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君を想う  作者: 風海
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数か月後――。


 親友の面影を残した少年の姿に、雄一は息をのんだ。

 まさか、暗殺部隊の最前線にいるとは思っていなかった。


 敵として向き合うとは、予想していなかった。


 戸惑いと絶望と。

 

 死と近い場所にいたなんて。


 見逃したら、二度と会えないかもしれない。

 助けられないかもしない。


 二人の思いが、ぶつかっていく。


「雄一さん?」

 夏樹の声は微かに、震えていた。雄一は銃を片付ける。

「私を撃てるなら、撃てばいい」

「命取りになりますよ?」

 

 この世界に甘さはいらない。

 優しさはいらない。


 それは、あなたもよくわかっているでしょう?


「君の性格はよく知っているよ。理解している」


 撃てない。


 雄一を撃てるわけがない。殺せるわけがなかった。


 夏樹は力一杯握りしめていた銃をおろす。


 放心している夏樹の腕を掴み、エレカに誘導する。

 

 親友の形見を、死なせるわけにいかなかった。


 簡単に失うわけにはなかった。

 

 何より、暗部の両親に育てられた夏樹に洗脳は効かない。

 

 催眠術解除の方法も知っている。


 実際、洗脳を解き数人の仲間を逃がしたという。

 

 生きるためとはいえ、人を殺め続けてきたことを後悔しているだろう。


 本当は心の優しい子供だったから。


 組織のことは仲間に任せて、夏樹から事情を聞いていた。


 「すまない。君の両親は――」


「部隊の幹部が亡くなったらしいぜ」

「これで、活動しやすくなるな」

 

 男たちの下品な声。

 殺してやろうかと思ったが、夏樹はやめた。

 殺してしまえば、情報収集が難しくなる。


 これからは、監視の目が厳しくなるだろう。

 

 目標を達成するためにも。

 

 今、組織を崩壊させるわけにはいかなかった。


「両親は有名ですから、知っています」

「表にでてこないか?」


 明るい場所にでてこないかと。 

 日向にでてこないかと。


「僕の手は他の人の手で、汚れています」


 あくまでも、裏の人間だと。


 雄一の正義とはかけ離れている。


 自分には眩しいぐらいの光景だった。

 

雄一に対する裏切りだと理解しながらも、全てを放棄した。


「雄一さんの価値観を、押し付けないでください。迷惑です」

「納得しているようには見えないな」


 聞こえてくる断末魔。

 

 助けを求めてくる声。

 

 亡くなった家族の泣き声。


 どれだけの命を、奪ってきた?

 葬ってきた?


 居場所なんて、どこにもない。


 堕落した人間なのだと。


 初めて人を殺した時、そう思った。

 実感してしまった。


「どれだけもがいていても、追いかけてくる」

 

 闇からは逃げられないと。


「私たちが守る。戻ってこい」

「おい――この車だ」

「裏切りは許さない」

 

 夏樹が戻ってこないことに、痺れをきらしたのだろう。

 

 車体に銃弾が食い込んでくる。

 

 銃弾対策が施されているにも関わらず、雄一は夏樹を抱きしめた。

 

 気遣った運転手が、エレカをゆっくり発進させる

 

 いつの間にか、銃弾の音も聞こえなくなっていた。


「少しでも、寝た方がいい。悪夢を見るなら、私が起こしてやる」

「平気です」

「その顔で、言われても困るな」

 

 青白い表情をした夏樹が、痛々しい。

 心の均等を、保とうとしているようだった。


 幼い子供にするように。

 落ち着かせるように。


 背中をなでた。


 濃紺色の瞳が、閉じられていく。


 安心して休め。


 夢心地の中で力強い雄一の声が、聞こえた気がした。






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