24
【24】
昼休みになり、勝利はちょっと出遅れて学食に行った。すると遙香が信じられない量の昼食を取っていた。
親子丼、ネギトロ丼、カレーうどん、焼き肉定食。炭水化物過多なメニューが、テーブルいっぱいに皿が並んでいる。
周囲の生徒は見慣れているのか、誰も気に留める者はいない。
(……あ、ハンバーガーをタッパーに詰めてるぞ。まさか夕食にする気か?)
「ショウくん、遅いよ。もうA定食なくなっちゃうよ?」遙香はもぐもぐしながら言う。
「う、うん……」
呆気にとられていた勝利は、慌てて配膳カウンターに向かった。
サンプルを見るに、さっき遙香が食べていた焼き肉定食が今日のA定食のようだ。しかし、彼の気分はコレじゃない。配膳係のおばさんへ、カウンター越しに注文を伝えると、勝利ぼんやりと遙香をながめた。
(学食って、なんでもタダで食えるからいいな。あ! だからハルカはバーガーをお持ち帰りするのか。これも生活の知恵ってヤツか……。ハルカってタフだなあ)
勝利はコロッケカレー特盛りを持って、遙香のいるテーブルに戻ってきた。
「なあ、家で食事作ってないのか?」
彼はコロッケにソースをかけながら遙香に訊ねた。
「うん。節約しないと。お父さんがこの学校に入れてくれて良かったよ。タダで食べられる学食なんて、他にはないもの」
スプーンでふわとろの親子丼をかきこみながら、遙香は言った。
「え? ちょっと待って。学食ってどこでもタダじゃないのか?」
「え? まさか。そんなハズないじゃない。あ、でも……」
ハルカはスプーンを咥えながら思案した。
「でも?」
「この学園は、ショウくんのいる教会と同じ経営でしょ?。で、全国各地に同じ系列の学校があるから、そこならきっとタダかもしれないわよ」
「本当に、本当に他の学校じゃメシはタダじゃないんだな?」彼は身を乗り出した。
「あ、当たり前じゃない。学校ごとに違うわよ。普通は有料だし、購買だけのとこもあるし、みんなお弁当なところだってあるわよ。……ねえ、どうしたの?」
勝利は血相を変えて席を立つと、後からやってきたタケノコを捕まえて、同じ質問をぶつけた。一緒にいたタケノコの友達にも訊いた。
――でも、返ってきた答えは、全く同じだった。
『どういう……ことなんだ?』
これまで彼は一切疑問を抱いてこなかった。
それが当たり前だと思っていたからだ。しかし、本当は己の中の常識ってヤツは、世間の常識とは全く違うんじゃないか。そんな気が沸々としてきた。
遙香の家で見た写真もそうだ。
自分には全く身に覚えがないのに、彼女は知っている。
『俺は異常かもしれない』と。
些細な掛け違いかもしれない。だが、大きな掛け違いだったら?
小さなほころびから、色々なものが信じられなくなってくる。
足元が急にゆらゆらし始めた。
だがそんなのは気のせいだと分かってる。自分以外、誰もゆらゆらしてなどいない。
ゆらゆらしているのは、自分の中の確たる記憶――
『俺って、一体?』




