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死弾  作者: 北村タマオ
第一章 開戦篇
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0009(第一章 完) 無貌の中央

 私達は血がつながっていない。

 それでも、私達はそこら辺の家族よりも余程家族している。共働きでお母さんかお父さんが迎えに来るまで、保育園で遊んでいる。家に帰ると、先に帰れた方が夕飯の用意をする。

 私はどちらかと言うと、お父さんの料理が好き。でも、お母さんだって嫌いじゃない。

 お父さんとお母さんは、子供が産めない身体で、捨て子の私を引き取ってくれた。だからこそ、私もちゃんといい子になれる様に頑張っている。偶に頑張りすぎて、疲れちゃう事もあるけど、それでもお父さんもお母さんも大好き。

 だから、こんな形で別れたくない。お父さんとお母さんの目の前で、龍のオバケみたいな怖い生き物に足から食べられるなんて。

「安心しなぁ、パパやママともすぐに一緒になれるぜぇ、俺の胃袋の中によぉ。あああああああ! 俺はお前らみたいな幸せ家族が大っ嫌いなんだよ。本当はそんなに稼げても居ないし贅沢な暮らしもしていないのに、幸せオーラプンプン匂わせてよぉ、嫌がらせかぁ? カースト最下層の俺に対する嫌がらせかぁ? けっ! そんなの夢、幻だよ!」

 やがて、龍の化物は娘を最後まで噛み砕き、呟く。

「ごちそうさま。次はどっちだ?」


 全てが暗転して、永遠の静寂が支配する中に放り込まれたのかと思ったら、目が痛くなるほどの眩い光が両目を焼くように瞬く。

「お前、異世界から現世に転移してきた勇者の使い魔であるドラゴンに食い殺されたんだよ。可哀想に、まだ5歳か。人生、これからなのに。まぁ、こういう運命もある。他に転生したい異世界があったら」

「嫌だ! お父さんもお母さんも居ない世界なんて嫌だ! どんな姿でも良いから、お父さんとお母さんと一緒に居たい!」

「どんな姿でも良いんだな。ならば、戻れ、お前の家族のもとに」


 父は、食われた娘の仇を前にしても、母が後ろから前に出ようとする自分を羽交い締めにされて、動けずに居た。

「逃げましょう! 死んだら、死んだ何にもならないじゃない」

「そいつは困る、ゆっくり食らってやろうと思っていたんだけどな」

 龍の化物の駄菓子も買えない様な安い挑発を受けつつも、父は前に出ようとする。

「娘の居ない世界に居ても仕方がないじゃないか、見てろ、目玉の1つでも抉ってやる」

 龍の化物は、その言葉を聞いて、ブルブルと震えだす。

「あああああああ! 俺はお前らみたいなホームドラマチックな会話劇が一番嫌いなんだよ、望み通り殺してやるから、死ね!」

 今度は100円ショップで買えそうな値打ちの台詞を口にすると、父を噛み砕こうとして大口を開ける。一家全滅か、ハハッ、ザマァない。家族全員、ここで化物に食われて終わりだ。

 母も覚悟を決める。自分1人だけ生き延びるつもりはない。父親に虐待されていた過去を持つ自分を受け入れてくれた男の為ならば、自分も付き合って死んで構わない。

 牙が目の前に迫ってきて、突然止まる。龍の化物は、明らかに動揺していた。身体の異変に、躊躇している。やがて、腹から口に出てくる光が2つ。

 コルト・パイソンが2つ。父と母の胸元に飛んでくる。これは、一体何なんだ。お互いに状況が掴めない中で、父と母の頭の中に、呼びかけられる。

「撃って!」

 言われた通り、コルト・パイソン、名工が手掛けたら傑作が産まれると言われるリボルバー拳銃で、弾倉が空になるまで、2人で12発の弾が、龍の化物の身体を抉り、穿ち、やがてその周囲の肉が腐り始める。全身が焼け爛れていき、肉が腐り落ちて、骨が溶けて、アスファルトの上に染みになって消える。

 街の方を見ると、まだまだ他の化物が暴れているらしい。しかし、弾倉は見ても6発分しかない。

「大丈夫、すぐに次の弾を込めるから」

 父も母も、銃から聞こえる声を聞いて、まさかと思う。いや、でも、あんな化物が街で暴れまわって、人を食らっている状況を思うと、殺された娘が拳銃になって戻ってくる事もあり得る。

