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死弾  作者: 北村タマオ
第二章 混沌篇
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0017 勇気の言葉

 今ならば、異世界に行く人間の、異世界に生きたがる人間の心理が、気持ちが、よく分かっていた。それは誰もが思う所だ。長い人生で、いや、老若男女問わず、1度は考える事ではなかろうか。人生はギャンブル、だからこそ、1度でもしくじれば2度目はない。いや、「平民」は1度しか無いが、世間で言うところの「上級国民」は何度でもやり直しが効くが、そんな奴らはこの狭い日本の天辺のごく一部である。

 もっと人に優しい環境で、やり直したい。そう思っている人間が、異世界を求めるのだ。こんなつもりじゃなかったのに、いつの間にか最悪な人生を送らされている日常を無かった事にして、次はもっと上手に生きたい。

 異世界は、そんな人間に対して神が出した返答だ。良かろう、ではこの世界をくれてやる。そこで一生幸せに暮らせ。かくして、可哀想な人間は救われて、皆幸せになりましたとさ。めでたしめでたし。

 では、終わらない。幸せになればなる程、許されれば許される程、元いた世界が許せなくなる。自分を虐げた「上級国民」に対する憎しみが増す。そして、この事実に気がつく。

 自分達は救われたのではない。逃げたのだ。逃がしてもらったのだ。逃げた先で幸せになって、いや、幸せにさせてもらって、それで万事解決? 冗談じゃない。折角、異世界にて無敵の力を手に入れたのだから、これで現世に戻って、復讐してやる。

 そして、神様はまた返答するのだ。よろしい、やって来い。と言って、かつて逃げ出した人間達がクズ勇者となって現世に戻ってきているのだ。では、何故に「ママ」の様に「死弾」を使う拳銃を与えてきたのか。神様以外にも、色々な考えの連中が居るのだろう。魔王か、悪魔か、天使か、誰かは分からない。でも、そいつは確かに存在している。

 そいつらは、どうやら大掛かりな行動に出ようとしているらしい。北海道地方にある某平原にて、視界を埋め尽くす、勇者、勇者、勇者。男女比は同等であるのは1つの驚きである。「ママ」がここまで44オートマグの「死弾」にてシミにしてきたクズ勇者を全部合わせても、こんなに大勢にはならない。

 勇者達の上空から、光の粒が降ってくる。その粒が徐々に1つに集まっていき、形となり、それは女神となって現れる。女神? いや、こいつはそんな言葉で表現して良いものではない。首から下は確かに女神だ。だが、この顔で女神は無い。目つきが鋭すぎる。眼前に誰が立っても、全てを下郎として扱い、これを認めようとしない目つきである。

「お前達、この世界が嫌いか?」

 決して声は大きくない。しかし、聞く者の胸を抉る声である。それを振り払うように、勇者達は答える。

「嫌いであります」

「私もよ。さぁ、壊していらっしゃい。北から南まで、満遍なく壊し、殺し、奪い尽くしなさい」


 こんな事の為に。こんな事の為に、国1つ消えてもいいなんて。やり直したい。誰もが思う事だけれども、それで人が死ぬのは良い事なのか。ここで何もしないで、見て見ぬふりをして、あるいはこれに加わって北から南まで侵略しつくすのが、正しい事なのか。

 それは違う。あんな思いをするのは、私だけで、いや、私達だけで充分ではないのか。いや、私達だけと言うには、この見渡す限りのクズ勇者の列は、どう釈明しようというのか。この勇者達に必要なのは、問答無用の鉄拳制裁なのか。違う、それでは同じ事の繰り返しだ。これはもっと根深く、深刻な問題である。この修羅の女神と言えども、理由も無く、こんな事をしていない。

 何か自分達が、大切な事を見落としているのかもしれない。ここから44オートマグで、あの修羅の女神を撃ち殺して、それで万事解決、と言う訳にはいかないのだ。自分達が変わらなければ、未来永劫、この戦争は終わらないのだ。

 息子の顔が、この手で、この銃で撃ち殺した息子の最期が頭をよぎる。オオカミの化物になって、男を食らい、女を辱めた息子。最期は、このオートマグにて撃ち殺したのだ。なんて酷い事をしたのか。今ならば、絶対に撃たない。

 「ママ」は、決意を固める。もう家はローン諸共、火をつけて燃やしてきたのだ。失うものなんて、今度こそ無くしてしまったのだ。

 止めなくちゃ。駄目だ、そんな事をしたって、地球上の全ての人間を殺しても、何も解決しないじゃないか。世の中が理不尽で不条理なのは分かる。それに耐えられない気持ちも分かる。やり直したいのはあなた達だけではない。人は皆、同じ条件で生きているのだ。「上級国民」? 金を儲けて、社会的地位を得て、名誉を受けて、この世界にて栄達しても、罪を犯せば全部奪われるのだ。それが生前か、あるいは死後か、どちらであったとしても、遺族に課される不名誉と懲罰は計り知れない。

 でも、殺せば全部解決なのか。それが変わるべき世界の、それも一番駄目な理屈ではないのか。異世界へ旅立って、お前達は一体何を学んできたのだ。そこで傷つき、泣いて、笑って、生きてきたのに、そんな事も分からないのか。

 話せば分かる。とは限らないし、思えない。だからこそ、話さなくてはならない。「ママ」は、隠れていた森の中から姿を表すと、天に向けて「死弾」を1発撃ち放つ。全ての勇者達が、こちらを向く。

 息子よ、頼む。この駄目な私に、力を貸して。勇気があれば、勇気さえあれば、あの時の私に足りなかった勇気さえあれば、出来る筈だ。


「私も同じなの! あなた達と同じ! もう一度やり直したいと思っているのは、同じなの! 大丈夫、やり直せるわ、生きていれば、何度でもやり直せるの! 1人では辛ければ、私と一緒に来て!」


 「ママ」は、44オートマグを北の平原の地の上に捨てる。そして、言う。


「さぁ、一緒に生きて! 私の事も助けて!」


 結果的に、「ママ」の勇気が通じたのは、全体の半分程度であった。それでも、充分であった。クズ勇者達は、1対1の比率に分断されたのだ。

 修羅の女神は、それを見下ろして告げる。

「これは戦争ね。結果が楽しみだわ」

 ちょうど半々に割れているクズ勇者と反省勇者。このまま北の平原で大決戦にはならず、44オートマグを拾った勇者達は、転移魔法にて、その場から姿を消したのだ。


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