第5話:聖女の絶対結界と、魔王の出陣
古代兵器を完全に消滅させ、何事もなかったかのように朝食の席へ戻ったゼノンたち。
しかし、王都を揺るがしたその圧倒的な力は、王城の最深部で「ある決定的な恐慌」を生み出していました。国を救ったはずの最強夫婦に、理不尽な影が忍び寄ります。
「……信じられん。神鉄の巨兵を、ただの一撃で、それも跡形もなく消し去るなどと……」
王城の玉座の間。国王をはじめとする重鎮たちは、水晶球に映し出されたクレーターの光景を前に、死人のような顔で震えていた。
ガルフォード侯爵の反乱は鎮圧された。
王都の崩壊も防がれた。
しかし、彼らにとってそれは「救国」ではなく、ただ「自分たちの首元に、いつでも国家を消滅させられる極大の爆弾が突きつけられた」という悪夢の証明に過ぎなかった。
「あの男……ゼノン・フォン・ベルシュタインは危険すぎる。さらにその妻は、王都の半分を無傷で守り抜く絶対結界の持ち主だ。このふたりがその気になれば、我が王国など瞬く間に塵に帰すぞ……!」
「しかし陛下、彼らは我が国の公爵家と聖教会の要人です。正当な理由もなく処罰などすれば、それこそ民の反発を招きます!」
重臣たちの議論が紛糾する中、玉座の影から一人の老魔導師が冷酷な笑みを浮かべて進み出た。
「ならば、処罰ではなく『名誉ある遠ざけ』にすればよろしい。幸い、ガルフォードの残党が敷いた軍勢が、未だ王都の周囲を薄く取り囲んでおります。
彼らに『反逆の首謀者を捕縛するための出陣』という大義名分を与え、そのまま王都の外へと押し出すのです。そして——二度とこの門をくぐらせねばよい」
国家の決定は、恐ろしく迅速だった。
彼らの頭にあるのは、恩義ではなく、ただ己の保身のための「恐怖」だけだった。
その日の午後。
ベルシュタイン公爵邸の門前に、国王直属の近衛騎士団が整列し、仰々しいファンファーレが鳴り響いた。
手紙を携えた使者が告げたのは、王都の危機を救った英雄への賞賛……ではなく、実質的な「王都からの退去命令」であった。
「——ゼノン・フォン・ベルシュタイン殿。
およびリーゼロッテ殿。昨晩の騒動におけるガルフォード侯爵の残党、ならびに未だ王都周辺に蠢く不穏分子の掃討のため、即刻、王都外への【出陣】を命ずる。なお、王都の安全が完全に確保されるまで、両名の帰還はこれを認めない」
事実上の、美しい言葉で飾られた国外追放。
門前でそれを聞いていた国軍の騎士たちは、あまりの理不尽さに拳を握りしめ、平民たちはざわついた。
ゼノンをライバル視していた勇者の末裔カイルすらも、「陛下、これはあんまりです!」と王城で直訴している最中だった。
だが、当の公爵邸のベランダ。
使者の言葉を上から聞いていたゼノンとリーゼロッテは、互いに顔を見合わせると——同時に、これ以上ないほど晴れやかな笑顔を浮かべた。
「……聞いたか、リーゼロッテ。どうやら国は、私たちに『無限の休暇』をくれるらしい」
「ええ、聞きましたわ、あなた。
毎日毎晩、面倒な社交界の夜会に出る必要も、教会の堅苦しい儀式に出席する必要も、もうないのですね」
ふたりの後ろから、小さなお気に入りのぬいぐるみを抱えたエルナが、トコトコと歩み寄ってきてゼノンの服の裾を引いた。
「パパ、ママ、おんもにお出かけするの?」
「ああ、そうだよエルナ。
これから家族三人で、見たこともない広い世界へピクニックに行くんだ。毎日、おっきいお肉をたくさん食べような」
「わーい! おっきいお肉! エルナ、お出かけしゅる!」
エルナが両手を上げて大はしゃぎする。
国王たちが必死に頭を悩ませて下した「追放」という名の嫌がらせは、最強夫婦にとって、退屈な貴族の義務という【檻】から解き放たれる、最高のプレゼントに過ぎなかった。
「よし、バロール。屋敷の留守は任せるぞ。
私の指南書コレクションを傷一つつけずに保管しておけ」
「ハッ! 我が主!
このバロール、命に変えても主の『聖遺物(恋愛指南書)』をお守りいたします! 次代の魔王軍の軍資金、および姫君の養育費の確保、抜かりなく進めておきますぞ!」
相変わらずズレた忠誠を誓う四天王を背に、ゼノンはリーゼロッテの腰を優しく抱き寄せ、エルナを片腕に抱き上げた。
お荷物のような貴族の地位をあっさりと投げ捨て、最強家族は笑いながら、新たなる無双の舞台へと歩みを進めるのだった。
第5話をお読みいただきありがとうございます。
ついにタイトルにもある「王国追放」の展開へと突入しました!国側が必死に恐怖して下した冷遇を、当人たちが「やったー!自由だ!」と大喜びで受け入れるという、なろうの王道スルーライフの幕開けです。
次回、第6話からは舞台を隣国の未開の地へと移し、身分を隠したゼノン一家が「新人冒険者」としてギルドに登録する、お気楽冒険者無双編がスタートします!どうぞお楽しみに!
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