第二章1
「警察だ。大人しくしろ」
「ちっ……見つかったか」
木本雄一は乱暴に、扉を開けた。
数人の部下を連れて、組織の取り締まり強化に参加していた。
逃げ道を塞がれた男たちは、次々と投降していく。
雄一は嫌な予感がした。すぐに、その予感が的中してしまう。
「一樹、梓――後ろだ」
「無理だ。囲まれて――」
乾いた音とともに、一樹と梓が倒れた。
急所を撃ち抜かれていることから、助からないだろう。
梓はすでに、息を引き取っていた。
一樹の手当てをしたが、出血が多い。
タオルが真っ赤に染まっていく。
「子供の傍にいれないなんて、親として失格だな」
「夏樹今度の休みに、遊園地いこうか?」
「本当に?」
「嘘はつかないよ。約束する」
お互いの指を絡ませる。
夏樹の輝いた笑顔。
約束したのに、守れなかった。
期待を裏切った。
指切りをした小指に、愛しい子供の体温が残っている気がして。
一樹は自分の指を、なぞった。
和葉と一緒に、遊園地に連れて行ってあげたかった。
アメリカの大地を、踏ませてあげたかった。
アンドロイド戦争中に出会い――助けられた桐原香月にも、会わせてあげたかった。
写真を撮ってあげたかった。
思い出を作ってあげたかった。
「雄……一」
「何だ?」
一樹の制服を、血が濡らしていく。
二人だけにしてくれたのは、周囲が配慮してくれたからだろう。
「息子を――夏樹を頼む。あいつは私たちと似て、頑固だからな」
息子を守ってくれと。
助けてくれと。
守ってくれと。
「わかった。引き受ける」
「ありがとう」
一樹は満足そうに笑い――目を閉じた。
それが、一樹の最後だった。
「木本」
「はい」
「桜井夫妻には、子供がいたよな?」
「夏樹君に何か?」
「一週間前から、行方不明だ」
上司の言葉に、雄一の身体から血の気が引いていった。
耳鳴りがして、声が遠くに聞こえる。
ふらついた身体を、近くのテーブルで支えた。
夏樹を頼む。
親友から頼まれていたのに。
信頼されて任されたのに。
嘘だと――冗談だと言ってほしかった。
否定してほしかった。
警備を配置していたとはいえ、一人にすべきではなかった。油断していた。
「何か手がかりはないのでしょうか?」
「今のところ、何も見つかっていない」
「私に夏樹君を、捜させてください。お願いします」
「相手が抵抗するなら、殺してもいい」
殺してもいいと。
射殺も許可すると。
夏樹の存在が脅威と考えているようだった。
雄一は自分の無力さに、唇をかみしめた。




