第八章1&2
「いいわ。私がでる」
「桜井?」
「夏樹?」
香月の背中でぐったりしている夏樹を見て、祐と和葉は声をあげた。
愛に宥められて、慌てて口を閉じる。
芽依は少し離れた場所で、様子を見ていた。
香月、祐、和葉がそれぞれ自己紹介をする。
「大丈夫だ。少し休めば、元気になる」
「バカね」
ベッドで眠っている夏樹の顔を、覗き込む。
帰ってきた時よりも、幾分か顔色がよくなっていた。
久しぶりに見た夏樹の寝顔は、普段と比べて幼かった。
気が付けば和葉もベッドに伏せて、眠っていた。
祐も和葉も芽依も一晩起きていたと聞いていた。
二人を起こさないように、部屋をでる。
鳥籠から解放された少年。
まだ、翼を広げることはできないけれど。
いつか、大空を飛ぶことができるだろう。
眩しいぐらい青い大空を。
「雄一さんが連れてきた意味が、わかった気がするよ」
「二人に感謝しないといけないな。不器用な夏樹の傍にいてくれて、ありがとう」
「クラスメートだからな」
信じるしかないだろうと。
できれば、仲良くなりたいと。
「私も皆がいてくれるだけで、幸せだわ」
望まない――望めないことが、一番つらいと知っているから。
経験しているから。
今の言葉に、甘えさせてもらおう。
「二人が幸せになるといいわね」
「はい」
愛の言葉に三人は小さく頷いた。
2
「ただいま」
「お邪魔します」
部屋からでると、雄一と空が戻ってきた。
二人の真剣な眼差しに、空気が張り詰めていく。
「夏樹君はどうしている?」
「休んでいるわ」
「部隊は今月中に、解散だ。香月君たちの退任手続きも終わっている」
「夏樹君はどうなるの? 私たちと一緒にロサンゼルスに、行ってもいいけど」
「僕は反対だな」
「夏樹のロサンゼルス行きは、私も厳しいと思います」
香月に続いて、反対したのは芽依だった。
気持ちが不安定なままの渡米は、難しいだろう。
今はゆっくり休養させてあげたいと。
心の傷を優先させるのが先だと。
「私の家で引き取らせてくれ。今度こそ、親友の希望を叶えたい」
「引き取る勇気はありますか?」
これ以上、夏樹に負担をかけさせたくなかった。
香月にしては珍しく、非難の色がまざっていた。
一度、手を放したことを、怒っているのかもしれない。
守れなかったことを、快く思っていないのかもしれない。
「今度こそ、大丈夫だ」
雄一が微笑んだことで、張り詰めていた空気が氷解した。
空が夏樹の肩に、手を置く。
家族内の話のため参加しなかった祐も、わずかに笑みを浮かべている。
「わかりました。ただし、今回のようなことがあれば、夏樹は引き取らせてもらいます」
「私としては、同じことを繰り返すことはしない」
香月の容赦ない言葉に、雄一は苦笑した。
「もう、遅い。三人とも泊まっていくか?」
「家族の時間を、邪魔するつもりはありません。私たちは帰ります」
愛と空は立ち上がった。
香月もついていこうとしたが、歩いていた足をとめた。
「香月?」
「僕は後から追い掛ける」
視線の先には芽依がいた。
二人は何も言わずに、リビングをでた。
「田崎」
「私?」
名前を呼ばれた芽依は、困惑した表情を浮かべた。
香月は瑠依の瞳を、覗き込む。
慈しむかのような眼差し。
手のかかるような妹にするような行動。
もし、この二人が家族として生を受けていれば、仲のいい兄妹となっていただろう。
頑張ったね。
香月は瑠依の頭に、手をおいた。
幼い子供にするかのように、頭を撫でる。
「我慢する必要はないよ」
泣きたい時は、泣いていいよ。
君のことを、責める人はいないから。
だから、一緒にいこうと。
香月の優しい言葉に、安心したのか涙が頬を濡らしていく。
いいの?
私でいいの?
「迷う必要はないだろう?」
雄一の言葉に瑠依は戸惑いながら、香月の手を伸ばす。
香月は瑠依の手を、しっかりと握りしめた。




