序章1、2
少年は聞こえてきた泣き声に、足を止めた。
両親と逸れてしまったらしく、同年代の少女が周囲を見渡していた。
様子を見ていた少年は、鞄の中から飴を取り出す。
少女は驚いていたが、
飴をなめて安心したのかいつの間にか泣きやんでいた。
少年は少女の隣に座る。
まるで、安心させるかのように。
付き添うように。
会話は交わすことはなかったが、二人とも落ち着いていた。
「またせたな。夏樹」
「僕は大丈夫。それより、迷子みたいだよ」
桜井一樹と梓は、少女に視線を向ける。
仕草や動作が、知り合いによく似ていた。
今頃、必死に探していることだろう。
一樹は携帯端末で、同僚に連絡を入れた。
数分して、少女の父親――木本雄一が駆け寄ってきた。
病気で妻を早くに亡くしており、一人で娘の和葉を育てている。
「助かったよ。一樹と梓。その子が夏樹君?」
「初めまして。桜井夏樹です」
夏樹は雄一に、頭をさげる。
言葉は少なく、あまり話さないが驚くほどの存在感だった。
「ほら、和葉も挨拶しなさい」
「初めまして。木本和葉です」
雄一の後ろに隠れていた和葉を、前にだした。
和葉の声は、緊張で震えている。
「人見知りですまないな」
「うちの子より、かわいいわね」
「そう育てたのは、あなたたちでしょう?」
一樹の言葉を、夏樹は容赦なく切り捨てた。
特殊な仕事をしている以上、狙われる可能性が高い。
自分自身を守る訓練をしている途中だった。
気が付けば、夏樹は甘えを知らない子供に、育っていた。
冷え切った瞳で、世の中を見つめていた。
このままだと、友達ができにくいかもしれない。
和葉なら、受け入れてくれるかもしれない。
夏樹の心を開いてくれるかもしれない。
「娘はこのとおり、人見知りでね。よかったら、仲良くしてくれないか?」
和葉は不安そうに、夏樹を見上げてきた。
「夏樹君だよね? 私も同じ幼稚園に通うから、仲良くしてね」
「こちらそこ、よろしく」
夏樹は笑顔を張り付けて、和葉の手を握った。
緊張がとれたらしく、和葉の表情が緩む。
出会った日から、二人の歯車は回り始めていた。




