第7話:王都を揺るがす復讐劇
最強夫婦による直接カチコミを受け、完全に逃げ場を失ったガルフォード侯爵。しかし、王国の権力者たる彼は、最後の悪あがきとして国家の戦力を動かそうと狂気に走ります。
怒れる魔王の容赦なき制裁と、事態をさらに斜め上へと引っ張る「あの男」が再臨します。
お楽しみください。
「ひっ……、あ、悪あがきを……! 出会え! 誰かおらぬかッ!!」
ガルフォード侯爵は、椅子から転げ落ちながら、喉がちぎれんばかりに悲鳴を上げた。
しかし、
リーゼロッテが展開した最高位の聖級結界《聖域の防壁》の内部では、彼の叫び声は一細胞の振動すら外部へ漏れ出すことはない。
「無駄だ、侯爵。君の不届きな声が、王都の美しい夜風を汚すことは許されない」
ゼノンが冷ややかに見下ろし、人指し指を軽く突き出す。
その指先には、暗殺者たちの魂を貪り食ったあの黒泥が、小さな球体となって悍ましく脈動していた。
「待て!
私は王国の侯爵だぞ!
私を殺せば、ベルシュタイン公爵家とてただでは済まん!
国を敵に回すつもりか!?」
「国、か。
千年前にも似たような寝言を言った王がいたな。
その国が今、どこの地層に埋もれているか知っているか?」
ゼノンの瞳が、一切の慈悲を削ぎ落とした深淵の闇へと変わる。
その絶対的な死の気配に、ガルフォードは恐怖のあまり失禁し、ただガタガタと歯を鳴らすことしかできなかった。
だが、ゼノンがその指先を放とうとした、まさにその瞬間。
ドボォォォォォォォォン!!!
リーゼロッテが張ったはずの、神の奇跡すら遮断する絶対結界が、外部からの凄まじい衝撃によって粉々に打ち砕かれた。
爆風と共に、侯爵邸の天井が丸ごと吹き飛び、瓦礫の雨が室内に降り注ぐ。
「なっ……聖級結界が、外から破られた……!?」
リーゼロッテが目を見張り、聖杖を構え直す。
立ち込める煙の向こうから現れたのは、身の丈三メートルを超える巨躯に、四本の無骨な腕。
その手にそれぞれ巨大な戦棍を握りしめた、あの『破壊公』バロールだった。
「ククク……ハハハハハ! 探しましたぞ、我が主ゼノン様! そして未来の魔王妃(予定)たる聖女様!!」
バロールは赤く染まった夜空を背に、豪快に笑い声を響かせた。
「ば、バロール……!? なぜ貴様がここにいる。私のデコピンが足りなかったか?」
ゼノンが不快そうに眉を寄せると、バロールは四本の腕を大げさに広げて跪いた。
「滅相もない! あの至高のデコピンのおかげで、我が魂は完全に目覚めました!
そして私は悟ったのです……。ゼノン様が今、次代の魔王軍を組織するため、最も優秀な『遺伝子』を持つ聖女様と、熱烈な子作りの最中であると!!」
「……は?」
「しかし!
この愚鈍な人間の羽虫めが、あろうことか我が主の『夜の営み』を邪魔しようと画策したと聞き及び、このバロール、馳せ参じた次第! 我が主の婚活および子育ての邪魔をする者は、この私が一匹残らず叩き潰して御覧に入れますぞ!」
バロールの四本の腕が、凄まじい風圧を伴ってガルフォード侯爵へと向けられる。
あまりの超展開に、ガルフォードは恐怖を通り越して白目を剥き、泡を吹いて気絶した。
「ちょっと待ちなさい、その大きなトロール!」
リーゼロッテが頬を真っ赤に染めながら、聖杖をバロールに突きつける。
「夜の営みって何ですか! 子作りの最中って何ですか! 私たちはもう結婚して、5歳の可愛い娘がいるんですよ!」
「なんとぉぉぉ!? すでに第一世代が誕生しているのですか!? さすがは我が主、仕事がお早い! おお、我が小さき姫君……! このバロール、命に代えても次期魔王(候補)をお守りいたしますぞ!」
感動の涙を流し始める四天王。
ゼノンは深く、深く溜息をつき、自らの額を押さえた。
(やれやれ。指南書『旧友との付き合い方』には、【どれほど価値観がズレていても、味方である以上は無下に扱うな】とあったが……。これは少々、ズレの致死量を超えているな)
誤解は解け、黒幕は気絶し、かつての部下は勝手に盛り上がっている。
公爵邸の地下室で待つエルナの元へ早く帰りたいゼノンだったが、このバロールの乱入により、事態は王国の国軍すらも巻き込む、文字通りの『大騒動』へと発展していくのだった。
第7話をお読みいただきありがとうございます。
ガルフォード侯爵を追い詰めたと思ったら、前作でデコピンされた四天王バロールが、全力の「勘違い」を引っ提げて天井から乱入してきました。
ゼノンの冷徹な復讐劇が、部下のせいで一気に賑やかな大騒動へと変わっていく様子を楽しんでいただけましたでしょうか。
次回、第8話はこの大爆発の音を聞きつけた王国の国軍精鋭、そして教会の過激派騎士団が侯爵邸を包囲します。内乱の危機を前に、最強夫婦と勘違い四天王がどう立ち回るのか。どうぞお楽しみに!
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