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外にでると夏樹が道場の壁に寄りかかって立っていた。
無表情と鋭利さが、際立っている。
人を見下しているかのような眼差しだった。
この人は危険。
それでも、深い濃紺の瞳に引き込まれそうになる。
逃げなければ、抜け出せなくなりそうで。
見抜かれてしまいそうで。
恐かった。
和葉は夏樹から、距離をおいた。
人の孤独さを、初めて目の当たりにした。
心の闇を見た。
「近寄らないで――人殺し」
「僕が恐いか?」
「人の心理として、当たり前でしょう!?」
和葉は思わず、叫んだ。夏樹も和葉に、近寄ろうとはしない。
「安心しろ。雄一さんの知り合いとして、付き合ってもらうだけだ」
干渉はしないと。
深くは付き合わないと。
関わらないでくれと。
夏樹は興味なさそうに、見返してきた。
それは、和葉に鋭い視線となって突き刺さる。
「何が言いたいの? 説明してよ」
「幼馴染として、演じてもらうだけだ」
「どうして?」
「付き合いがないと、変に思われるだろう?」
「わかった。約束は守ってよね」
重苦しい空気を破ったのは、軽快な着信音だった。
和葉が携帯端末を取り出し、話し始める。
話が弾んでいることから、友達だろう。
どこかに、遊びにいく計画を立てているらしい。
和葉の表情は、心なしか明るかった。
幸せか。
僕には関係ないな。
和葉はもう用はないと、夏樹に背を向けた。
そのまま、どこかへと出掛けてしまう。
和葉の後姿を見ても、幼い頃と変わっていない。
和葉とは違い――夏樹の時間は、組織に入ってから、とまっていた。
今も時間はとまったままで、動くことはない。
夏樹は不意に小さい時のやり取りを、思い出した。
「待って、夏樹君。おいていかないでよ」
少し先を歩いていた夏樹は、足をとめた。
今度は和葉の歩調に合わせて、歩き出す。
早くしないと。
送迎バスに、遅れると。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
夏樹と和葉はそれぞれの両親に、手を振った。
懐かしい光景。
両親がいて。
笑顔で和葉と遊んでいて。
ふざけあっていた日々が遠い。
二人の間にできた大きな溝は、埋まることはない。
優しい思い出ですら、薄れてしまうのだろうか?
遠い過去の記憶に触れることさえ、許されないのだろうか?
近寄らないで
人殺し。
和葉の言葉はほとんど、悲鳴に近かった。
紛れもない本心だった。
和葉との関係も時間が、変えてしまっていた。
ここには、何も残っていない。
残されていない。
人というのは、時に残酷となる。
狂い出した歯車は、とめるすべはない。
とめられるはずはない。
もし、戻れるのなら。
戻ることが許されるのなら。
「戻りたい。戻りたいよ――楽しかったあの頃に、帰りたい」
偽りだったとしても。
二度と手に入ることができなくなったとしても。
夏樹の言葉は誰にも聞かれることなく、消えていった。




