第3話:元魔王、久しぶりに威圧する
古代禁忌魔導兵器《終末を告げる鉄人》が、公爵邸をその巨大な足で踏み潰さんと迫ります。
逃げ惑う群衆と、恐怖に震える国軍の兵士たち。
しかし、ベランダに立つゼノンにとって、その巨躯はただの「片付け忘れた粗大ゴミ」に過ぎませんでした。
今度も無双です。
「ひっ、お、終わりだ……。あんな化け物に、勝てるわけがない……!」
公爵邸の周囲を包囲していた国軍の騎士が、最新鋭の魔導銃をガタガタと震わせながら腰を抜かした。
全高数十メートル。周囲の家々を文字通り砂上の楼閣のごとく踏み砕きながら進むその巨体は、全身が神鉄で作られた、魔法を無効化する生きた要塞だった。
その鉄人の頭頂部には、衣服を泥で汚し、狂気の笑みを浮かべたガルフォード侯爵が、魔導の触手で自身の身体を固定して立ち尽くしていた。
「ハハハハハ!
見ろ、ゼノン! リーゼロッテ! これこそが王国の闇に眠っていた、すべてを滅ぼす鉄人だ! 貴様らの小賢しい魔力など、この神鉄の体ですべて吸い尽くして——」
「バロール」
ガルフォードの狂った叫びを遮るように、ゼノンが静かに声をかけた。
「はっ! 我が主、何なりとご命令を!」
「あの鉄の塊の天辺で、何やら甲高い声で鳴いている羽虫がいるな。非常に耳障りだ。我が家のエルナの昼寝の時間が近づいている。……落とせ」
「御意にぃぃぃぃ!!」
バロールが四本の腕の戦棍を頭上で激しく振り回し、地を蹴った。
ドォォォォン!
という爆音と共に、公爵邸のベランダから大空へと飛び上がったバロールの巨躯は、まさに放たれた砲弾そのものだった。
「なっ、何だあのトロールは……っ!?」
ガルフォードが驚愕して目を見開いた瞬間には、すでにバロールは鉄人の顔面に肉薄していた。
「我が主の家庭の平穏を邪魔した罪、その鈍色の頭を叩き割って償うが良いわぁぁぁ!」
四本の戦棍が、同時に鉄人の強固な頭部へと叩きつけられた。
王都中に鼓膜を破らんばかりの金属音が響き渡る。
神鉄で作られた鉄人の頭部が、バロールの一撃によって目に見えてベコりと歪み、その衝撃波だけでガルフォード侯爵は鉄人の上から吹き飛ばされ、下水道の泥水の中へと真っ逆さまに落ちていった。
「おおお!? さすがは神の金属、私の全力の一撃を受けて、首がもげぬとは!」
空中で一回転し、綺麗に地面へと着地したバロールが感心したように声を上げる。
頭部を歪まされ、赤い眼光を激しく明滅させながらも、鉄人はその巨腕を振り上げ、公爵邸に向けて振り下ろそうとしていた。
「ゼノン様、衝撃が来ます!」
リーゼロッテが聖杖を掲げ、公爵邸とその周囲の平民たちを丸ごと守るように、強固な神聖障壁を展開する。
「やれやれ。バロールが少し手加減を間違えたな。やはり粗大ゴミの処分は、私自身の手で行うのが一番確実か」
ゼノンは夜会服のポケットから静かに両手を取り出すと、一歩、ベランダの縁へと進み出た。
かつて世界を恐怖で塗りつぶした本物の【魔王の覇気】が、彼の身体を中心に、ほんの数パーセントだけ解放される。
ドォォォォォォォォン……!!!
物理的な衝撃を伴うその圧倒的な『圧』が放たれた瞬間、王都中の空気が一瞬で凍りついた。
包囲していた国軍の精鋭たちは、戦うどころか呼吸の仕方を忘れたようにその場に平伏し、直進していたはずの巨大な鉄人までもが、その絶対的な存在階位の差に怯えるかのように、その巨体をビクリと硬直させた。
「千年前、私の庭の草むしりロボットの方が、まだマシな動きをしていたぞ」
ゼノンの瞳の奥で、漆黒の魔力が冷酷に収縮していく。
神鉄の絶対耐性など関係ない。魔王ゼノンが放つのは、世界の理そのものを書き換える絶対的な無の力。
王都の崩壊を賭けた大決戦は、元魔王が本気の一歩を踏み出した時点で、すでにその結末が確定していた。
第3話をお読みいただきありがとうございます。
巨大な古代兵器に対し、バロールのド派手な一撃と、ゼノンの久しぶりの「本物の覇気」をお届けしました。どれほど巨大な敵が現れても、主人公が圧倒的な強者の余裕を崩さない展開を楽しんでいただけましたでしょうか。
次回、第4話(※14話ではなく4話です)では、ゼノンによる古代兵器への一撃必殺の「ざまぁ」が炸裂し、王都の決戦が完全決着を迎えます。しかし、その強すぎる力が、新たな展開(王国追放)へのトリガーとなってしまいます。
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