0014 孤高の射手
彼は家を出た。
まだ定職についている訳でもない。住所不定で、1人で彷徨い続ける、家出と言って良いかもしれない。いや、家庭環境に原因はない。両親と共に、関係は良好である。だからこそ、両親は彼が家を出るのを黙ってみていた。
彼が産まれて初めて手に入れた、友達を探す旅に出たのだ。警察に失踪届を出せば良いじゃないかと言われるかもしれないが、既に提出されてから1ヶ月以上経っているのに、手がかりは一個も無し。学校でも、その存在が忘れかけられている。
元々、気難しい親子として知られていた。だから、誰もが親子との関係を避けていた。これ以上、忘れ去られるのは、耐えられなかった。元々消えてほしい奴が、勝手に居なくなってくれた。自分の手を汚さずに、気に入らない人間を殺してもらえた様な、そんな空気だ。
だから、もうこんな学校には、こんな街にが、こんな世界には、未練はない。人が消えるのを望み、人が消えたら喜び、人が消えて安心する。そんな世界は要らない。そんな世界を無理して守るくらいならば、こっちから出ていってやる。
あの日、あの時、彼女が彼をいじめっ子から救い出した様に、今度は自分が、いや、そんな人情マウントをとるつもりはない。何で出ていったのか、これからどうしていくのか。聞きたくて旅立つのだ。両親に説明したら、黙って頷いてくれた。
少年には、1つの心当たりがあった。あの友達は、1人で山に居るに違いない。2人きりで、キャンプに行った時、不意に彼女は言ったたのだ。
「ここは居心地が良いところだわ。大人になったら、ここに小屋でも建てて1人で暮らすわ」
その時は、俺も一緒に行っていいかな。別に下心はない。まだ子供の頃の話だ。彼女は、人生唯一の友達は、ニンマリと笑顔を浮かべて言う。
「好きにすればいいわ。でも、自分の食い扶持は自分で手に入れるのよ」
「シューター」は、スタームルガーMk2にもした拳銃を手に取りながら、自分を狙ってやってきたクソ勇者を前にして言う。既に他のハーレム・ヒロインどもは、全員地面に溶けて、消えてなくなっている。
「自分の仲間が溶けて消えてなくなったのに、あんたはなんとも思わないのね」
「代わりは幾らでもいる」
「幾らでもいる? 幾らでも用意してもらえるの間違いでしょう。あんたには、腹を割って話せる人間も、心底信頼している人間も居ない」
「そういうお前はどうだ、居るのか、そんな奴。お前や俺だけじゃない、そんな人間、この世に居るのか」
「私やあんたには居ない。だけど、居る奴は居る。あんたはそれが面倒くさくて、あっちに行ったのに、なんで今更戻ってきたのよ」
「……ムカつくんだよ。イライラするんだよ。俺を甚振った奴らが、ヘラヘラ笑って暮らしていると思うとなぁ。異世界で手に入れた力が最も生かせるのは、これしか無いって、俺を導いた神様も言ったんだ」
「じゃあ、私も言わせてもらう。私はあんたみたいな人間が被害者面して人を殺したり、傷つけたり、痛めつけているのを見ると、頭に来る。あんたがどんな辛い目にあったのかは知らない、興味もない。大体の人間にとってどうでもいい事だからね。」
「……ほぅら、お前もそうなんだよ。立場の弱い人間に対して、共感できないんだよ。お前の言うどうでもいい事で、俺みたいな人間がどんな目に遭ってきたか、想像した事があるのかよ。誰も助けてくれなかった。誰も聞いてすらくれなかった。見て見ぬふりをされた。俺には最初から、友達も、仲間も居なかった。最初から五寸釘を打つ藁人形だったんだよ、俺は。だから、異世界に導かれて、強くなって、また戻ってきたんだ。あいつらが束になっても勝てないくらいに強くなって」
「なら、ここで地面に染み込んだ仲間達はどうなるの? あんたも私も同じなのよ、他人との関係に苦しんだ末に、殺生を行う外道なのよ」
「なんだ、お前も訳ありか。まぁそんなのはどうでもいい、お前も俺と同じなら、どうでもいい筈だ」
勇者の剣を振りかざすクソ勇者。銃を向ける「シューター」。2人は、これまでにない程、自分の事を語っていた。剣と銃とではリーチが圧倒的に違う。勝つのは銃である。結末の分かりきっている戦い。それでも、クソ勇者も「シューター」も構わなかった。こんなにも自分の言いたい事を聞いてくれた事は、一度もなかった。
こいつこそが本物の勇者だ。あんな神様に用意されたハーレム・ヒロインなんかじゃない。現実にも居たんだ。話を聞いてくれる人間は。それが分かっただけで充分だ。言いたい事、言い残した事は、もう一つもない。
スタームルガーMk2にもした拳銃から、「死弾」が撃ち出される。22口径とは思えない大穴が、クソ勇者の身体を抉り、やがて焼け爛れて、腐って溶けて、骨まで消えていく。
「ありがとう」とか、「ごめんね」とか、臭い台詞なんて要らない。
少年は、「シューター」の姿を、クソ勇者を撃ち抜いたただ1人の友達を眺めて、声をかけるべきか、あるいは立ち去るべきか、悩んでいた。
日本では銃を許可なく持つ事は禁じられている。ましてや、それで人を殺しても良いと言う法律も無い。あの「シューター」は確かに、少年の友達だ。
少年は、どうするべきか。あまり悩まない内に決めていた。家に帰ろう。もし自分に何かあったら、自分でどうにかしよう。「シューター」は、もう自分の知っている友達ではない。あそこに居るのは、少年の友達ではない。もっとお大きな力を得た、何かである。
そうである限り、少年も、そこに暮らす人間達も、無事に暮らせるだろう。




