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【35】
勝利たちが一文字家に到着すると、前日の借金取りはいなかった。
銃で脅してお引き取り願ったが、アレで大分懲りたろうか。少なくとも、御曹司のタケノコ本人は本気にしていたようだけど。
「それで貸すのはいいけれど、地図なんかどうするの?」
家の鍵を開けながら、遙香が尋ねた。
勝利が借りようとしているのは、一文字氏が仕事で使用していたと思しき、リビングに貼ってあったあの地図のことだ。
ドアが開くと、東南アジアのインセンスや古書、古木の匂いが漏れ出してくる。さしずめ、アジアンテイストの古物店の香りが一番近いだろう。
「確かめたいことがある。ハルカさんのお父さんが、何を調べていたのか。もしかしたら、失踪の手がかりが掴めるかもしれない……」
「ホントに!?」
遙香の目が大きく見開かれた。ただでさえ大きな瞳が、ひときわ輝く。
「あ、あくまで可能性だ。あんまり期待しないでよ」
「そっか……。うん。わかった」
口には出してないけれど、期待して損した、と顔に書いてある。
(早合点すんなよ……)
遙香が例の地図を持ってくるまで、彼は廊下に飾られた世界中の民芸品を眺めていた。
「世の中には、ホントに器用な人がいるもんだよなあ…………」とため息しきり。
どれもこれも素人目にも本当に素晴らしい品で、民芸品と言うのが失礼なほど精巧なもの、美しいものでいっぱいだった。もしかしたら、この中に、シスターベロニカの興味を惹くものがあるかもしれない、と思った。
(そういえば、シスターベロニカは日本の古都や美術品を見に来日したんだっけ……)
かつて某国の軍人だったベロニカは、退役直後に観光で日本を訪れていた。
和風好きな彼女は度々来日し、仏教芸術や日本の手工芸品を熱心に見て回っていたという。その最中、彼女の経歴に以前から目をつけていた教団がスカウトしたのだった。




