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第三章: 白い塔 第二話

第二話「森の魔物」

ルクティアの町を出る。

白い塔へ続く道を、三人は歩いていた。

町を離れるにつれて、周囲の景色は少しずつ森へと変わっていく。

しばらく歩いたところで、タケが口を開いた。

「なあ、クレア」

「なに?」

「さっき爺さんが言ってたけど……この先、魔物が出るんだよな?」

「ええ。そう聞いているわ」

「クレアは、魔物のこと詳しいのか?」

クレアは少し考える。

「……全部を知っているわけじゃないわ」

「魔物にも、いろいろな種類がいるから」

「見た目も違えば、持っている力も違う」

「中には――」

クレアは前を見ながら続ける。

「魔法を使う魔物もいるわ」

タケが反応する。

「魔物も魔法を使うの?」

「ええ」

クレアは頷く。

「魔法は、体内にある魔素を使って生成するの」

「魔素……?」

「簡単に言えば、魔法を使うための力ね」

「生まれつき持ってるものなのか?」

「そう。量には個人差があるわ」

クレアは少し考えてから続ける。

「それに、魔法には相性もあるの」

「相性?」

「ええ」

「人によって、得意な属性が違うのよ」

「じゃあ、クレアは?」

タケが尋ねる。

クレアは少しだけ考えるように目を細める。

「私は……水と風ね」

「水と風?」

「ええ。その二つとは相性がいいの」

タケは少し興味深そうにクレアを見る。

「じゃあ、クレアって結構魔法が得意なんだな」

「……まあ、それなりにね」

クレアは少しだけ視線を逸らした。

その横で、リゼが楽しそうに二人の会話を聞いていた。

タケは少し考えてから、クレアに声をかける。

「はい、クレア先生」

「誰が先生よ……」

クレアが少しだけ眉を寄せる。

「いや、魔法について詳しそうだから」

「別に、先生じゃないでしょう」

「まあまあ、それで……」

タケは少し興奮した様子でクレアを見る。

「もしかして、自分にも魔法が使えたりしますかね?」

「……」

クレアはすぐには答えなかった。

少し考えるようにタケを見つめると、やがてタケの方へ身体を向ける。

「ちょっと待って」

そう言って、クレアはタケの肩にそっと手を触れた。

「……」

しばらくの間、クレアは何かを確かめるように目を閉じる。

そして――

ゆっくりと目を開いた。

「タケ、あなた……」

「はい?」

クレアは少し言いにくそうに、タケを見る。

「魔素が……全くないわね」

「え……」

タケの表情が固まる。

「全く……?」

「ええ」

クレアは少し同情するような目を向ける。

「残念だけど……あなたに魔法の素質はないわ」

「…………」

タケはしばらく黙り込んだ。

異世界。

魔法。

そして、自分にも使えるかもしれないという期待。

その全てが、あっさりと打ち砕かれた。

「……そうですか」

タケは肩を落とした。

タケが肩を落としていると、二人の間にリゼがそっと割って入った。

「でも……」

タケとクレアがリゼを見る。

「タケさんは、精霊さんに好かれてますよね?」

「……そうなの?」

タケは意外そうにリゼを見る。

リゼは小さく頷いた。

「遺跡から町へ帰る途中なんですけど……」

「森の精霊さんたちが、タケさんのところへ寄っていました」

「え……?」

タケは思わず振り返り、少し離れたルクティアの町の方を見る。 

「精霊さんは、人見知りなので……」

「……あまり、自分から人に近づいたりしません」

そう話したリゼは、少し恥ずかしそうに視線を下げる。

「私と……同じなので……」

「……」

タケは一瞬、リゼを見つめる。

そして、少しだけ笑った。

「なるほど……」

クレアは少し考えるように黙った。

「……私は詳しくないけど」

「この世界には、精霊の力を借りて、魔法と同じようなことができる人もいるらしいわ」

「精霊の力……?」

タケが聞き返す。

クレアはタケを見る。

「ええ」

「もしかしたら、タケはそっちの素質はあるかもしれないわね」

「……!」

