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図書館といっしょ!  作者: 雪ノ音
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雨からの出題

 一瞬、翼が疑ったのは自分がまだ夢の中だという可能性だった。

 なにしろ昨日まではトロールの死骸だったと思っていたものが、動き回る事の出来た状態だったのかもしれないと言うのだから当然である。ただし考えてみると夢だという可能性を考えるよりも、ここが異世界である事を再認識して、自分の中にある地球の常識など捨ててしまって考える方が現実的かもしれない。


 最初に考えられるのは、ゾンビ化。近年アメリカのドラマで流行物の一つだ。

 しかしこれが正解だとするならば、自分達が襲われていないのが疑問として浮かび上がる。こちらの世界のゾンビは人を襲わないという可能性もあるだろうが、そんな平和的なゾンビが居るなら集落で見かけていてもいいはずである。もちろん翼の記憶にも思い当たる節はない。ならば可能性的には低い。


 次に考えられるのは、他の生物の餌になってしまったという考え方だ。

 ただしこれも正解とは思えない。あれほどの巨体でもあるトロールを一晩にして跡形もなく食してしまうなどありえない。もし可能だとすればどれだけの生物だというのだろうか。そもそもそんな生物がいるとして、翼たちを見逃す理由がない。それほどに翼たちが居る穴倉はトロールが落下した場所から丸見えの位置にある。


 最後に考えられるのは、トロールは死んでなどおらず、一種の仮死状態か何かだったという可能性。

 考えたくもない事だし、やはり翼たちが襲われていない理由と繋がらない。


 ――いや……何かが心に引っかかる。起きた時から感じる違和感。俺は”何か”見落としている気がする。


 現状を再確認していく。

 ここは渓谷だ。雨が降っている。その雨は徐々に強くなっている気がする。そしてトロールが消えた。

 繋がりそうで繋がらない。何か一つ情報が欠けている気がする。何なのだろうか。


 翼はふと自分の座っている地面を見落ろす。

 昨日は疲れていたからか深く考えなかったが、なぜこの穴倉に”草花が都合よく敷き詰められていた”のか。どう考えても不自然である。ただ昨日の夜と同じく獣臭さもしないし、獣毛らしきものも見当たらない。なら、やはり獣の巣ではない。となると自然に出来たと考えるしかないのだろうか。


 ――待てよ? 本当にそうなのか?


 とても不自然なのに不気味なほどに自然に、この穴倉は出来あがっている。言葉遊びではないがどう考えてもおかしい。自然に出来上がったのであれば、理由と条件があるべきである。自然と不自然は交わらない筈なのだ。


 その時だった。降りしきる雨で出来たと思われる水たまりから翼たちがいる穴倉へと雨水が流れ込んできたのは。突然の浸水で濡れてしまう覚悟をした翼だが……


「なんだ? 水が入ってきているのに”中で溜まらない”」


 言葉通りだ。一度水路を拓いた水の流れはかなりの量にもかかわらず、穴倉の中に溜まることなく、どこかに消えていく。まるで排水口でもあるかのようである。


「まさか!?」


 翼はここでようやく一つの仮定に辿り着く。

 草花で隠れてはいるが、自然の排水口らしきものがあるのではないか。実際に草花の下からは石の様な感触が伝わってくる。恐らく、これらの石の下には自然水道が通っており、水に流されてきた草花がだけが石の隙間を通る事が出来ずに残されて、現状を作り出していたとしたらどうだろうか。これなら自然に出来たと言われても納得は出来る。だがそうであるのなら……


「まずい! フィス、起きろ! ここにいるのはやばい! 起きるんだ!!」


 しかし、フィスからは翼の声に対する反応が見られない。目の前にいるというのに、まるで声が届いていないかのようである。ただフィスの状態の様子からすると体に異常があるようには見えない。なんというか、深い眠りについているというのがしっくりくる。冬眠している動物に近いのではないだろうか。


 だが翼の考えが正しいなら、もう時間はない。そして恐らく間違っていない。フィスが目を覚ますまで呑気には待っていられない。リュックを背中にではなく体の前に担ぐと、フィスを背負い、自分の脇とショルダーストラップの隙間からフィスの足を通して、やや不格好ではあるが彼女を固定した形になると雨の降りしきる中、穴倉から外へと飛び出す。そして空の下に出て気づいたのは見た目以上に雨が強い事だった。


 ――思った以上に危険な状況かもしれない。果たしてどれくらいの時間が残されているんだ!?


 だが焦るこちらの気持ちを裏切るかのように、新たな選択が翼に迫ってくる。

 それは、この渓谷の左右どちらを目指して進むのかという選択。

 今までと違い、たった2つしかない選択だというのに翼は追い詰められていた。

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