第7話:神速のざまぁ・後編
王都の外周でゼノン一家を包囲した、ガルフォード侯爵の私設軍勢。数千の刃がギラギラと輝く中、ゼノンは娘のエルナへ向け、静かに「お掃除」の定義を語ります。
旅立ちの朝の草原に、元魔王の容赦なき審判が下ります。
どうぞご覧ください。
「突撃ィィィッ! 魔王の首を上げろッ!」
欲に目が眩んだ数千の残党兵たちが、地鳴りのような足音を立てて一斉に距離を詰めてくる。
だが、ゼノンの表情は退屈そのものだった。彼はエルナの耳を左手で優しく塞ぐと、突き出した右手の指先を、冷ややかにパチンと鳴らした。
超位消滅魔法《深淵の抱擁》。
ドォォォォォォォォン!!!
爆音すら置き去りにする極黒の衝撃波が草原を駆け抜けた、その瞬間。
突撃してきていた数千の兵士、その武装、彼らが乗っていた魔獣にいたるまで、ゼノンの魔力に触れたすべての存在が、まるで最初からそこに存在していなかったかのように、一瞬で文字通りの『塵』へと還元され、風にさらわれて消え去った。
草原には、ただ不自然なほど綺麗な平地が広がるのみ。
一滴の血も流さず、一秒の猶予も与えない、完璧な神速のざまぁ(お掃除)の完了だった。
「……すごーい! パパ、おそとがピカピカになったの!」
耳を離されたエルナが、パチパチと小さな手で拍手をする。
「そうだよ、エルナよ。
これが我が家の『お掃除』だ。
……さて、リーゼロッテ。邪魔者も消えたことだし、そろそろ行こうか」
「ええ、行きましょう、あなた」
リーゼロッテは優しく微笑み、ゼノンの腕にそっと寄り添った。
城門の隙間からその光景を見ていた国軍の騎士たちは、あまりの次元の違いに腰を抜かし、自分たちがどれほど恐ろしい化け物を怒らせて追い出してしまったのかを理解して、ただただ絶望に震えることしかできなかった。
しかし、ゼノンたちが王国の国境へ向けて歩みを進めようとした、まさにその時。
彼らの前方の空間が、突如として激しくねじれ始めた。
「待ちなさい、ゼノン! リーゼロッテ!」
光の裂け目から現れたのは、息を荒くした勇者の末裔カイルと、その後ろに控える王宮直属の魔導師たちだった。カイルの表情は、いつになく悲痛なものへと歪んでいる。
「カイル? まだ何用だ。
お掃除の続きが必要か?」
ゼノンがわずかに目を細めると、カイルは首を横に振り、一枚の重々しい羊皮紙を差し出した。
「違う! これを見てくれ!
……陛下たちが、君たちを『国外追放』にするだけでは飽き足らず、隣国との国境地帯にある【未開の魔の森】の調査、という名の、実質的な決死任務を課してきたんだ!」
カイルの手にある書類には、国王のサインと共に、危険度SSSに指定される原生林への強制立ち入り命令が記されていた。
王都から追い出すだけでなく、その道中で完全に亡き者にしようという、王国の執念深い、そしてあまりに理不尽な追撃であった。
「……なるほどな」
ゼノンは書類を一瞥し、ふっと冷たい笑みを浮かべた。
最愛の家族との平穏な旅路を、どこまでも汚そうとする人間の王。その器の小ささに、元魔王の静かな逆鱗が、再び微かに鳴動を始める。
「ゼノン様。どうやらあの人たちは、自分たちが誰の慈悲で生き延びているのか、本当に理解していないようですね」
隣に立つリーゼロッテの声音からも、完全に温度が消え去っていた。
聖女の杖が、パチパチと神聖魔力のスパークを散らし始める。
王都を救った英雄を、どこまでも都合よく使い潰そうとする王国。最強夫婦の歩みは、ただの「引越し」から、国そのものを震撼させる「真の無双」へと、その舵を切ろうとしていた。
第7話をお読みいただきありがとうございます。
残党軍勢を一瞬でお掃除した直後、王国側からのさらなる理不尽な追撃(魔の森への強制任務)が言い渡されました。どこまでも強欲で臆病な王国に対し、ゼノンとリーゼロッテの静かな怒りが臨界点を迎えようとしています。
次回、第8話からは、身分を隠して新天地(魔の森の周辺都市)へと向かう道中での、さらなる無双劇が始まります。
最強家族の旅路をこれからも見守りたいと思ってくださった方は、ぜひ画面下の【ブックマークに追加】と、【☆☆☆☆☆】の評価での応援をぜひぜひ、よろしくお願いいたします!