その言葉を聞いた瞬間、タケの頭に、月見の遺跡での出来事がよみがえった。

月影との戦い。

あの時――

頭の中に、剣を振るうイメージが流れた。

自分が考えたわけでもない。

それなのに、身体がその動きを理解していたような感覚。

「……あれも、精霊の力だったりするのかな……」

タケは一人、考え込む。

そんなタケの様子を見て、クレアが静かに声をかける。

「焦らなくていいわよ」

「これから少しずつ、経験を積んでいけばいいの」

そして、少しだけ微笑む。

「私とリゼもついているから」

「……」

タケが顔を上げる。

するとリゼも、クレアの言葉に続くように一歩前へ出た。

「任せてください」

そう言って、リゼは小さな胸を張り、腕を組んだ。

そうして三人は、森の中へと進んでいった。

奥へ入っていくにつれ、木々の隙間から差し込んでいた太陽の光も、次第に少なくなっていく。

遠くからは、聞き慣れない獣の声。

風に揺れる木々の音が重なり、森の奥から不穏な空気が漂ってくる。

その時だった。

先を歩いていたリゼが、何かに気づいた。

足を止め、前方を指差す。

「……何か来ますっ」

その声を聞いた瞬間、タケとクレアも足を止める。

二人はすぐに武器を構えた。

「……来るわね」

クレアが低い声で呟く。

草木をかき分ける音が、徐々に大きくなっていく。

ガサッ――

ガサガサッ――

三人は、音のする方向を見つめる。

そして――

森の奥から、何かの影が姿を現そうとしていた。

目の前に現れたものの姿を見て、タケが思わず口にする。

「狼……?」

灰色の毛。

鋭い目つきに、白い牙が目立つ。

「グルルルッ……」

低い唸り声。

明らかに自分たちへ敵意を向けた二頭の獣が、道を塞ぐように立ちはだかっていた。

クレアはすぐに、タケとリゼへ向かって手を伸ばす。

その指先に、淡い光が灯る――

瞬間。

タケは、自分の身体がふっと軽くなるのを感じる。

次の瞬間――

二頭の獣が、同時に飛びかかってきた。

一頭はタケへ。

もう一頭はクレアへ。

「っ!」

タケは、自分へ迫ってくる獣を見つめる。

速い――。

けど。

クレアの魔法のおかげもあるのか。

「……月影に比べれば……」

目で追えないほどの速さではない。

反応も、わずかに早く感じる。

獣の牙が迫る。

タケは地面を片足で強く蹴った。

身体を反転させ、紙一重で牙をかわす。

そして――

「そこだっ!」

すれ違いざまに、短剣を獣の首元へ突き立てた。

「ギャウンッ!」

獣が悲鳴を上げる。

そのまま地面へ倒れ込んだ。

しばらくしても、起き上がる様子はない。

「……倒せた」

タケは短く息を吐いた。

だが、安堵したのも一瞬だった。

「クレアは!?」

慌てて振り返る。

そこには――

すでに地面へ倒れた獣と、

その横で、剣に付いた血を静かに拭うクレアの姿があった。

「……」

タケは言葉を失った。

クレアは何事もなかったかのように剣を鞘へ収める。

『……早すぎないか?』

タケが心のなかで呟く。

クレアは少しだけ振り返った。

「何?」

「いや……なんでもない」

タケは苦笑した。

タケはもう一度、短く息を吐いた。

両手を腰に当て、少し得意げにクレアへ話しかける。

「これくらいの魔物なら、俺でも戦えるな」

タケの言葉に、クレアはきょとんとした顔をする。

「……これは、ただの狼よ」

「……え?」

タケの表情が固まった。

「……魔物じゃないの?」

「ええ」

クレアは不思議そうに首を傾げる。

「普通の狼よ」

「……」

タケは、先ほど倒した狼へ視線を向ける。

「……じゃあ俺、今……」

「ええ」

クレアは淡々と答える。

「狼と戦っただけね」

「…………」

タケは何とも言えない顔で、もう一度狼を見る。

「……魔物が出るって聞いてたんだけど」

「だから言ったでしょう?」

クレアは少しだけ呆れたように言った。

「魔物にも、いろいろいるって」

「いや、それは聞いたけど……」

タケは小さく肩を落とした。

どうやら、初戦闘で得た自信は――

少し早かったらしい。

三人は再び、森の奥へと足を進める。 

