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死弾  作者: 北村タマオ
第二章 混沌篇
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0013 底が抜けた器

 僕は天を仰ぐ。

 S&W M500 ハンターモデル。の姿をした、絶対の死を与える「死弾」を撃ち出す拳銃。僕にとって、この世で最大の友であり、家族だ。人間は頼りにならない。僕には家族は居ない。

 あれから、3人か4人か、異世界からの勇者を「死弾」で撃ち抜いてきた。大きな銃創から皮膚、肉が焼け爛れていき、骨をも溶かしてしまう「死弾」。レベル10億、レベルMAX、レベル100、いろいろな勇者が来たが、問答無用で全員撃ち殺した。

 このデカい拳銃と共に、ここまで僕は生きてきた。でも、なにか違う。全然救われない。異世界の侵略から現世を守る。それで自分の何かが救われると思っていた。自分の過去も清算出来ると思っていた。全部、無かった事に出来ると思っていたのに、現実は違う。どんどん積み上がっている。撃ち殺してきたクズ勇者とその仲間達。そしてそいつらが殺してきた一般人達。

 全てが、僕の頭の中に語りかけてくる。何で撃ち殺した。何で助けてくれなかった。女子供も、皆殺すと言うのか。お前もこっち側の人間だ。加害者なんだよ、お前も。

 僕は、S&W M500 ハンターモデルを前にして、これを手に取ると、銃口を自分の頭に向ける。弾倉には、「死弾」が詰め込まれている。どういう仕組なのか、この弾倉、撃ち尽くしても5,6秒でまた弾が補充されているのだ。

 無駄を承知で、銃口を頭に突き刺す様に突きつけながら、引き金を引く。雷管を叩かれて、火薬に点火する筈なのに、うんともすんとも言わない。何でだ。お前は俺に生きろというのか。

 最初こそ、クズ勇者を撃ち殺すのは楽しかった。やりがいもあった。でも、矢張り殺生は何処へ行っても誰がやってもどんな理由があっても殺生に過ぎない。人殺しなんて、例えゲームであろうと映画であろうと、その内に飽きてしまうのに、こんなに大勢殺して、しかも相手は巣穴から次々と出てくる蟻や鉢の如くわらわらと出てくる。全員撃ち殺した頃には、僕もまた骨と皮だけにされているだろう。

 何の為に、生きるのだ。こんな無駄な殺生を続けて、自分は一体何を得るというのだ。まさか、このままずっと死ぬまで戦い続けろというのか。いや、そもそも殺生には何の意味もないのだ。これも神が下々の民に教え給うた、この世の真理なのかもしれない。殺生に過ぎない。例え相手が虫や獣だとしても、同じ話だ。僕は、この銃と共に身体が腐り、焼け爛れて、骨になるまで戦う宿命にあるのだ。

 もう逃げられない。これまで殺してきたクズ勇者とそのハーレム紛いなヒロインども、そして救いきれなかった人々。彼ら、彼女らは間違いなく生きていた。どんな鬼畜生でも、これを殺せば罪になる。この無間地獄に落ちた僕の使命は、いや、これは罰だ。呪いだ。どうにもならない人の性だ。

 異世界。チート。ハーレム。レベルカンスト。楽して生きる。苦労しないで報われる。最初から強い。理由も無く愛される。気がつけば、空っぽな器に、底に穴が空いている事に気づかないで、ドクドクと血を注ぎ込んでいる。どうやって穴を塞ぐか。あるいは器そのものを割って、次の器を用意するか。いや、この器は1つしかない。器は1つだけだ。人間に、命に与えられた器は1つだけ。脆くて、割れたら元に戻らない器だ。

 僕の周りには、割れて中身が飛び散った器が無造作に埋め尽くされている。僕はこれからも、器を壊し続ける、訳がない。そんな事をしても、埒が明かない。

 自分も、行くのだ。異世界に行って、これを生み出してる存在、神様と言ってもいい、創造主の証拠を掴む。異世界の存在が、今日の混沌と争乱を生み出したのだ。そして、それが大勢の人間を殺している。

 であれば、元から絶ってしまえば良い。異世界を生み出す存在、創造主をS&W M500で撃ち出す馬鹿でかい「死弾」で砕いてみせるのだ。それが、自分に課せられた使命である。今まで何人殺してきただろうか。あるいは、何度心を殺してきたことか。

 決めた。異世界へ行く。そして、創造主を引きずり出して、この現世の地べたにキスさせてやる。


 僕は、カプセルホテルの外へと出ると、夜空に向かって、一番深い夜の闇に包まれた深夜の空に向かって、弾倉が空になるまでM500を、「死弾」を撃ち続ける。それに呼びかけるように、堕天使の中でも、最悪な奴が降りてくる。

「お前、何のつもりだ。またあの虚構の世界に行こうというのか」

「それだけじゃない、お前を殺して、創造主も殺して、僕も死ぬ」

「僕も死ぬ? おいおい、待ってくれ。それは僕君にとって都合良すぎないか? 僕君も俺と同じに、暗い穴蔵に押し込められて氷漬けにされるのが相応しいじゃないか」

「僕は違う」

「何が違う。僕君は英雄にでもなったつもりか。今まで何人殺した? 根性も度胸もないクズ勇者に、そんな男に尽くす奴隷じみたヒロイン、こんな奴らでも、殺して情が移ったか」

「僕は、人を殺した。ゲームで殺した訳でもなければ、漫画やドラマや映画、アニメで死んだ訳でもない。現実にて存在していた命を奪った。食う為でもなければ、生きていく為でもない。戦争ですらないんだ」

「犯罪か。あるいはテロリズムか」

「違う、単なる因縁での殺しだ」

「物はいいようだな。それで、僕君は異世界へもう一度行くというのだが、そこで何をどうするつもりだ」

「創造主と話をする」

「どんな話だ」

「もう僕達に構わないで、放って置いてほしいんだ」

「すまん。それは出来ない。と、言われたらどうする?」

「力尽くだよ。こいつで頭をブチ抜く」

「何の為に。どうして、そんな事をする。異世界は現実で傷ついた人間のオアシスだ。異世界は今こそ機能不全を起こしているが、あれがなければ現実に生きている人間は、耐えられずに現世にて戦う意志を失うだろう。それでも、僕君は生きていけるのか」

「でも、永遠に生きられるわけじゃない。いつかは死ぬんだ。僕は、創造主に弾丸をブチ込んで、異世界を永久に葬る。例え死んだって、構うものか」

 堕天使ルシファーは、明けの明星の輝きを発しながら、僕の右手を握る。

「さぁ、来い。僕君には、私が作った異世界に案内してやる。ハレルヤとは歌えない、地獄の底に案内してやる。そこでお前がどんな姿になるのか、楽しみにしているぞ」

 何でも来い。ドラゴンが来ても、魔王が来ても、そして神が来ても、この手にS&W M500がある限り、戦い続けてやる。どんな奴が来ても、一人残らず撃ち抜いてやる。

「僕君が、私の異世界で、どんな姿になるのか。その綺麗な眼がどうなるのか、私は楽しみだ」

 明けの明星と共に、天へと向かう中で、堕天使の声だけが響く。


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