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「お休みのところ、申し訳ありません。私、凶悪犯暗殺部隊に所属している木本雄一と申します。
「暗部か……夏樹のことでしょうか?」
どうやら、部隊の存在を知っていたらしい。
さすがに、アンドロイド対策特殊暗殺部隊に、所属していただけある。
落ち着いた反応が、返ってきた。
「捜査に協力してくれませんか?」
「わかりました。協力しましょう」
「ありがとうございます」
「それでは、日本でお会いしましょう」
携帯端末を切ると、香月はため息をついた。
「木本さんですよね?」
香月の凛とした声がした。
「桐原君だな?」
「はい」
雄一は夏樹に、握手を求めた。
香月は雄一の手を、握り返す。
握り返した手に、銃やナイフを使っている形跡は、残っていない。
「呼び出して、悪かったな」
香月の不思議な色をした瞳が、まっすぐ見つめてきた。
同年代の和葉より大人びて見えるのは、自由の国――アメリカで暮らしているからだろう。
あとで、夏樹と知り合いだったことを知った。
どちらにしろ、元アンドロイド対策特殊警察部隊のブランド名を、利用しないわけにはいかなかった。
見逃すわけにはいかなかった。
「本題に入りましょう」
「難しい常用だな。夏樹君の手がかりを掴めない」
「私が夏樹に会いましょうか?」
「会えるのか?」
どこにいるのか、わかるのかと。
雄一の言葉に、香月は瞳を細めた。
夏樹のことを、本気で心配していることがわかる。
「おそらく、次に姿を見せるのは、山口コーポレーションのところでしょう」
「どうして、そう言いきれる?」
「対策本部、元情報員からの話です。それに、組織の頂点に立つ者の言葉は絶対です」
すでに、調べはついていると。
いつでも、動けると。
「君を信じてもいいな?」
裏切ることはなのかと。
本当に味方になってくれるのかと。
「私は夏樹を助けたいだけです」
あなたも同じでしょう?
だから、頼ってきたのではないかと。
協力をしてきたのではないかと。
「私も同じだ」
「絶対に許せません」
香月の身に纏う空気が、冷たいものへと変わっていった。
まだ、会ったこともない男に怒っている証拠だった。
「明日から動きます」
「ああ――頼む」
香月は荷物を持って、立ち上がった。
圧倒的な威圧感から解放され、雄一はため息をつく。
窓から見えていた香月の姿は、雑踏の中へと消えていった。
「そっちはどうだ」
「変わりはありません」
「ただ、一つだけ気になることがあります。「桜」とは夏樹の両親のことですか?」
組織内で使われているコードネームみたいなものだろう。
「そうだ」
「やはり、死亡していたのですね」
隠していてすまない。
何となく気が付いていたと。
感づいていたと。
「いえ、予想はしていたことなので、謝らないでください」
「夏樹君には、会ったのか?」
まだです。
「無理はするな。何かあれば、すぐに引き上げること。いいな?」
「わかっています。それでは、失礼します」
香月は携帯端末を切ると、視線を外に向ける。
今回、協力者として日本にきた。
そして、自らの実力を示して、組織に潜入した。
桐原空と愛も、日本に向かっていることだろう。
「降りだしたか」
雨の滴が窓を濡らしていった。
うっとうしい。
香月は興味がないといいわんばかりに、瞳を閉じる。
一人しかいない部屋に、雨の音が響く。
それが、夏樹の叫びにも似ていて。
悲しかった。
寂しかった。
きっと、今もどこかで孤独さと戦っているだろう。
押し潰れそうな気持ちを隠して。
誰にも素顔を見せないまま。
助けを求めないまま。
出口さえ見つけることさえできないまま。
答えを探して、走り続けている。
降り続く雨はなくことができない夏樹の変わりに、泣いてくれているのだろうか?
泣くことを忘れてしまった夏樹のために。
大丈夫。
お前は一人じゃないよ。
僕たちがいる。
手を伸ばせば、届く距離に――範囲にいる。
支えられる温もりがある。
忘れないで。
それだけは、覚えておいて。
大切な人を傷つけた代償は重いよ。
覚悟しおいてよ、ボス。
香月は閉じていた瞳を、開いた。
迷いなどなかった。
夏樹との再会が、近づいていた。