リゼが先ほどの戦いを思い出すように、興奮ぎみに口を開いた。

「――でも……タケさんっ」

「凄かったです」

リゼは嬉しそうに身振り手振りを交えながら続ける。

「ヒューンってかわして……」

「ズバーッと斬って……」

まるで自分が戦っていたかのように、楽しそうに話すリゼ。

その姿を見て、タケは少しだけ救われた気がした。

「……ありがとう、リゼ」

リゼは首を傾げる。

そして、少し照れたように微笑んだ。

「……どう……いたしまして?」

そんな二人のやり取りを見ていたクレアが、タケに話し掛ける。

「タケ、魔物というのはね――」

だが、クレアは途中で言葉を止めた。

タケも、今度は気づいた。

「……?」

草木をかき分ける音。

それが、先ほどよりも明らかに多い。

ガサッ――

ガサガサッ――

三人は足を止める。

そして、すぐに戦闘態勢へ入った。

「……来ます」

リゼが小さく呟く。

少し先の草木が揺れる。

その向こうから――

何頭もの狼が、こちらへ向かって走ってくるのが見えた。

「……また狼?」

タケが呟く。

だが――

何かがおかしい。

狼たちはこちらを襲おうとしているわけではなかった。

ただ、必死に走っている。

「……何かから、逃げている?」

タケがそう呟いた瞬間――

ドォンッ!!

森の奥から、大きな音が響いた。

木々が揺れる。

草木が、まるで何かに薙ぎ倒されるように吹き飛んだ。

「なに……!?」

次の瞬間――

逃げていた狼の何頭かが、宙へ持ち上げられた。

「ギャウンッ!」

森の奥から伸びてきた巨大な手が、狼たちを掴んでいた。

「……っ!」

タケたちは息を呑む。

巨大な手は狼たちを捕らえたまま、森の奥へと引き戻していく。

そして――

森の奥から、低い唸り声が響いた。

「グルルルル……」

やがて、巨大な手は狼たちとともに、木々の向こうへと消えていった。

「……何、今の?」

タケは息を呑む。

クレアも剣を構えたまま、森の奥を睨んでいる。

「……分からないわ」

「クレアにも?」

「ええ……」

「少なくとも私は……あんな魔物を知らない」

その言葉に、タケは思わず森の奥を見る。

さっきまで聞こえていた狼の鳴き声も、もう聞こえない。

代わりに――

ズシン……

ズシン……

地面がわずかに揺れた。

「……来る」

クレアが小さく呟く。

森の木々が大きく揺れる。

一本、また一本と、枝葉が激しくざわめいていく。

巨大な何かが、こちらへ近づいてくる。

タケは短剣を握り直した。

「……あれが、魔物……?」

クレアは答えない。

ただ、静かに剣を構える。

そして――

森の奥から、巨大な影がゆっくりと姿を現した。

クレアは目の前の魔物を見据えたまま、口を開いた。

「タケ……さっきの話の続きだけど」

そう言って、クレアは一瞬だけタケに視線を向けた。

「これが、魔物よ」

その巨体は、ゆうに五メートルを超えていた。

額には、鋭く上へ反った二本の角。

目は赤一色で、瞳孔はない。

その目が何を見ているのかすら分からない。

口の両端からは、鋭い牙が覗いている。

筋肉隆々の身体は、黒がかった緑色。

その全身には――

黒紫色の禍々しいオーラがまとわりついていた。

タケは、目の前の存在を見上げる。

その姿は、まるで――

「……鬼」

タケが、思わず呟いた。

クレアがタケの言葉に反応する。

「オニ?」

タケは魔物から目を離さないまま答えた。

「いや、もとの世界で……」

「架空の生き物なんだけど、よく似てて……」

そこで、タケは我に返った。

「って、そんなこと言ってる場合じゃないよね」

クレアにも余裕はない。

それでも、目つきを鋭くしたまま、ふっと笑った。

「そうね!」

そう答えると同時に、クレアは両手をタケとリゼにかざした。

続いて、自分自身にも魔法をかける。

身体が軽くなる――。

瞬間。

魔物が大きく右手を振り上げる。

そして――

タケに向かって、勢いよく振り下ろした。

「……っ!」

タケは咄嗟に後ろへ飛び、その攻撃をかわす。

動きは遅い……。

だが――

ドォンッ!

