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君を想う  作者: 風海
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第四章1

和葉は息をきらしたまま、教室に入った。

 すでに、朝のホームルームが、始まっている。


「おはようございます」

「早くないだろう。和葉」

 


 遅刻した和葉が教室に入ると、親友の河原祐から呆れた声が返ってきた。

 朝の名物となっているやり取りに、クラスメートたちが苦笑する。

 

 和葉は新しい制服を着て、担任の横に立っている夏樹に視線を向けた。

 

 笑顔でクラスメートたちからの質問に答えており、昨日和葉に見せた冷たい表情はどこにもない。


 暗殺者としての表情。

 高校生としての穏やかな眼差し。


 どちらが、本当の「彼」なのだろうか?


 素顔は仮面に隠されて、見ることができない。

 


 同じクラスだなんて、聞いていなかった。


「和葉も同じクラスなら、遅刻するなよ」

「私、嫌われているからね」

 

 祐の言葉に、和葉は席に着く。

 朝、和葉が起きた時には、夏樹はいなかった。

 夏樹とも必要最低限の会話しかしていない。


 高校に入れたのも、雄一の紹介があったからだろう。

 だが、夏樹には別の目的があるようだった。


「師範の説明はどうだった?」

 

 祐の言葉に和葉は、乾いた笑みを浮かべた。


「非現実的な話ね。頭が痛くなりそう」

「非現実的?」

「映画や小説にあるような内容だったわ」

 

 不意に和葉の表情が、僅かに曇った。


「世話はどうした?」

「断ったわ。今の生活を、壊されたくないの」

「どうして? 幼馴染だろう?」


 仲良くないのかと。

 友達ではないのかと。


「私には、関係ないわ」

 

 和葉は祐との会話を、打ち切った。

 

 祐が不審そうな視線を、和葉に送る。


「おはよう、木本」

「おはよう。桜井君」

 

 二人の間に、緊張が走った。


 久しぶりに再会した幼馴染とは聞いていたが、笑顔はない。

 夏樹は手慣れた様子で、教科書を並べていく。


 人の気持ちに敏感な祐は、眉を顰めた。

 

 一般人が身に纏う空気ではない。


 全身に鳥肌が立った。

 気を張っておかなければ、彼の暗い感情に飲み込まれそうだった。


「初めまして。河原祐です」

「桜井夏樹です」


 建前もあり握手はしたものの二人の視線が、交わることはなかった。


 夏樹は黒板の内容を写すことなく、外を見ている。

 誰かを捜しているようだった。


 何かを求めているかのようだった。

 彷徨っていた視線が、一か所でとまった。

 祐が夏樹の視線を辿ると、南校舎の屋上を眺めていた。


 遠くてよく見えなかったが、人影がある。


 人物の性別まで、断定できなかった。


 夏樹は何事もなく、視線を逸らした。


 今度は真面目に、黒板内容を、写し始める。

 和葉が心配そうにこちらを見ていた。


 祐は心配ないと、笑って返した。


 全てを拒絶しているガラス玉の瞳。

 力をこめれば、一瞬で砕けてしまいそうな危うさ。


 思い出したのは、血が通っていないような冷たい手。

 

 凍りついた眼差し。

 読み取れない感情。


 誰かに命じられて、動くだけの人形みたいだった。


 追いかけて方がいいかもしれない。


 彼が壊れてしまう前に。


 祐は授業を聞き流しながら、考えていた。

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