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死弾  作者: 北村タマオ
第二章 混沌篇
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0016 命の生贄

 拳銃1つで何が出来るのか。

 それも、いい形で未来を受け入れる為に、何が出来るのか。私利私欲でこの拳銃を使えば、どんな惨禍が待っているのか。アメコミでの名台詞、大いなる力には大いなる責任が伴う、この拳銃だってそうである。

 何故、こんな拳銃が与えられたのか。あの声は、自分を「聖女」と呼んでいた。別に頼んでも居ないのに、強大な力を与えられて、異世界からの侵略と戦っている。それがこんなにも辛く、悲しく、虚しい行為なのか。大いなる責任とやらで、こちとら心の背骨がへし折れそうである。

 「聖女」は、拳銃を何度か海に捨てようとしていた。こんな力は呪いだ。望まずに与えられた力なんて要らない。力は彼女自身をとことん孤独にさせていた。よく、異世界からの侵略が始まる前の夢を見る。あんまりルックスは良くない、否、てんでルックスは良くない「聖女」であった。当然、悪口や冷やかし、嫌味も言われたのだが、周りが賑やかで話が通じる人間の居た世界の、なんと平和で貴重なものだろうよ。それが今、見る影もない。

 少し痩せたかしら。「聖女」はそんな事も考えていた。食べるのも好きだったよな。今は日雇いの仕事をしながら、異世界からの復讐者の噂を聞けば、西へ東へ北へ南へ、このS&W M29の外見をしている「死弾」を用いる拳銃で、クズ勇者を1人残らず始末していく。女の時もあった。名乗り口上で聞いた勇者のレベルは、下から1万、上は100京だ。自分のスペックを一頻り自慢してから、街を燃やし、人を殺していく。

 駄目だ。駄目だ駄目だ。こんな拳銃1つで、幾らクズ勇者を殺しても、現世にて何か根本的に変わらない限り、この連鎖は永遠に続いていく。何処かで、誰かが変わらなければならない。

 でも、一体誰が変わらなければならないというのか。そこが曖昧模糊では、話にならない。いま危機的状態にある本屋の一角を埋める「世直し本」にて「あるある」の1つ、社会問題について語る際に、「変わるべき」対象として人間を標的とした際、その表現を曖昧模糊にして煙に巻く表現を多用する様な態度である。政権交代や法改正、意識改革、構造改革、規制緩和、あるいは規制強化、これまで使われ続けた美辞麗句の数々が、頭をよぎる。でも、一個だって世の中の為になった試しがないではないか。

 もっと肝心な部分で、もっと根っこの部分で、何か見落としている。何故、あの時この拳銃を与えられたのか。好きな映画に出てくる拳銃であり、「聖女」の体格だからこそ使える拳銃だ。

 どうすればいい。この拳銃1つでは、この巨悪は倒せない。この問題は改善されない。今どき、何を真実とする事が出来るのか。インターネット? マスメディア? 政府広報? 全部100%の信頼のおけるものだろうか。

 どうすればいい。このままでは、後がない。こちらが守れる人間よりも、相手が殺す人間の方が圧倒的に多い。この銃だけでは、駄目だ。ここで水際対策なんてして、1人でやっても、やりきれない。守りきれないのだ。仲間は居ないのか。いや、居たとしても意見が一致するとは限らない。

 ……もしかしたら、戦う相手を間違えていたのではないのか。相手だけではない。場所も、だ。異世界だって、行き来する手段さえ奪えば良い。異世界と現世は、それぞれ移動が不可能だからこそ、成立していた関係である。別に異世界を潰すのが最後のゴールではない。異世界はそのままでいい。

 では、何が悪いのか。何が問題なのだ。もっと、もっと広く、深く考えを巡らせろ。考えるな、感じろ、とでも言うべきか。異世界と現世の間には、上下関係はない。必要だから産まれてきた。では、何故に今になって、現世を脅かす様になったのか。

 誰かが、それを手引きしている奴が居る。そいつを撃つ。そして、2度と同じ事が出来ない様にする。今まで殺したクズ勇者だって、異世界でだけやりたい放題する分には構わない。問題は、その力で現世を破壊するなと言いたいだけだ。

 ……私に、出来るかしら。そんな事が。出来る。そして、私が考えている事であれば、私がたどり着ける答えであれば、他の同じ「死弾」の使い手も恐らく、否、絶対に同じ結論に至るだろう。

 ならば、私は、ここに残る。ここに残って、皆を守りたい。この拳銃は、その為に使う。この命も、その為に使う。頼むぞ、仲間達。同じ結論に至っていれば、あなた達は異世界から神様へと銃口を向けるでしょう。そして、それは「敵」も同じ事を考えているに違いない。

 そうであれば、お互いに手を打つ筈だ。そして、「敵」が狙うのは「死弾」の使い手の居ない現世である。異世界にいる間に、現世は攻められ放題で、クズ勇者どもに蹂躙されるに違いない。今度は、街が1つとか学校が1つ、では済まされない。もっと大規模に、そして一挙に殺され、壊される。

 分かった。私はあえて、残る。私の役割は、皆を守る事。今度こそ、死ぬのか。上等だ。生き抜いてやる。この私が拳銃1つで出来るのは、そこまでだ。

 まだ見ぬ仲間達、お願いだから私と同じ結論に至っていて。そして、異世界に行って、今回の騒ぎの元凶を撃ち抜いて。その間に、私は命がけで、現世を守る。


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