魔物の振り下ろした拳が地面を抉る。

その音と、目の前で大きく抉れた地面を見て。

タケの額に、冷たい汗が流れる。

「一度でも当たったら、終わりだな……」

魔物がゆっくりと拳を地面から引き抜く。

土煙の向こうから、赤い目がタケたちを捉える。

――何を見ているのか分からない目。

それでも。

次に狙われるのが誰なのかだけは、はっきりと分かった。

魔物が再び身体を沈める。

「……来るっ!」

タケが叫んだ瞬間――

「タケ、右よ!」

クレアの声が響く。

「――っ!」

タケが右へ飛ぶ。

直後。

ブォンッ!!

巨大な腕が、タケのいた場所を薙ぎ払った。

風圧だけで身体が持っていかれそうになる。

「危なっ……!」

着地したタケが顔を上げる。

すると、魔物の背後からクレアが駆け出していた。

クレアが剣を構える。

その刀身に左手を添え、短く詠唱する。

刀身が淡い緑色に光る。

その光はやがて、透き通った風の衣へと変わり、刃を包み込んでいく。

「こいつは――」

クレアの瞳が鋭くなる。

「ただの魔物じゃないわ」

その言葉と同時に。

クレアが魔物へ向かって、一気に踏み込んだ。

ザンッ!

鬼の背後、肩から背中へかけて、一太刀を浴びせる。

瞬間。

その斬撃に沿って風が吹き荒れ、さらに傷口を抉っていく。

「グォォ……!」

その叫びで、魔物にダメージが入ったことがわかる。

だが――決定打には程遠い。

魔物は傷を受け、さらに激しく暴れ始める。

その巨大な腕を、何度も振り回す。

クレアもタケも、寸前でその攻撃をかわしていく。

少し離れた場所では、リゼがその光景を見つめたまま固まっていた。 

「……怖い」

リゼが初めて目にする魔物。

その禍々しい姿。

凶暴さ。

今まで感じたことのない恐怖に、身体が動かなかった。

しかし――

魔物は止まる気配を見せない。

振り回したその腕が、リゼへと襲いかかる。

「リゼッ!」

タケが叫ぶ。

「ひっ!」

リゼは咄嗟に目を瞑る。

次の瞬間。

タケが駆け出し、リゼを抱えて横へ飛んだ。

ドォンッ!!

魔物の拳が地面を抉る。

その衝撃で、地面の破片が周囲へ飛び散った。

「……っ!」

その一つが、タケの頬をかすめる。

さらに、抱えたリゼとともに地面へ転がったことで、腕も強く擦った。

「……タケさんっ……」

タケに抱えられたまま、リゼは彼の顔を見つめた。

今にも泣き出しそうな顔だった。

「ち、血が……」

タケは自分の身体を確認する。

頬から血が流れ、腕にも、地面に転がったときにできた傷から血が滲んでいた。

どちらも深い傷ではない。

「ん、ああ」

タケは自分の傷を気にする様子もなく、リゼに尋ねた。

「リゼに怪我はない?」

「わ、私は……何も……」

震えるリゼに、タケは少し笑って話しかける。

「なぁ、リゼ」

「あの魔物な、鬼に似てるんだ」

リゼは意味が分からず、首を傾げる。

「は、はい?……オニ?」

タケは続ける。

「俺の知ってる物語に出てくる悪者なんだ」

「でも最後はね……」

「正義が勝つようになってるんだよ」

そう言って、タケは勢いよく魔物の元へ駆けていく。

タケとクレアは、なるべく魔物がリゼを標的としないように立ち回る。

リゼは、タケたちの戦いを見つめる。

その姿を見ながら、二人との時間を思い返した。

あの時――

遺跡に一人でいた自分に、手を差し伸べてくれたタケのこと。

優しく、時には厳しく、自分と向き合ってくれるクレアのこと。

そして――

三人で話す、暖かい時間のこと。

リゼは胸の奥に残る、その温かさを思い出す。

今、その二人が危険にさらされている――

まだ怖い――

私は、ここに立っているだけでいいのかな――

違う。

リゼは、決意した。

『逃げちゃダメだ』

『私も、この場所を守るんだ』

リゼは胸元で両手を組み、祈るように詠唱を始める。

その瞬間――

リゼの身体から魔力が溢れ始めた。

その気配を、クレアがいち早く察知する。

「タケ!」

「……え!?」

「そのまま注意を引いてっ!」

クレアの意図は分からなかった。

それでも、タケはクレアを信じる。

「……っ、わかった!」

タケは再び魔物へ向き直る。

リゼは詠唱を続ける。

すると――

リゼの足元に、淡い光を放つ魔法陣が浮かび上がった。

魔法陣は徐々に輝きを増していく。

リゼは魔物を一瞬だけ見つめる。

それから、静かに考える。

(これじゃ……足りない……)

