表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君を想う  作者: 風海
PR
3/20


 外にでると夏樹が道場の壁に寄りかかって立っていた。

 

 無表情と鋭利さが、際立っている。


 人を見下しているかのような眼差しだった。


 この人は危険。



 それでも、深い濃紺の瞳に引き込まれそうになる。


 逃げなければ、抜け出せなくなりそうで。

 見抜かれてしまいそうで。


 恐かった。


 和葉は夏樹から、距離をおいた。


 人の孤独さを、初めて目の当たりにした。

 心の闇を見た。


「近寄らないで――人殺し」

「僕が恐いか?」

「人の心理として、当たり前でしょう!?」

 和葉は思わず、叫んだ。夏樹も和葉に、近寄ろうとはしない。


 「安心しろ。雄一さんの知り合いとして、付き合ってもらうだけだ」


 干渉はしないと。

 

 深くは付き合わないと。

 

 関わらないでくれと。


 夏樹は興味なさそうに、見返してきた。


 それは、和葉に鋭い視線となって突き刺さる。


「何が言いたいの? 説明してよ」

「幼馴染として、演じてもらうだけだ」

「どうして?」

「付き合いがないと、変に思われるだろう?」

「わかった。約束は守ってよね」

 

 重苦しい空気を破ったのは、軽快な着信音だった。

 

 和葉が携帯端末を取り出し、話し始める。

 

 話が弾んでいることから、友達だろう。


 どこかに、遊びにいく計画を立てているらしい。


 和葉の表情は、心なしか明るかった。


 幸せか。

 僕には関係ないな。



和葉はもう用はないと、夏樹に背を向けた。

そのまま、どこかへと出掛けてしまう。


和葉の後姿を見ても、幼い頃と変わっていない。


 和葉とは違い――夏樹の時間は、組織に入ってから、とまっていた。


今も時間はとまったままで、動くことはない。

 

 夏樹は不意に小さい時のやり取りを、思い出した。

 

 

「待って、夏樹君。おいていかないでよ」


 少し先を歩いていた夏樹は、足をとめた。


 今度は和葉の歩調に合わせて、歩き出す。


 早くしないと。

 

 送迎バスに、遅れると。


「いってらっしゃい」

「いってきます」


 夏樹と和葉はそれぞれの両親に、手を振った。


 懐かしい光景。


 両親がいて。

 笑顔で和葉と遊んでいて。


 ふざけあっていた日々が遠い。

 

 二人の間にできた大きな溝は、埋まることはない。


 優しい思い出ですら、薄れてしまうのだろうか?

 遠い過去の記憶に触れることさえ、許されないのだろうか?


 近寄らないで

 人殺し。


 和葉の言葉はほとんど、悲鳴に近かった。


紛れもない本心だった。


 和葉との関係も時間(とき)が、変えてしまっていた。


 ここには、何も残っていない。

 残されていない。


 人というのは、時に残酷となる。


 狂い出した歯車は、とめるすべはない。

 とめられるはずはない。


 もし、戻れるのなら。

 戻ることが許されるのなら。


 「戻りたい。戻りたいよ――楽しかったあの頃に、帰りたい」


 偽りだったとしても。

 二度と手に入ることができなくなったとしても。


 夏樹の言葉は誰にも聞かれることなく、消えていった。







       

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