第三話 トマトは投げる物じゃありません
第三話 トマトは投げる物じゃありません
ニンジン将軍との戦いを終えた薫たちは王都へ向かって街道を歩いていたのだが、途中で立ち寄った宿場町トマトンが異様な雰囲気に包まれていることに気付いた、それもそのはず町中の住民がトマトに似た赤い丸い物体を見るだけで悲鳴を上げて逃げ回っており、挙げ句の果てにはリンゴまで規制されていたのである。
「さすがにやりすぎですわよね」
「トマトとリンゴの区別も付かないのか」
「わたくしでも分かりますわ」
「エマでも?」
「どういう意味ですの!?」
すると前方の広場が騒がしくなった。
民衆が集まっている。
何やら裁判が行われているようだった。
高台の上には黒い法衣をまとった男。
頭がトマトだった。
「また野菜かよ!」
「この世界の悪役ちゃんと人間を雇いなさいな!」
男は威厳たっぷりに杖を掲げる。
「静粛に!」
ゴォォォォンッ!
鐘が鳴る。
「我が名はトマト審問官マリナーラ!」
「名前までトマト由来っぽい!」
「私は野菜嫌い四天王が一人である!」
「四天王がまだ二人目なんですのよね」
薫たちは聞き捨てならない言葉を耳にした。
「被告人を連れてこい!」
数人の兵士が老人を引っ張ってきた。
罪人らしい。
しかし老人が持っていた物を見た瞬間、薫は絶句した。
それはただのサラダだった。
「いやサラダじゃん」
「サラダですわね」
「サラダだな」
三人の意見が一致した。
審問官は険しい顔で叫ぶ。
「被告は違法野菜所持罪である!」
「何その罪状!」
「さらにマヨネーズ使用罪!」
「罪を追加するな!」
「極刑!」
「軽すぎるだろ基準が!」
老人は泣きながら叫ぶ。
「わしは健康診断で野菜を食べろと言われただけなんじゃ!」
「正論だ!」
だが群衆は震えていた。
「なんて恐ろしい……」
「サラダだぞ」
「悪魔の料理だ……」
「レタスだぞ」
「世界が終わる……」
「終わらねえよ!」
薫は我慢できなくなった。
勢いよく飛び出す。
「異議あり!」
「法廷ゲーム始まりましたわね」
審問官が目を細める。
「貴様は」
「勇者だ」
「あっ勇者だ」
「あっ勇者ですわ」
なぜか空からテロップが降ってきた。
「ついに主人公再登場!」
「お前さっきまで出てただろ!」
薫は老人の前へ立つ。
「サラダのどこが悪い」
「野菜だからだ」
「論理が死んでる!」
「野菜は悪魔の食べ物」
「誰が決めた!」
「聖典だ」
ザワッと群衆が騒ぐ。
エマが小声で尋ねた。
「その聖典って何なんですの」
「知らん」
「知らずに否定してましたの!?」
マンドゴラが腕を組んだ。
「たしか千年前の伝説だ」
「急に詳しいな」
「実は設定資料集を読んでいた」
「メタ発言やめろ!」
審問官が高笑いする。
「勇者よ、聖典を否定するなら戦うしかないな」
「そうなるのか」
「人気があるうちは戦うのだ!」
「完全に漫画理論!」
その瞬間審問官の身体が膨れ上がる。
頭のトマトが巨大化する。
肩からトマト。
肘からトマト。
膝からトマト。
意味不明なトマト。
「なんだこれ」
「形態変化ですわね」
「第二形態だ!」
「早いよ!」
まだ会って五分も経っていなかった。
しかし審問官はノリノリである。
「受けろ必殺トマトメテオ!」
大量のトマトが空から降ってくる。
雨のように。
隕石のように。
なぜか一部にスイカも混ざっている。
「混ざってる!」
「作画ミスだ!」
「誤魔化すな!」
薫は畑を探した。
周囲にはない。
だが勇者である。
気合で探した。
するとなぜか地面からナスが生えてきた。
「便利ですわね主人公補正!」
「必殺!」
薫はナスを構えた。
「ナスソード乱れ斬り!」
紫色の衝撃波が飛ぶ。
大量のトマトが切り裂かれる。
街中にケチャップみたいな光景が広がった。
「衛生的に最悪ですわ!」
審問官は笑った。
「甘い!」
「まだ何かあんのか!」
「これが私の真の姿!」
さらに変身した。
今度は巨大なケチャップ瓶になった。
「退化してません!?」
「第三形態はケチャップだ!」
「意味分かりませんわ!」
ケチャップ審問官は権力を振りかざした。
「見ろ!」
杖を振る。
すると広場中央に巨大な石碑が出現した。
そこには古びた文章が刻まれている。
「これが聖典だ!」
民衆がひれ伏す。
エマも思わず緊張した。
「ついに出ましたわね」
薫は石碑を見上げる。
書かれていた文章を読む。
そこにはこう書かれていた。
『やさいはたべよう』
沈黙。
沈黙。
長い沈黙。
「は?」
「は?」
「は?」
全員が固まった。
薫は目を擦った。
もう一度読む。
やさいはたべよう。
変わらない。
エマも読む。
やさいはたべよう。
変わらない。
マンドゴラも読む。
やさいはたべよう。
やはり変わらない。
「待て」
薫は審問官を見る。
「これ野菜推奨してるぞ」
「なに?」
「野菜食えって書いてある」
「なにぃぃぃぃぃ!?」
町中が大混乱になった。
審問官が慌てて石碑を確認する。
「そんな馬鹿な!」
「いや書いてる」
「嘘だ!」
「ひらがなで書いてる」
「本当ですわ!」
トマト審問官は震えた。
「つまり我々は」
「うん」
「千年間読み間違えていた?」
「うん」
「全員で?」
「うん」
「国規模で?」
「うん」
エマが頭を抱えた。
「この国大丈夫なんですの!?!?」
その瞬間トマト審問官の精神が限界を迎えた。
「私は何のために戦っていたんだ……」
「知らん」
「読解力だったのか……」
「そこだな」
トマト審問官は静かに膝をついた。
そして涙を流す。
「すまなかった……トマト……」
「トマトに謝った!」
「私も食べてみよう」
群衆がざわつく。
審問官は恐る恐るトマトを口にした。
もぐもぐ。
数秒後。
「うまい」
「知ってた!」
「うまいぞぉぉぉぉぉっ!」
民衆も次々とトマトを食べ始める。
町中に歓声が響く。
トマト嫌いの町はその日滅びた。
だがその夜。
王城の最上階。
玉座の前。
ローブ姿の老人が報告していた。
「陛下、四天王がまた一人敗れました」
巨大な玉座に座る男はゆっくりと目を開く。
「そうか」
男の目には狂気が宿っていた。
「だが問題ない」
不気味な笑み。
「次はあの男を向かわせる」
壁の陰から巨体が現れる。
身長三メートル。
黒いマント。
そして頭は巨大なピーマン。
「待たせたな」
低い声が響く。
「私こそ最強」
雷鳴が轟く。
空に不吉な文字が浮かぶ。
『次回、ピーマン教皇編!』
「だから誰が書いてるんですのぉぉぉぉぉっ!」
エマの悲鳴が王国全土へ響いた。




