0010 神託
「何故、ここへ呼んだ」
あんたのしている事の意図がよく分からない。12人の人間に力を与えたのだって、よく分からない。現世の人間の為にいちいち異世界を用意してやるのも、よく分からない。どういう理屈で、そんな事をする。
「元々世の中は理屈では動かん」
あんたがそれを言うか。確かに、理屈では測れないのが世の理だが、これは幾ら何でも酷いのではないか。
「何が酷い」
異世界は、2度と現世に戻れないからこそ、現世に未練がない人間が向かうからこそ、誰も傷つけない社会装置として機能していたのではないのか。その機能が、今や完全に壊れている。
「壊れて何が問題でもあるのか」
いや、それで大勢の人間が死んでいるぞ。現世・異世界問わず、そこら中で死んでいるぞ。良いのか、このまま静観しても。
「介入がしたければ、勝手にやれ。我は知らん。不条理で理不尽なのは、世の中だけとは限らん。人間も、神も、魔王も、天使も、悪魔も、理屈では動かん」
あんた、仮にも創造主だろ。このままじゃあ、現世も異世界も大混乱になって、下手すれば滅びるぞ。
「なにか問題でもあるのか」
思い入れとか、愛着とかはないのか。
「では逆に問う。100歳の親が、70歳の子供に思い入れや愛着を感じるのか。50歳の孫に思い入れや愛着を持つのか。20歳のひ孫に思い入れや愛着を持つのか。そして、玄孫の顔を見るまで生きたいと思うか?」
……まさか。創造主。
「あんまり長生きはするものじゃない。お前らも、あまりはしゃがない方が良いぞ。それこそ、世界の最期の日が来るぞ。」
「それは本当か」
「ああ、創造主は次を見据えている。恐らく、俺達もお前達も、次に選んでいない。あの12人から選ぶつもりだ。それは考えすぎかもしれないが、何の意図も無しに、「自由」にやらせる筈がない。そんなお人好しな性格だったか?」
「確かに。でも、人間から選ぶのか。天使や悪魔を差し置いて」
「元々代理戦争の為に作られた生き物が、繁殖と繁栄を繰り返して、あの星を充てがわれた。異世界は、地球とは別の代理戦争の舞台として用意した筈だったが、いつしか人間の玩具にされてしまった」
「天界も魔界も、直接でも間接でも、武力衝突なんてしなくなった。今では堕天使も、逆に闇落ちから天使になる悪魔も珍しくない」
「そして、創造主の余命はもう残り少ない。次の創造主は誰が良いのか、あるいは戦火が拡大して、何処にも誰も居なくなるのか」
「ハルマゲドンか。そんなものは起こらないと思っていたがな」
「それで、ラグナロクを戦う事になった我々としては、どうすれば良いのかな。人間の作った神話の様に、世界が滅びるまで殺し合うべきなのか」
「最期は、信心深いものが蘇るのか。あるいは、生き延びた妖精が世界を再生させるのか。神話だろうと、物語である以上、起承転結で組まれている。我々が直接戦えば、理不尽で不条理な最期を遂げるかもしれないぞ」
「では、また代理戦争か」
「直接自分達の土地と民を巻き込む戦いになれば、我々は全てを失う事になる」
「その代わりに、また大勢の人間を殺す羽目になりますな。あの頃の様に。「死弾」を現世にばらまいているのも、現世と異世界の転移や転生の条件や手段も緩くしているのも、全ては天界・魔界による最終戦争を避けるためですかね」
「100歳の老人が、家族の事を慮るでしょうかね。あとは布団の中で静かに息を引き取るだけの身で、それ以上の栄光と未来を欲しがるでしょうか」
「さぁ、寿命のない我々には分からない感覚ですが」
月から眺める地球は美しい。こんなにも美しい所で、人間は勿論、天使も悪魔も下らない縄張り争い、談合、腹の探り合い、裏取引、口裏合わせは日常茶飯時。堕落しているのは、何も人間だけの話ではない。いわゆる、官僚的な発想や行動が身に染み付いてしまい、組織としての流動性を失ってしまっている。
このままでは、惰性で続けた挙句に滅びるかもしれない。そうなる前に、なにかしなければ。100歳の老人こと創造主が、そこまで考えるほど、頭がしっかりしているとは限らないが、もしかすればもっと深淵な理由や動機があるかもしれない。
異世界からの侵略ばかりじゃない。現世から異世界への侵略もあるかもしれない。何がどう転ぶかなんて、誰にも分からない。創造主にとっては楽しいかもしれないが、被創造物の人間にとっては、いや、それに仕える軍勢であった自分達にとっても、そんなのは迷惑に過ぎない。真面目にやるのが阿呆臭くなる。
ここは1つ、静観すべきだろう。自分達の為にも。




