第五章1
雨に降られ立っている和葉を見て、祐は慌てて家の中に招き入れた。
温かいシャワーを浴びて、安心したのか和葉の表情は落ちつていた。
「ごめんなさい。私が夏樹をとめなければいけなかったのに」
「田崎もあいつも人に頼ることを知らないだけだ」
何のために自分たちがいるのだと。
机に置いてあった和葉の携帯端末が鳴った。
見知らぬ番号に、戸惑いを隠せなかった。
祐が和葉に代わって、通信にでる。
「どちら様でしょうか?」
「木本和葉さんの番号で、間違いないでしょうか?」
「私、木本雄一さんに護衛を頼まれた桐原愛と申します。この番号は、雄一さんから、聞きました」
今や国内屈指の企業となった会社の名前を、知らない者はいない。
アンドロイド戦争後――息子の桐原空が、後を継いでいた。
その大企業に嫁いだ人物が、自分たちを守ってくれるという。
祐は信じることができなかった。
「本当に私たちを、守ってくれると?」
「警戒するのも、当然でしょうね」
通信画面が切り替わって、愛たちのプロフィールが、送られてきた。
祐は経歴を見て、雄一の意図がわかった。
確かに、心強い味方となってくれるだろう。
「少しは信用していただけましたか?」
「わかりました。信用しましょう」
「あと、一つ疑問があります。桜井と貴方たちとの関係は?」
「アンドロイド戦争中に、私の弟が夏樹君を助けてからの付き合いだと聞いています。それではまた後で、お会いしましょう」
「お待ちしています」
何かあった時、自分たちだけでは太刀打ちできない。
ここで、死ぬなんて馬鹿げている。
命を捨てるなんて、もったいない。
「祐。誰だったの?」
会話が終わると和葉が、不安そうに尋ねてきた。
祐は安心させるように、和葉の肩に手をおく。
瑠依は何も話さずに、二人のやり取りを見ていた。
「師匠の紹介で、護衛がくる」
「護衛? 誰が来るの?」
「元アンドロイド対策特特殊警察部隊にいた人たちだ」
「有名人がくるのね」
「知っているのか?」
まるで、相手に会ったことがあるかのような反応だった。
芽依は表情を崩さずに、淡々としている。
「私たちの世界でも有名よ」
玄関のドアをこじ開けようとする音に、和葉は身体をこわばらせた。
どうやら、和葉が尾行されていたらしい。
用心のために鍵をかけているものの簡単に壊されてしまうだろう。
小さな物音がして、祐は振り返った。
いつの間にか、芽依が小型銃を構えている。
芽依の瞳はまだ見えぬ目標に向っていた。
「使うな」
「使わないと、全員殺されるわ」
一般人が手をだす問題ではないと。
「桜井の気持ちを無駄にするつもりか?」
芽依に銃をおろすように、説得した。
いつまでたっても、相手が侵入してくることはなかった。
祐が外にでると一人の女性が、男を返り討ちにしているところだった。
彼女は呼んでいた警察に、男の身柄を引き渡す。
パンツスーツがよく似合う女性だった。
「桐原さんですね?」
「ええ。そうよ」
「初めまして。桐原愛です」
「河原祐です」
「木本和葉です」
それぞれが自己紹介をして、握手をする。
「あなたとは久しぶりよね。田崎さん」
「夏樹をとめられなくて、ごめんなさい」
「あなたが、謝る必要はないわ。私たちも予想していたことよ」
だから、日本にきたのだと。
「こわくないですか?」
もし、殺されていたら。
生きていなかったら。
「生きているわ。あの子は大切なものができると、容赦なく突き放すことがあるの。許してあげてね」
信じているのだと。
「桜井も田崎も伝えることが苦手だと、わかっています」
「それだけで、十分よ」
祐の言葉に、愛は満足そうに笑う。
愛は芽依に視線を合わせた。
「それよりも、元気そうでよかったわ」
「桐原さんも元気そうで何よりです」
やはり、知り合いだったらしい。
芽依が愛に、警戒することはなかった。
「知り合いですか?」
和葉の質問に、愛は頷く。
さっきまで、黙っていた瑠依が、過去を話し始めた。




