから不思議なものだ。


(…馬鹿だなあ、お前は)


 声に出すことはできなかった。

 ただ、苦しそうに寝息を立てるその姿が、見ていて辛く、心が痛む。

 隣でフィンが椅子を引き寄せ、静かにゼロの手を取った。

 フィンの目から、微かに雫がこぼれ落ちる。


「俺が、もっとしっかりしていれば…」


 サンはぽつりと呟いた。

 自分がもっと周りに気を配れていれば、リヴはさらわれなかったかもしれない。

 リヴがさらわれていなければ、ゼロが瘴気を使う必要も、謹慎中に任務に参加することもなかった。

 そもそも、自分にこんな才能がなければ、マーフィー家から孤立することも、ジョーカー家に迷惑をかけることもなかった。


「全部、俺のせいだ…。俺のせいでみんな…」


 サンは顔を伏せ、かすれた声で呟いた。

 その直後、フィンが勢いよく顔を上げる。


「何を言っているの、サンの〝おかげ〟でしょう? あなたがいなければ、こんなに早くは帰って来られなかったわ。みんなが無事だったのも、すべてサンのおかげよ」

「でも…」


 優しく諭してもなお、悔しげに言葉を続けようとするサンに、フィンは静かに首を振った。

 再びゼロの手を握りしめ、ゆっくりと窓の外を見やる。

 遥か遠くに見える山の上で、太陽がゆっくりと沈み始めていた。


「……う…」


 弱々しい声が、静まり返った部屋にかすかに響く。

 サンとフィンはそれと同時に思わず息を呑んだ。

 フィンが身を乗り出すと、ゼロの眉毛がわずかに動き、ゆっくりと瞼が開かれる。


「……リヴ……無事……」


 朦朧とした意識のままそう呟くと、ゼロは再び深い眠りへと落ちていった。

 突然の出来事に、サンとフィンは顔を見合わせる。

 しかし、次の瞬間には、お互いに吹き出していた。


「ふふっ、こんなになってもリヴが一番なのね」

「ははっ、本当にお前は弟思いだなあ…」


 二人はしばらくの間笑い合ったが、その笑みも次第に消え去っていった。

 静かに眠るゼロの顔は、安らかであると同時にどこか危うさを秘めている。

 ゼロは〝どうせ死なないから〟と、いつも平然と無茶を重ねる。

 このまま無茶を続けていたら、いつか本当に取り返しのつかないことになるのではないか。

 漠然とした不安が頭をよぎり、二人は真剣な顔でゼロを見つめた。

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