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「雄一さん、桐原さん」
夏樹の声には、僅かな怯えがまじっていた。
叩かれる。
持ち上げられた手に、夏樹は身体を震わせた。
だが、頬に衝撃がくることはなかった。
きつく閉じていた目を開ける。
ふわり、と。
頬を包み込む大きな手。
心配そうな瞳。
父――一樹と同じ動作。
「ごめんなさい」
絞り出した自分の声は、情けないほど掠れていた。
「疲れているところ悪いけれど、夏樹に聞きたいことがある」
一枚のチケットに夏樹は視線をそらす。
知らぬ間に、瑠依が愛に渡していたらしい。
答えはすでに、決まっている。
夏樹は空から瞳を逸らそうとはしなかった。
「日本に残ります」
どこにも、いかないと。
逃げることはやめたと。
「なら、これは必要ないな?」
「ええ。処分してください」
空はチケットを、破りすぎた。
風に乗って、高く舞い上がる。
「二人は早く帰れ」
「でも」
夏樹が不満そうな声をあげた。
メンバーの中で、組織のことを知っているのは、夏樹だけだった。
最後の処理まで、押し付けるわけにはいかない。
「留守電を聞いてみろ」
空が夏樹の携帯端末を、投げてよこした。
俺は桜井の味方だから。
夏樹のバカ。
もっと、自分を大切にしてよ。
早く帰ってきてね。
皆、待っているよ。
夏樹を気遣うメッセージが、録音されていた。
雄一が夏樹の肩に、手をおいた。
空も組織に戻り、指示をだしている。
「夏樹、帰ろう」
本当の家に。
夏樹は不意に、空を見上げる。
泣きたくなるぐらい綺麗な三日月が、でている日のことだった。