小さく息を吸い、リゼは声に出す。

「月影さん……」

その声に反応するように――

リゼの両隣に、二つの光が現れた。

淡い光は徐々に形を成していく。

そして――

二体の月影が、その姿を現した。

その姿は、以前の黒く禍々しいものとはまるで違っていた。

白く輝く身体。

月明かりをまとったような、凛とした佇まい。

どこか神聖さすら感じさせる美しい姿。

リゼは二体の月影を見つめる。

「……」

やがて、再び詠唱を続ける。

すると――

二体の月影も、リゼの動きをなぞるように、ゆっくりと胸元で手を組んだ。

祈るような姿勢。

二体の月影自身も、静かに詠唱を始める。

その足元に――

二つの魔法陣が浮かび上がった。

三つの魔法陣が、淡い光を放ちながら重なっていく。

その瞬間。

周囲の空気が変わった。

森の中を流れていた風が止まり、空気そのものが震える。

膨れ上がっていく魔力。

その大きさに、クレアが思わず目を見張る。

「……あの子……」

周囲の異変に気づき、魔物がリゼの方を振り向く。

それにつられるように、タケもリゼを見る。

そして――

初めて見る、その光景に目を奪われた。

「……これが……リゼの魔法……」

あまりの光景に、タケは呆気にとられ、動きを止めてしまう。

しかし――

その状況でも、クレアは冷静だった。

「……!」

クレア自身が風を纏う。

次の瞬間――

ヒュンッ!

一気に跳び上がり、魔物の顔の高さまで駆け上がる。

そのままの勢いで剣を振り抜いた。

ザンッ!

魔物の片目を斬り上げる。

「グォォォォッ!」

魔物が大きくよろめいた。

直後――

「いきますっ!」

リゼが叫ぶ。

すかさず、クレアも叫んだ。

「タケ!」

名前を呼ばれただけだった。

けれど――

今度は、その意図がすぐに分かった。

――このままでは、自分も巻き込まれる。

「……っ!」

タケは勢いよく横へ飛び、魔物から距離を取る。

その瞬間――

リゼから、一筋の閃光が放たれた。

――バシュゥゥッ!!

凄まじい光が、森を白く染める。

「……っ!」

タケはあまりの眩しさに、思わず目を閉じた。

そして――

辺りが、シン……と静まり返る。

タケはゆっくりと目を開けた。

「…………」

目の前には、魔物が立っている。

二本の足だけが――

そこに残っていた。

「……外した?」

一瞬、そう思った。

だが――

タケはゆっくりと視線を上げる。

目を見開いた。

「…………っ」

二本の足。そこから上が――消し飛んでいた。

その向こうで――

リゼがその場に座り込んでいた。

肩で大きく息をしながら、俯いている。

白い月影が、そんなリゼの両隣に静かに佇んでいた。

やがて、その身体が淡い光へと変わり始める。

ゆっくりと――

二体の月影は、その姿を消していった。

静まり返った森の中、タケとクレアはリゼの元へ駆け寄った。

リゼはその場に座ったまま、二人を見上げた。

疲れ切っているはずなのに――

その顔には、小さな笑みが浮かんでいた。

「私……守れましたか?」

タケは一瞬、リゼの顔を見つめる。

そして――

ポンッ。

優しく、リゼの頭に手を置いた。

「立派な鬼退治だった」

「……!」

リゼは少し驚いたように目を見開き――

やがて、照れくさそうに俯いた。

「……はい」

その様子を、クレアは隣で静かに見つめていた。

そして――

ふっと、微笑む。

けれど、その表情はすぐに少しだけ曇った。

クレアは先ほどの魔法を思い返す。

あの魔力。

あの威力。

(……あれは……)

クレアはリゼを見る。

(明らかに、人の持つ魔力の域を越えている……)

胸の奥に、わずかな疑問が残った。

――この子はいったい、何者なのだろう。

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