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君を想う  作者: 風海
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第一章1

日本人特有の色彩をもつ少女――木本和葉が、身体を動かしていると二人分の足音が聞こえてきた。


 一つは師範であり父親の――木本雄一のもの。

 もう一つは、集中していないとわからないほどの小さなもの。


 次の瞬間、嫌な汗が流れた。


 気を抜くと、座り込んでしまいそうになる。


武道家としてのプライドを、捨てたくなかった。

 

 近づいてくる相手は、武道を習っている者の気配ではない。


 まるで、正式な訓練を受けたことがある軍人みたいで。


 歩く速度を変えることなく、近づいてきた。


 雄一と関係がある同業者なのだろうか?


 だが、違和感と圧倒的な威圧感は、なくなってしまった。


 一般人では気づくことができない一瞬のできごとだった。

 

 和葉は恐怖を拭いとることができずに、雄一と正体不明の訪問者を待った。


 ほどなくして、見知らぬ少年と雄一が入ってきた。


「いい加減、楽にしなさい。和葉」

 

 雄一の言葉に、和葉は息を吐き出す。


「彼女の行動は、当然だと思います。雄一さん」

「娘がすまないね」

「僕は慣れています」

「あなたは誰? 父さんの知り合い?」

 

 和葉の言葉に、雄一は苦笑した。


 

「わからないか? 幼馴染の桜井夏樹君だ」

「え? 夏樹?」

「久しぶり。元気そうで、よかった。木本」

 

 夏樹は数年ぶりに会った和葉に、冷たい視線を送る。


 ここまで、危うさと儚さを兼ねそろえた少年だっただろうか?


 夏樹の印象を思い出すことすら、できなかった。


「夏樹君には、この家で暮らしてもらう」

「一緒に、暮らす?」

 和葉は思わず、夏樹を見た。


 幼馴染とはいえ、長い間会っていない。


 どこで、暮らしているかさえ、知られてなかった。

 

 突然すぎて、何を話していいか、わからない。


 変わってしまった夏樹を見て、和葉は戸惑った。


「説明するから、落ち着きなさい」

「僕は外にいます」

 

 夏樹は相変わらず、和葉と視線を合わせようとはしない。

 

 自分のことだというのに、外へ出て行ってしまった。

 

 人と距離をおこうとしているように見えた。


「驚いた。誰かわからなかったわ」

「私はすぐに、わかったけどな」

「桜井夫妻はどうしたの?」


 最近、見かけないけど元気にしているの?


 和葉が問いただすと、雄一は言葉を濁した。

 

 はっきりとしない雄一を、和葉は睨みつける。


「私には言えないことなの?」

「桜井夫妻は、任務中に死んだよ」

「嘘でしょう? 私、聞いてないわよ」

 

桜井夫妻には、よく遊んでもらっていた。


 同じ凶悪犯特殊警察部隊に所属し、雄一と二人は仲が良かった。


 明るくて、気さくな人たち。


 そんな人たちが死んでいたなんて、信じられなかった。

 二人の葬式も済んでいることだろう。


 もしかしたら、葬式すらしてないのかもしれない。

 

 何も知らなかったことに、和葉は苛立ちを隠せない。


「どうして、隠していたの? どうして、教えてくれなかったの?」

「理由がある」


 雄一さん、お願いがあります。


 夏樹はミラー越しに、雄一を見る。


深く帽子を被っているせいで、夏樹の表情はわからなかった。


 僕の両親が亡くなったことは、和葉には言わないでください。

 

 理由は?

 

 同情されたくないからです。



「二人が亡くなってから、夏樹君の行方がわからなくなっていてね。再会した時には、暗殺組織の一員になっていたよ」

 

 今でも、銃を向けられたことを思い出す。


 衝撃的な告白に、和葉の思考は止まってしまった。


 雄一に肩を揺さぶられて、ようやく現実に戻る。


 内容の整理が理解できず、和葉は混乱していた。


「父さん、待って。本当に闇組織なんてあるの」

 

 存在するの?

 作り話じゃないよね?


「生きるためにはここしかと脅し――殺人を、教え込む。本当に存在する闇組織だ」

「そんな話、信じられないわ」

「信じられなくても本当の話だ」

「私に彼の世話をしろと?」

 

 全てを受け入れろと?


 受け止めろと?


「頼めないか?」

「お願い。私の平穏を、壊さないで」


 巻き込まないで。


 よく知っている相手だとしても。

 初恋の人だとしても。


 犯罪者の世話なんてやりたくなかった。

 

 理解したくなかった。


 自分の世界が変わってしまいそうで嫌だった。

 

 居場所をとられてしまいそうで怖かった。


 大事なものを、壊れてしまいそうだった。

 

 手の中から、零れおちてしまいそうだった。


 雄一が制止する前に、和葉は道場から飛びだした。

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