僕が化け物になった日
付き合っていた頃、瑠璃はほんわりとしている穏やかな女性で、愁はとてもきっちりしていて調律に命をかけていると言っても過言ではないほどだった。付き合って2ヶ月ほどした頃、瑠璃の両親が交通事故でなくなってしまったのだ、両親の遺品として、さくらのブローチを授かっていた瑠璃は、ブローチを両親と思って生活していた。愁の前では涙を一切見せなかった。愁は瑠璃を原義付けるため2人で東京から和歌山まで旅行へ行った。もちろん、瑠璃はブローチを持っていき肌身離さずに持っていた。東京へ帰ってきた時、瑠璃はあることに気づいた。
「あれ、、、ブローチがない、、、どこ?愁持ってる?持ってるよね、、、」
そう、肌身離さずもっていたあの形見のさくらのブローチをなくしてしまったのだ。すぐに家中を探し、カバンも旅行に持っていったすべてのものをひっくり返して探した。だがなかった。もう二人は悟った。旅行へ行った和歌山に忘れたのだと。
交通事故でなくなった時は涙を一切見せなかった瑠璃は、毎日のように泣き崩れていた。
「あのブローチがなかったら生きてられない、もう死のうかな、、、」
愁はたくさんの提案をした。「もう一度和歌山へ行く」「さくらのブローチをもう一度買う」「このことはもう忘れて愁との思い出をたくさんつくる」
だが、どんな提案をしても瑠璃の満足のいく提案は出なかった。
「和歌山へ行く?どうせブローチはないわ」
「ブローチをもう一度買ったってお母さん、お父さんの思い出はこもってない」
「愁との思い出を作るのは良いけど、お母さんたちの思い出は忘れることなんてできない」
たくさんの提案をすればするほど、瑠璃の涙は多くなっていった。ほんわりとした瑠璃の笑顔が大好きだった愁は、瑠璃の涙を見るのが耐えられなかった。
「どうしたら良いんだ。どうしたら瑠璃の笑顔をとりもどせるんだ」
そして、愁自分自身の技術を過信していた愁は「彼女を救ってあげるため」に瑠璃の同意を得ないまま、「悲しみの記憶」をピンセットで抜き去ってしまったのだ。
翌日、瑠璃は泣き止んだが、どこか心が空っぽの人形のようになってしまった。
「今から友達と遊びに行ってくる。お母さんたちの代わりにはならないけど」
ショッピングでも行くのだろうと思いあまり気にせず見送りをした。
帰ってくると、瑠璃は涙で頬を濡らしていた。
そう、瑠璃は自分が何を失ったのか気づいたのだ。激しい恐怖と怒りで涙を流し、愁を拒絶した。
「自分が何を失ったのか気づいた瑠璃は、激しい恐怖と怒りで涙を流し、愁を拒絶する。
「どうしてそんなことしたの!? 悲しかったけど、あれは私が私であるための、大切な思い出だったのに……! あなたは人間じゃない。他人の心を自分の都合でいじる、ただの化け物よ!」
彼女の目にキラリと涙が光り、彼女は走り去っていった。
当時の傲慢だった愁は、自分の「忘却は救いだ」という正義を否定され、逆ギレに近い感情を抱いていた。
(僕は君を救ってあげたのに、なぜそんなに泣く。これだから感情的な人間は理解できない。もういい、これで僕の調律に乱れは起きない……)