 今は、ただ、戦うのみだ。家族は、街外れのアパートから、街の方へと向かっていく。弾倉を見ると、いつの間にか弾丸が補充されていた。


 勇者は、使い魔を街に放っていた。全ての使い魔が転生者のみで固められているのは、レベル10兆の勇者の采配である。この勇者は、剣を持っていない。盾も無い。普通の服装である。これはレベル10兆の肉体に叶うモンスターなんて居ないからだ。現世で勇者に叶うやつなんて居ない。クズのいじめっ子も、威張っている割には役立たずのクソ教師も、ハズレのガチャを引かされたバカ両親も、税金泥棒の自衛隊も、いざとなったら絶対に日本を守るつもりがない在日米軍も、このレベル10兆の勇者に勝てる筈がない。

 そんな勇者だからこそ、1つの違和感に気がついていた。使い魔が次々と悲鳴をあげて、腐って溶けて消えていくではないか。そんな力を持つ人間が居る筈がない。では、やつは何者なのか。

 ……いや、奴じゃない。奴らだ。一組の男女、いや、夫婦である……それも違う、家族だ。あの拳銃からは、人の意思を感じる。

 面白い。あんなゴミみたいな拳銃で、このレベル10兆の勇者と勝負になるのか。見ものだな。


「そんな、まだ、まだ子供じゃないか」

 父はそう思わず口から出して言う。まだ見た感じは12才程度だ。頭の中は何歳児なのだろうか。

「でも、説得も説教も通じる様な相手じゃないわよ」

「そんなダサい事しないから安心しろよ。俺、こう見えても何不自由ない生活していたんだけど、ある日、気づいちゃったんすよね」

 レベル10兆の勇者は、鋭い口調で言い放つ。

「こんな負け犬どもの作った国で1番になっても意味も価値もねぇってな。俺達は生まれながらに五寸釘を打たれる藁人形なんだよ。大人のお前らだってそうだろうよ。どうあがいたって勝てないから、「愛情」だの「絆」だのを持ち込んで「家族」なんてものを作って、自分を騙しているんだよ」

「……我慢して最後まで聞いたのに、大した事は言えていないわね。あなたの屁理屈で、大勢の人間を殺して、傷つけて、悲しませている時点で、あんたが正しいなんて絶対に有り得ないのよ。完璧な世界に生きたければ、異世界にでも行きなさい。あそこに行けば、あなたを拒む人間も居なければ、環境だって恵まれているでしょうからね」

「まぁウダウダとレスバみたいな口喧嘩なんてするのも面倒だからよ、さっさとかかってこいよ」

 母は、1発だけ、勇者の肩に撃ち込んでみる。レベル10兆の血肉が飛び散り、骨まで溶けていく。

「あ、あれ、おかしいな。絶対に死なないって、魔天使が言っていたのに」

「可哀想だとは思わないよ、悪いけど」

 父もそう言って、勇者の胴体に3発撃ち込んでみせる。レベル10兆の身体が、焼ける、燃える、爛れる、溶ける、そして、消える。染みになる。


 半分崩れたアパートに戻った父と母は、もう元の日常が戻らない事、娘はもう生きていない事、そしてこの世界に、今後さっきの勇者みたいな奴らがどんどんやってくるに違いないと言う事だ。

「誰かが、守らなくちゃいけないな。そうだろう」

「そう言うあなたが、一番好き。娘も一緒だし、私達が揃って戦えば、絶対に負けないわよ」


 遠目にその光景を見ていた魔天使は、いよいよこの時が来たと、喜びと恐怖の半々で震えていた。

 名無しの女。ハスキー。僕。私。ママ。聖女。シューター。カイム。オウ。父。母。娘。

 12人のレジスタンスが揃った。お互いに存在を認知し合っていないが、目的は一致している。

 しかし、お上は常に何を考えているのか、よく分からない奴だ。単純に現世と、それが生み出した異世界、全部気に入らなければ、放っておけば良いのに、一体何をチンタラとした破壊活動をさせているのか。あのクズ勇者や阿呆魔王に、現世を潰させるつもりなのか。しかし、であれば「神様」が12人のレジスタンスを用意するはずがない。

 さぁて、どう生き抜いていくつもりなのか。


第一部 完


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