42
【42】
「ちがうよ《そうだよ》」
言葉では否定しながらも、目では肯定する勝利。
「ムダな抵抗しないでよ……。分かってるんでしょ?」
「しらない」
「ショウくんの嘘つき。何度も遊んだのに」
「しらないしらない」
「泣きながら言ったって、説得力ないよショウくん」
勝利は口をへの字に結んで、イヤイヤをする。
「ったく……」
遙香はすっと立ち上がると、リビングのダッシュボードの上から何かを取って、戻ってきた。
「これ。あの場所に落ちてたの。これでもシラを切るつもりなの?」
「げっ! いや……あの……」
目の前に突きつけられた物証。
パールホワイトにキラキラと淡く発光している、薄くて細長いその物体は……。
(なんで持ってんの? なんで落とした俺。マズイ。すごくマズイ。どうするの俺。どうなるの俺。どうしよう俺……)
「これ、ショウくんの羽根、だよね? いい加減白状しなさいよ!」
「タジマくんは何も知りません知りません、知らないから許してください」
言い逃れを続ける彼をガン無視し、遙香は彼の太股の上に馬乗りになった。
(あー……これは、昇降口の悪夢・リターンズじゃないか……)
昔の羽根と今の羽根の両方を突きつけられた勝利は逃げ場を失った。
「なんで認めないの? 怒るよ?」
「もう怒ってるじゃんか」
「あたりまえでしょ! 十年怒ってるよ!」
勝利は言い返す台詞が見つからず、口をつぐんでしまった。
そうだ。彼女は十年間も自分の消息を探していたのだ。父親の助けを借りて。
昇降口でネクタイを掴んで怒声を上げたのも、キスしたからじゃない。きっと黙って雲隠れしてしまったことを怒っていたのだ。
「ご、ごめん……」
プリプリ怒った遙香が、フンと鼻を一度鳴らすと、少し大人しくなった。
「じー…………」と、口で言いながら、勝利の怯えた目を見据える。しばらく見て気が済んだのか、勝利の太股の上から降りて、再び彼の横に並んで座った。
「私、思い出したんだよ」
「なにを?」
「ショウくんがこの街に来て、初めて会った晩のこと」
なにやら嫌な予感がする。……そのまま忘れてくれてよかったのに。
「あの夜、私は瀕死の重傷を負った……そして、ショウくんが何か生暖かいものを私に口移しで飲ませて、私を抱いて、そして……大きな翼で包み込んでくれた」
――どうして。大量の出血で、意識は失っていたはずなのに。
勝利の瞳が一瞬、大きく見開かれた。
「夢でも見たんだろ。別にあんときハルカさんは重傷なんか負ってないし、そもそも俺にはそんなもの生えてない」
「まだしらばっくれてる。逆になんでよ? 羽もある、写真もある、なのにどうして?」
「まだ分からないのか? さっきも言っただろう。どうして教会がお前等親子と男の子を会わせなかったのか、よく考えてみろっての」
「わかんないよ! ちゃんと言ってよショウくん!!」
「言わせんなよ!! こっちにも事情があるって分かれよ!!」
同時に怒鳴って、お互いの顔を見合わせた。数瞬、間を置いて、
「「……ごめん」」
そして、どちらともなく相手の体に手を回し、ぎゅっと抱き締め合った。




