第二話 侯爵令嬢はブロッコリーを見ると死ぬ
第二話 侯爵令嬢はブロッコリーを見ると死ぬ
国王から指名手配された薫たちはひとまず近くの森へ逃げ込んだのだが、その森は普通の森ではなく遠目にはただの森に見えるのに近づくと全ての木が巨大ブロッコリーで構成されているという嫌がらせのような場所であり、その光景を目撃したエマは三歩歩いたところでその場に崩れ落ちた。
「エマぁぁぁぁぁっ!」
「死にましたわ……」
「生きてるじゃねえか!」
「精神的には死んでいますわ!」
「便利な死だな!」
エマはガタガタ震えながら薫の後ろへ隠れたが、どう考えても隠れられておらず金髪縦ロールが左右にはみ出していた。
「そもそもなんでそんなに野菜が嫌いなんだよ」
「小さい頃にブロッコリーを見たからですわ」
「理由になってねえ!」
「幼い頃のわたくしは庭で遊んでいましたの、すると植木の向こうから突然ブロッコリーが現れて」
「ただ生えてただけだろ」
「わたくしは悟りましたの」
「何を」
「世界は信用できないと」
「重すぎる!」
そんな会話をしていると突然空から巨大な原稿用紙が降ってきた。
薫が拾い上げる。
表紙にはこう書かれていた。
『週刊ベジ菜』
「なんだこれ」
マンドゴラが息を呑んだ。
「伝説の雑誌だ」
「雑誌なのか」
「毎週発行されるが読者は全員野菜だ」
「需要どこだよ」
ページをめくる。
そこには今週の人気野菜ランキングが掲載されていた。
一位 じゃがいも
二位 玉ねぎ
三位 キャベツ
四位 トマト
五位 ブロッコリー
マンドゴラは震え始めた。
「まさか……!」
「どうした」
「我が圏外だ……」
「当たり前だろ」
「打ち切りだぁぁぁぁぁっ!」
「野菜人生を連載漫画みたいに言うな!」
マンドゴラはショックで地面に穴を掘り始めた。
その時だった。
森の奥から重々しい声が響く。
「見つけたぞ勇者」
大地が揺れる。
木々が倒れる。
巨大な影が現れる。
現れたのは筋骨隆々の男だった。
ただし頭がニンジンだった。
「うわぁ」
「コメントが雑ですわね」
男はマントを翻した。
「我こそ野菜嫌い四天王が一人、ニンジン将軍カロテン!」
「野菜じゃねえか!」
「野菜嫌いの四天王なのに!?」
「ふふふ、私は野菜が大嫌いだ」
「お前ニンジンじゃん!」
「だから嫌いなのだ!」
「面倒くせぇ!」
カロテン将軍は泣きながら拳を振り上げた。
「私は毎朝鏡を見る度に絶望している!」
「知らねえよ!」
「顔がニンジンだからな!」
「知ってるよ!」
「野菜を滅ぼせば私も消える!」
「消えるじゃん!」
「本望!」
「生きろ!」
薫はなぜか説教を始めていた。
だがカロテン将軍は既に戦闘態勢に入っていた。
「勇者よ! 決闘だ!」
「よし来い!」
薫は近くの畑からキャベツを引き抜いた。
なぜ森に畑があるのかは誰も気にしなかった。
キャベツは巨大な盾へ変化する。
「キャベツシールド!」
ドゴォォォン!
カロテン将軍の拳を受け止める。
すると将軍はニヤリと笑った。
「ならば見せてやろう」
「何を」
「回想だ」
「突然!?」
次の瞬間辺り一面が白黒になった。
「いやなんで回想始まるんだよ!」
「強敵は回想するものだろう!」
「漫画の文法を現実に持ち込むな!」
カロテン将軍は遠い目をした。
「五歳の頃だった」
「聞いてない」
「野菜炒めの中で暮らしていた私は」
「特殊な生い立ちだな!」
「仲間達が次々と食べられていった」
「怖ぇな!」
「ピーマン……タマネギ……モヤシ……」
「重苦しい雰囲気出してるけどお前ら野菜だろ!」
「そして私は決意した」
「何を」
「食べられる前に食べる側になると」
「その結果がこれ!?」
エマが頭を抱えた。
「もうツッコミが追いつきませんわ!」
その瞬間マンドゴラが飛び出した。
「任せろ!」
「お前に何ができる」
「人気投票圏外パンチ!」
「知らん技だな!」
マンドゴラの頭突きがカロテン将軍の腹へ直撃する。
しかし全く効いていなかった。
逆にマンドゴラの方が転がっていった。
「弱っ!」
「今のはサービスだ」
「何の!」
カロテン将軍が豪快に笑う。
だが薫は冷静だった。
「分かったぞ」
「何がだ」
「お前、本当は野菜が嫌いなんじゃない」
「なに?」
「お前は自分がニンジンなのを受け入れられないだけだ」
森が静まり返る。
エマですら口を閉じた。
カロテン将軍の拳が震える。
「黙れ」
「認めろよ」
「黙れ!」
「ニンジンは悪くないだろ!」
薫は巨大なニンジンを引き抜いた。
そしてそれを将軍へ突き出す。
「ほら見ろ」
「なんだこれは」
「ニンジンだ」
「知っている!」
「うまいぞ」
「なっ……」
「甘いし栄養もあるしカレーにも入る」
「やめろ……」
「お前は立派なニンジンだ」
将軍の目から涙が流れた。
「私は……」
「うん」
「私はニンジンだったのか……」
「最初からそうだよ!」
エマの全力ツッコミが森中に響き渡った。
次の瞬間カロテン将軍の身体が光に包まれる。
「ありがとう勇者よ」
「成仏するな!」
「私はようやく己を受け入れられた」
「だから成仏するな!」
光が弾ける。
そして将軍は普通の人間になっていた。
「戻った!?」
「実は呪われていたのだ」
「そんな設定今生えたぞ!」
「さらば勇者よ」
そう言い残してカロテン将軍は走り去っていった。
ものすごくきれいな終わり方だった。
しかし薫たちは気付いていなかった。
森の奥の崖の上。
黒い法衣の男が彼らを見下ろしていた。
男の背後には巨大なトマトの紋章。
「面白い勇者だ」
不気味な笑みを浮かべる。
「だが次はトマト審問官が相手だ」
雷鳴が轟く。
その直後なぜか空から「来週も読んでくれよな!」という文字が降ってきた。
「誰が書いてるんですのこの世界はぁぁぁぁぁっ!」
エマの悲鳴がベジブロッコリーの森に響き渡った。




