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セドリック?外伝

俺の名前は――いや、もう意味はないか。


俺は、生まれたときから何でもできた。

歩き始めるのも、喋り始めるのも、人より早かった。


勉強をすれば誰よりも結果を出し、スポーツをすれば一度見ただけで動きを真似られた。

書けば文才があると言われ、歌えば絶賛された。


できないことなど、なかった。


もちろん、世の中には俺以外にも天才と呼ばれる人間はいる。

だが、彼らの多くはどこかで満足していた。


「これで十分だ」「ここが限界だ」と。

いくら突出した才能があっても、現実と折り合いをつけ、妥協して生きていく。


俺には、それができなかった。

どれほどの成果を積み重ねても、胸の奥には焦燥が巣食っていた。


渇望だ。何かが足りない。

このままでは「一番」になれない。


学生時代に起業し、事業を拡大し、ついには大企業と呼ばれる規模にまで成長させた。

だが、所詮は一代限りの成り上がり。


俺の親は凡人だ。政治家の一族でも、大資本家の血を引いているわけでもない。

どれほど実力でのし上がっても、世界の「本当の支配層」には入れない。


何代にもわたり血統で権力を継承する支配者階級。

そこには門すら存在せず、俺のような新参は一生「外側」にいるしかない。


俺は思った。

――俺は、時代を間違えたのだ。


もし、大戦のただ中に生まれていたら。

もし、アレクサンダーのように戦いで領土を切り拓く時代に生きていたら。


俺の才覚なら、間違いなく覇者となれた。

だが、この星にフロンティアはもう存在しない。


政治も経済も固まりきり、宇宙に手を伸ばすには俺の寿命では短すぎる。

「それなりに成功して、それなりに死んでいく」……そんな未来を想像したとき、俺は吐き気を覚えた。


――だからこそ、あの時の衝撃は鮮烈だった。


目を開けたら、俺は「セドリック・モルデン」だった。

異世界。剣と魔法が支配する、本物の戦乱の世界。


最初は夢だと思った。だが違う。

空気の匂い、土のざらつき、剣の重み――五感のすべてが、これが「現実」だと告げていた。


血が震えた。

ついに、俺は求め続けていた「フロンティア」を手に入れたのだ。


とある少女――おそらく俺と同じ転移者だろう――との邂逅の傍らに

俺はこの世界を調べ上げた。


地図を、戦況を、権力の構図を。

やがて見えてきたのは、迫りくる戦乱の兆し。


近い将来、この国は大戦に巻き込まれる。

俺は歓喜した。


ここなら頂点を狙える。

地球では閉ざされていた道が、ここには無数に広がっている。


英雄に、覇王に――俺の望む「一番」に、なれる。


だが。


ある日、突然だった。

目を覚ますと、俺は再び日本の自宅のベッドにいた。


……夢? いや、そんなはずはない。

あの世界の現実感は、どんなVRでも再現できない。


確かに、俺はあそこに「存在していた」。

激しい後悔が俺を焼いた。


永遠にあそこに留まれると思っていた。

なのに――どうやら、この現象は長くは続かないらしい。


けれど、考え直した。

一度行けたのだ。ならば、再び行く手段もあるはずだ。


俺は狂ったように調べ始めた。

「彼方の聖女」――あの世界を舞台にしたゲームとアニメ。


制作会社のサイトには「この世界は救われました」という不可解な言葉が残されていた。

さらにSNSを漁れば、俺と同じように「あの世界の夢を見た」と語る者がいる。


偶然? 違う。必然だ。

どうやら、彼方の聖女のゲームやアニメに触れた人間が「向こう側」に呼ばれていたらしい。


俺はその両方を知っている。

クリエイティブ業界に身を置き、企画に関わったこともあった。


だからこそ、俺も選ばれた。

――ならば、再び選ばれる方法が必ずある。


この国で この星で 「それなりの成功」を収めるなど、もう興味はない。

俺が求めるのは、戦いの世界――俺に「征服されるべき」世界。

そしてその世界で「唯一の頂点」に立つことだ。


「俺はまだ終わっていない」


パソコンのモニターに光る「彼方の聖女」の公式サイトを見据えながら、俺は誓った。

たとえ神をも出し抜いてでも、俺は必ず――もう一度、あの世界に帰るのだ。

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