Ep.2
地割れの先、崩れ落ちた大地の底に――それはあった。
黒曜石のように光を吸い込みながら、ところどころに星屑のような輝きを散らす巨大な石塊。
それが、この国を蝕む元凶――黒の紋晶石。
その表面から、絶え間なく黒い影が湧き上がっていた。
ねっとりとした闇の靄が渦を巻き、形を持たぬ“昏人”が無限にあふれ出す。
地の底が呻き、世界そのものが悲鳴を上げているようだった。
私は剣を構え、唇を噛みしめる。
(これが、すべての元凶……!)
「リリアナ!」
アレクが叫ぶ声が、轟音の中で届いた。
彼は巨大な盾を構え、降り注ぐ黒の奔流をその身で受け止めている。
その瞬間、セシルが横を駆け抜けた。
彼の手にはルミナスフェンサーが輝き、光の軌跡を描きながら影を切り裂いていく。
「道は僕達が拓く! 突っ走れ!」
轟く魔力の奔流。
セシルの切り開いた道の上から、クリスの放つ紫電が閃光となって降り注いだ。
雷鳴が闇を裂き、昏人の群れを焼き払っていく。
「まだ行ける!」
カイルの声が背中を押した。
彼の固有魔法――**疲れ知らずの加護**が私達に無限の体力を与えてくれる。
「後少しです!」
セドリックが鋭く指揮を飛ばす。
彼の声は、混乱する戦場を貫く冷たい刃のようだった。
彼がいる限り、誰も迷わない。
(これが……私たちの最終戦、ですわね)
アレクの背中を見上げる。
その盾は幾重にも傷つきながらも、まだ折れていない。
「――行け! リリアナ!」
その声に、私の全身が反応した。
「言われずとも!」
私は駆け出した。
足場などない崩壊しかけた大地の上を、ただ前へ。
跳躍し、アレクの盾を踏み台にして――さらに高く跳ぶ。
(これで終わらせる!)
手に握るカルヴァロスが、低く唸り声を上げた。
クリスが日本での知識をもとに修復し、本来の力を取り戻した今――この剣は、もはや“ただの無刃の剣”ではない。
ギギ……ギィィン……!
カルヴァロスが変形する音が響く。
刃の輪郭が光の奔流へと変わり、機構の奥から蒼白い輝きが膨れ上がる。
(……これが、あなたの本当の姿なのね)
古代において、数多の竜を屠った対ドラゴン兵器。
その力――光。
カルヴァロスが、咆哮のような光を放つ。
圧倒的なエネルギーが剣身に収束し、世界そのものが震えた。
「これで――終わりですわ!!」
私は叫び、振り下ろす。
閃光が走った。
白く、深く、すべてを呑み込む光。
それは一瞬にして黒の紋晶石を包み込み、内部から焼き切るように貫いた。
亀裂が走る。
眩い閃光の中で、黒の塊が砕け、崩れ、音もなく消えていく。
昏人たちの悲鳴が遠ざかり、空間を包んでいた黒の靄がゆっくりと晴れていった。
――終わった。
私は静かに息を吐いた。
カルヴァロスの輝きが収まり、光の剣は再び元の形へと戻っていく。
「……長かったですわね」
そう呟いたそのとき――
「報告! 北の帝国の軍勢が国境を越えました!」
伝令の声が、戦場の静寂を打ち破った。
私は反射的に顔を上げる。
「まったく……次から次へと試練をお与えになりますのね」
さらに、空から轟音。
影が差す。
見上げれば――巨大な竜の姿。
その鱗が陽光を反射しながら、王都の上空を覆っていく。
「ドラゴンだと!? 滅んだんじゃなかったのか!?」
世界はまだ、完全には救われていない。
だけど。
「――諦めませんわよ」
私はカルヴァロスを構え直した。
その刃先が、再び光を宿す。
どれほどの敵が現れようと、
どんなに絶望的な闇が押し寄せようと――
私は、戦う。
何度でも、何度でも。
だって、私の名前は――
リリアナ・フォン・エーデルハルト。
私は絶対に諦めない。例えどんな困難な状況であっても。
――されど悪役令嬢は斬り結ぶ!!
(完)
完結です!最後までお読みいただき感謝申し上げます!
今後は後日譚や世界観を継承した新作も計画中です!
応援してもらえると大変嬉しいです!m(__)m




