第6話:神速のざまぁ・前編
国王からの実質的な国外追放処分を、まさかの「無限の休暇」として大喜びで受け入れたゼノン一家。
しかし、ただ黙って国を出るだけでは元魔王の名が廃ります。ガルフォード侯爵の残党が王都の郊外に敷いていた私設軍勢に対し、旅立ちの前の「ちょっとしたお掃除」が始まります。
王都の堅牢な城門が開き、ゼノン、リーゼロッテ、そしてエルナの三人がのんびりとした足取りで外へと歩み出た。
彼らの背後で、重々しい鉄の門が閉まる。二度と戻ってくるなという、王城の臆病者たちの意思の表れだった。
「……本当に行ってしまわれるのですね、ゼノン様」
門の脇に控えていた勇者の末裔カイルが、悔しそうに拳を握りしめていた。
王城で必死に処分の撤回を求めたが、恐怖に狂った国王たちを動かすことはできなかったのだ。
「気にするな、カイル。むしろ感謝している。
これで毎日、社交界の退屈な噂話に耳を傾ける必要もなくなった。これからは家族三人で、美味いものを食べる旅に出るだけだ」
ゼノンはエルナを片腕に抱いたまま、爽やかに笑った。
だが、そんな彼らの行く手を阻むように、王都の外周に広がる草原から、ギラギラとした殺気を放つ武装集団が姿を現した。
「——見つけたぞ、元聖女! そしてベルシュタインの腑抜けめ!」
現れたのは、ガルフォード侯爵が裏で私的に雇い入れていた、他国の精鋭傭兵団や教会の過激派崩れなど、数千に及ぶ私設軍勢の残党たちだった。
彼らはガルフォードが社会的抹殺を受けたことをまだ知らず、ゼノンたちが王都を追い出されたのを見て、「今こそ好機」と一斉に包囲を狭めてきたのだ。
「侯爵閣下からの命令だ! その首を差し出せば、我らは新たな祖国で巨万の富を得られる! 総員、構えろ!」
数千の刃が、容赦なくゼノン一家へと向けられる。
カイルが「貴様ら、下がれ!」と聖剣のレプリカを抜こうとしたが、ゼノンはその前に静かに片手を上げて彼を制した。
「カイル、下がっていなさい。
旅立ちの前に、少しだけ『我が家の教育方針』をエルナに見せておかねばならんのでな」
「え……? 教育、方針……?」
ゼノンは腕の中のエルナを見つめ、これ以上ないほど優しい父親の顔で微笑みかけた。
「いいかい、エルナ。世の中にはね、他人の幸せな時間を、自分の都合だけで邪魔しようとする『悪い羽虫』がたくさんいるんだ」
「わるい、はむし……?」
エルナが首を傾げる。ゼノンは優しく頷き、空いた右手の指先を、迫り来る数千の軍勢へと向けた。
「そうだ。そういう不躾な虫に出会ったときはね——お話し合いをする必要はない。
一瞬で、跡形もなく消し去るのが、正しい『お掃除』のやり方だよ」
ゼノンの瞳の奥で、千年前の戦場を文字通り灰に変えた【破壊の魔王】の冷徹な炎が、静かにパチリと爆ぜた。
押し寄せる数千の兵士たちが、その視線に射抜かれた瞬間、まるで極寒の氷水を浴びせられたかのように、本能的な恐怖でその足をピタリと止めた。最強家族による、旅立ちの前の「神速のざまぁ」が、一分の慈悲もなく幕を開けようとしていた。
第6話をお読みいただきありがとうございます。
王国を追放された直後、待ち構えていた侯爵の残党軍勢に対し、ゼノンが「娘への教育」として淡々とお掃除を始めるシーンを描きました。
どんな大軍勢が来ようとも、ゼノンにとってはただの「悪い羽虫」に過ぎないという圧倒的な実力差を楽しんでいただけましたでしょうか。
次回、第7話は「神速のざまぁ・後編」となります。ゼノンが放つ容赦なき一撃によって、数千の私設軍勢が一瞬で文字通りの「塵」と化し、それを見届けた王国側がさらに絶望する決着編をお届けします。どうぞお楽しみに!
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