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「木本」
「来ていたのね」
階段をおりたところで、夏樹は和葉と会った。
三人分の教科書を持っていることから、祐と夏樹を捜しにきたのだろう。
祐と衝突してから、数週間――夏樹が学校に登校することはなかった。
家にも遅く帰宅して、怪我をしていることもあった。
「今、大丈夫か?」
「うん。大丈夫」
二人は人気がない場所で、向き合う
夏樹は不意に、和葉を抱きしめた。
終わらせて日本を出国すれば、二度と和葉に会うことはない。
日本の地を踏むことはない。
自分たちの道が、交わることはないだろう。
その前に幼すぎた初恋に、別れを告げようと。
彼女が笑っていられることに、願いを込めて。
「僕は和葉が好きだった」
「冗談はやめてよ」
「気持ちは知っているから、返事はいらない。引き止めて、悪かった」
今まで、ありがとう。
元気で、さようなら。
「――夏」
自分に呼び止める権利などない。
資格などない。
僕は和葉のことが、好きだった。
冗談はやめてよ。
自分のエゴで、夏樹を傷つけてしまった。
悲しき「蝶」へと戻る瞬間――。
桜井夏樹という存在が、消えてしまう。
いなくなってしまう。
私はバカだ。
和葉は冷たいコンクリートの上に、崩れ落ちる。
素直になった時には、遅かった。
遅すぎた。
見えない出口を求めて。
はばたくことを忘れた鳥は、暗闇を彷徨い続ける。
明日が見えないまま――。
走り続けていた。




