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君を想う  作者: 風海
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9/20

和葉は息をきらしたまま、教室に入った。

 すでに、朝のホームルームが、始まっている。


「おはようございます」

「早くないだろう。和葉」

 


 遅刻した和葉が教室に入ると、親友の河原祐から呆れた声が返ってきた。

 朝の名物となっているやり取りに、クラスメートたちが苦笑する。

 

 和葉は新しい制服を着て、担任の横に立っている夏樹に視線を向けた。

 

 笑顔でクラスメートたちからの質問に答えており、昨日和葉に見せた冷たい表情はどこにもない。


 暗殺者としての表情。

 高校生としての穏やかな眼差し。


 どちらが、本当の「彼」なのだろうか?


 素顔は仮面に隠されて、見ることができない。

 


 同じクラスだなんて、聞いていなかった。


「和葉も同じクラスなら、遅刻するなよ」

「私、嫌われているからね」

 

 祐の言葉に、和葉は席に着く。

 朝、和葉が起きた時には、夏樹はいなかった。

 夏樹とも必要最低限の会話しかしていない。


 高校に入れたのも、雄一の紹介があったからだろう。

 だが、夏樹には別の目的があるようだった。


「師範の説明はどうだった?」

 

 祐の言葉に和葉は、乾いた笑みを浮かべた。


「非現実的な話ね。頭が痛くなりそう」

「非現実的?」

「映画や小説にあるような内容だったわ」

 

 不意に和葉の表情が、僅かに曇った。


「世話はどうした?」

「断ったわ。今の生活を、壊されたくないの」

「どうして? 幼馴染だろう?」


 仲良くないのかと。

 友達ではないのかと。


「私には、関係ないわ」

 

 和葉は祐との会話を、打ち切った。

 

 祐が不審そうな視線を、和葉に送る。


「おはよう、木本」

「おはよう。桜井君」

 

 二人の間に、緊張が走った。


 久しぶりに再会した幼馴染とは聞いていたが、笑顔はない。

 夏樹は手慣れた様子で、教科書を並べていく。


 人の気持ちに敏感な祐は、眉を顰めた。

 

 一般人が身に纏う空気ではない。


 全身に鳥肌が立った。

 気を張っておかなければ、彼の暗い感情に飲み込まれそうだった。


「初めまして。河原祐です」

「桜井夏樹です」


 建前もあり握手はしたものの二人の視線が、交わることはなかった。


 夏樹は黒板の内容を写すことなく、外を見ている。

 誰かを捜しているようだった。


 何かを求めているかのようだった。

 彷徨っていた視線が、一か所でとまった。

 祐が夏樹の視線を辿ると、南校舎の屋上を眺めていた。


 遠くてよく見えなかったが、人影がある。


 人物の性別まで、断定できなかった。


 夏樹は何事もなく、視線を逸らした。


 今度は真面目に、黒板内容を、写し始める。

 和葉が心配そうにこちらを見ていた。


 祐は心配ないと、笑って返した。


 全てを拒絶しているガラス玉の瞳。

 力をこめれば、一瞬で砕けてしまいそうな危うさ。


 思い出したのは、血が通っていないような冷たい手。

 

 凍りついた眼差し。

 読み取れない感情。


 誰かに命じられて、動くだけの人形みたいだった。


 追いかけて方がいいかもしれない。


 彼が壊れてしまう前に。


 祐は授業を聞き流しながら、考えていた。

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