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第四話

 あの日から毎日のようにドリースと剣を交えている。ドリースの構えをあの日以来抜くことはできていない。父とも剣を交えたが、父にはあまり剣の才能がなかった。


 毎日剣を振ることで感覚はだんだんと取り戻しつつある。すでに父に負けることはなくなっていた。そう遠くない時期にドリースとも対等に戦えるようになるだろう。


 家庭教師はまだ来ていなかった。どうやら条件でなかなか折り合いがつかないらしい。


 私の剣を防ぎながらドリースが話しかけてくる。


「ウォル。お前はラグス流剣術の基本は出来ているし、どんどん強くなっておる。家庭教師など必要ないのではないか」


 確かにそうかもしれない。やっと頭に体がついてきたというのだろうか、歯車が噛み合ったとでもいおうか、想像したとおりに体が動くようになってきている。これでは家庭教師など必要ないというドリースの意見ももっともであろう。だが家庭教師候補は直弟子だということだし、弟子の成長が気にならないわけでもない。


「そうですね。家庭教師について頂くかどうかは別にして、一度その方とお会いしたいですね。出来ていると仰っていただきましたが、私のラグス流も本で学んだだけのもの。その方から見てどう見えるのかお聞きしたいですし」


 そこで今まではわざと使わなかった突きを繰り出す。


「それに、その方の腕前も見てみたいですね」


 ついでのように答えたが本音は後のほうだ。隠していた突きはあっさり防がれた。


「そうじゃな。わしも、その男の腕前は見ておきたいな。それにしても突きを放つとは、お前はわしを殺す気か。か弱い爺になんてことをするんだ」


 受けに回っていたドリースがその言葉とともに、脳天を狙って剣を振り下ろしてきた。今まで受けしかしてこなかったドリースのその動きに驚きながらも、剣を無理やり引き上げ受け流す。剣を受け流せたのはドリースが手加減してくれたのもあるだろうが、それ以上に力が衰えているというのが大きいだろう。思った通り、力の衰えたドリースと力の発達していない私は確かにちょうどいいのかもしれない。


「か弱い爺は六歳の子供に向かって剣を振り下ろしたりしないものですよ」


 言い返しながら、受け流した時にできた隙に打ち込もうとしたところで、足がもつれこけてしまった。さすがにまだ持久力というものが追いついてこない。こればかりは前世の経験ではどうにもならないな。


「今日はここまでにしておくか。わしもさすがに疲れた。じゃあ後片付け頼むな」


 そう言うと車椅子に座りいつものごとくさっさと出て行こうとする。それに対して、いつものように頭を下げようとしたところで、父が近づいてくるのがわかった。ドリースが部屋を出ようと蹴り開けたドアが父にぶつかる。


「大祖父様、だからドアを蹴って開けないでくださいとあれほど申し上げましたのに」


 父は鼻を押さえながら部屋に入ってきた。


「ダークよ、お前は本当にもう少し気配に気を配れ。わしにはお前が向かってきていることなぞとっくにわかっていたぞ」


 ドリースが父に説教を始めた。


「ウォルですらお前が来ることに気がついておったのに、お前がわしの気配に気がつかないとは本当に情けないことだ。大体お前は……」


 長くなりそうなのでこのあたりで父を助けることにした。こんな役回りばかりしている気がする。


「父上なにか御用があって、来られたのではありませんか」


 父はその言葉に嬉しそうな顔をこちらに向けた。鼻の辺りが真っ赤になっていて、表情と相まってとても滑稽だった。


「そうだそうだ。その通り。お前に話があってやってきたのだ。やっとラグス流の剣士と話がついてな。これがなかなか金に意地汚いやつで苦労した。家庭教師につくかどうかはわからないが、一度ウォルの剣術を見てくれるそうだ」


 金に汚いわたしの直弟子か。心当たりはある。金のために剣術をやっていると言いきっていた弟子がいたのだ。志はどうであれ、剣の才能に恵まれていたことは間違いない。


「それでこれから見ていただこうと思うんだが、ウォルは今からでもかまわないかい」


 ドリースとの稽古の直後ということもあり、こちらを心配してくれたのであろうがある程度休息はできた。問題はない。


「はい。かまいません」


 その言葉を聞き、軽く頷くと父は部屋を出て行った。


「どんな男が来るのか楽しみだな。しかし金に汚いラグスの直弟子なんているのかね。ラグスの直弟子だと言えば、家庭教師だろうが、剣術指南だろうが選び放題だ。ラグスの直弟子ってのが本当ならわしも手合わせしてみたいが、まぁ十中八九騙りだろうな」


 すまぬドリース。それがいるのだ。私には指導者としての才能は皆無だった。こうなるともう私も騙りであって欲しいと願うようになっていた。


 そこに父が人を連れて戻って来た。


「こちらがウォルの剣術を見てくださる……」


 隣に立っていた人物が父の言葉を引き継いだ。


「ラグス流一級剣士イリス・ベナンだ。短い期間になると思うがよろしく頼む」


 年の頃は二十歳前後。長めの金髪を後ろで無造作に結んだ、意志の強そうな少しつりあがった大きな目が印象的な女性だ。


「わしはドリース・アンヴェルスだ。まさかラグス流の一級剣士がこんな綺麗な女性とはおもわなんだ。てっきり男だとばかり思っておった。許してくだされ」


 ドリースが少し頭を下げた。


「いえ、剣士の世界が男性ばかりなのも事実ですから。女だからと侮られることも少なくありません。ですが、わたしは最高の剣士であると自負しております」


 イリスはそう言いきった。最高の剣士か……


「ウォルター・ドリース・アンヴェルスです。よろしくお願いします」


 そう言ってドリースのように私も頭を下げたが、頭を下げたのは、弟子をうまく育てられなかったと言う過去の過ちを見せ付けられたようで、彼女を直視できなかっただけかもしれない。彼女はまぎれもなく私の弟子だった。

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