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死弾  作者: 北村タマオ
第二章 混沌篇
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0011 現実の醍醐味

 「敵」もそろそろ、攻め方を変える頃だろう。彼女はそう見ていた。このままバラバラに現世へと攻め込んでも、異世界側に勝利はない。各個撃破で、「敵」が呼ぶところの「12天使」の使う死弾により焼け爛れて、腐って、溶けてなくなるまでである。

 「敵」はそろそろ、戦力分散の愚を避けて、総力戦を仕掛けてくるかもしれない。だとすれば、次は大掛かりで、そして一挙に人間社会を消そうとするに違いない。次狙うとすれば、日本の首都・東京。いや、東京だけを狙うとは思わない。日本各地の大都市全部が、同時に狙われるかもしれない。それを繰り替えせば、幾ら「12天使」が頑張っても、守れる数より死ぬ数の方が多くなる。待っているのは、滅亡だ。

 そうなれば、「敵」だけでなくこちらも戦い方を変える必要もある。勝利条件。ただやってくる「敵」を迎え撃つだけでは勝てない。守れる数より死ぬ数の方が多くなってしまう。異世界へと逆に攻め込むしか無い。しかし、全ての異世界が「敵」であるという単純な話ではない。

 であれば、「本丸」を落とすしか無い。この現世と異世界を創り上げた、創造主に対して、交渉に持ち込む。あるいは、決裂すれば撃ち殺す必要がある。


 何もない部屋にて、禅を組みながら今後の成り行きを考える彼女に対して、「ハスキー」はジャンクフードを食べながら、それを眺める。自分もやってみようかな、と思ったが、数秒と持たずに雑念や煩悩が襲ってきてギブアップした。無から産まれた「死弾」にしか出来ない、名前のない女だからこそ出来るのだ。

 そんな彼女に対して、好きにもなれないし憧れもしない。むしろ、人間こうなったら終わりだなと思っていた。

 元々異世界にて勇者となって戦った「ハスキー」であったが、もう欺瞞の中で生きるのに価値を見いだせなくなった上での現世への回帰である。彼女の事は嫌いにはならないが、好きにもなれそうにない。もう少し煩悩に身を任せても良いのではないかと思ってしまう。

「決めた、この戦いの決戦の場が見えた」

「決戦の場ってねぇ、そんな簡単に終わるのかよ。異世界なんてそれこそ星の数ほどあるんだぜ。それ1個ずつ消していったら、どれだけ時間がかかるか」

「いちいち兵隊を潰していたらキリがない。王手をかける為には、順番が必要よ」

「で、その順序をどう組み立てる?」

 S&W SAKURAを手に取りながら、彼女は答える。

「1度、大きな勝利をあげる必要がある。それで敵を焦らせれて、異世界勇者よりも更に上の存在を引き出す」

「ちょっと待ってくれよ、それって神様とやり合おうっていうのか」

 流石の「ハスキー」も声を荒げる。なんともまぁ、話のスケールがデカくなりすぎだ。こちらの武器は、ちっぽけな拳銃だけだ。それでどうやって勝つのか。

「神は居たとしても、絶対の存在ではない。あいつも撃たれれば死ぬ。この死弾ならば、身体が焼け腐って死ぬ」

 それで、拳銃一個でどうするのか。こんなちっぽけな武器だけで、神様を殺せるのか。

「剣や魔法よりも、死弾の方が圧倒的に有利よ。引き金を引く指さえあれば、誰でも使える武器だから」

 また自分も「禅」でも組んでみようかな。今まで見えなかったものが見えるようになるかもしれない。「ハスキー」はそう思いながら、ジャンクフードのゴミを片付けると、彼女にペットボトルの緑茶を進める。いつも通り、礼の1つも言わないでこれを受け取り、グビグビと飲む。


 「ハスキー」は、夜景を見ながら、自分の隣にも美形のヒロインがいればなぁと思ったが、あの名無しの女がいるではないかと考えた所で、すぐにそれを打ち消す。あの鉄面皮のお下げの美女が居ても、恋バナの1つも咲こうとはしないだろう。

 しかし、こうして一緒に生活していて、一切のときめきを感じさせない、あの無感情・無愛想、どうしょうもないくらいに人間的魅力のない女だ。あんなのに人間的な感情や性格、個性が出来上がるのだろうか。だとすれば、それは「奇跡」だ。

 この1ヶ月近く、異世界からの侵略はあまり見受けられない。それでも、こんなに人間が死に、街が壊され、多大な被害を被っても尚、異世界が存在し続けているのは、あるいは異世界に行きたいと思っている奴は、後を絶たないのだ。

 みんな、そんなに現実が嫌いなのか。そんなに異世界に行きたいのか。あそこは、アライグマやヒグマを捕まえるブービートラップである。美味しい餌に釣られて、気がつけば殺処分だ。だが、檻の中で餌をもらう生活が良いというのであれば、異世界に行くのは誰も傷つかない形の「引きこもり」であるが、そうしてこの問題を放置し続けた結果が、今の悲劇であるとすれば、自分も、「ハスキー」も、この問題の当事者として責任を果たさないといけない。

 舞台は現世から異世界、あるいは天界や魔界まで、武器はこの小さい拳銃と、そして勇気だけ。仲間はごく少数。どんな異世界の物語よりも、無謀で壮大なスケールである。

「仕方がない、やってやるさ」

 「ハスキー」はそう呟くと、仮の住まいであるアパートの1室の窓から夜空を見上げる。こちとら、人間である。チートも無い、神様のご贔屓もほぼ無い、能力は平凡。そんな男が、あの「無」の少女と共に戦うのだ。

 これこそ、人生の面白さ、現実を生きる楽しさではないか。理不尽で不条理な状況の中に放り込まれて、もがき、あがき、苦しみ、生きる。これ以上の「娯楽」はない。いや、それこそが「生きる」という事だ。

 「無」の彼女の禅を後ろから見ながら、「ハスキー」も見様見真似で禅を組む。そこから見える、そこからしか見えない世界を見ようとする。


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