カイル外伝2
これは後にわかったことだが――
俺の“疲れ知らずの加護”には、発動条件にいくつか制限があった。
効果が及ぶ人数は最大5名。
イモータル・ランにいたころは、レオン、ミレイユ、そこにリリアナが加わっても三人までだった。
そのため効果漏れが起きず、能力に気づくことができなかったのだ。
しかも、これも後になって知ったことだが……レオンとミレイユは、そもそも素の体力が尋常ではなく高かったのだ。
レオンは体作りそのものを趣味にしていて、子供のころから自分を追い込み、肉体を徹底的に鍛え上げてきたらしい。
一方のミレイユも、魔法担当でありながらそんなレオンについていくため、筋力トレーニングを欠かさず続けていた。
そういえば……ある日、ふとしたきっかけで腹筋を見てしまったことがあったが。驚いた。きっちり割れていた。
そんな二人だったから、俺の加護があったところで「今日は調子がいいな」程度にしか思わなかったのだろう。
実際、イモータル・ラン以前に所属していたパーティでも、仲間が「今日はなんだか体が軽い」とか「普段より息が続くな」とぼやいていたことはあった。
あれも今思えば、俺の加護が働いていた証拠だったのだ。
だが、俺はそこにも気づかなかった。
元を正せば――それは俺のコミュニケーション不足が原因だった。
俺は昔から口下手だった。
胸の中では「これだけ頑張ってるんだから、仲間に認められて当然だ」と思っていた。
朝の鍛錬も、走り込みも、必死でやってきた。
だが、ただ自分だけが頑張っていると信じ込んで、仲間の声を真剣に聞こうとしていなかった。
「お前のおかげで助かった」と言葉にされることを、どこかで待っていたのだ。
――独りよがりだったんだ。
結果的に、俺にはすごい能力があった。
だがそれに気づけなかったのは、自分の視野の狭さと、他人と向き合うことを避けていた弱さのせいだ。
それを思い返すと、ただ恥ずかしい。
悔しいとかじゃない。ただ、自分の浅はかさに顔を覆いたくなる。
◇
今、俺はセドリックという人の下にいる。
エーデルハルト家の家臣になった後、リリアナに推薦される形で軍での立場を与えられたのだ。
最初は緊張で体がこわばった。
あの不敗の銀狼とまで呼ばれる男に、俺のような落ちこぼれが認められるはずがないと心のどこかで思っていた。
だが、セドリックは俺を見て一言だけ言った。
「力はそれ単体では意味を成しません、使い方を学びなさい」
それだけで十分だった。俺は必死で食らいついた。
セドリックの訓練は過酷だった。
行軍、夜襲、奇襲、伏兵――兵法の基礎から、6人の小部隊で敵地に潜り込み要人を奪うような特殊作戦まで、叩き込まれた。
俺の“疲れ知らずの加護”が及ぶのは、あくまで俺がパーティメンバーと認めた仲間だけだった。
その中に自分は含まれない。
無限のスタミナを得た仲間たちについていくには、並の体力では到底足りない。
だから俺は部隊に配属されてから、徹底的に自分を鍛え上げた。
前までの体力づくりは、自分が認められたいがための、どこか自己満足じみたものだった。
だが今は違う。
仲間に「俺と組めてよかった」と思ってもらうための、仲間のための本気の鍛錬だった。
◇
以前、黒鋼の迷宮の攻略中にリリアナに尋ねたことがある。
「どうして君はそんなに強いんだ?」
彼女は少し考えてから、あっさりと答えた。
「捨てたからです、必要以外の全てを」
聞けば、彼女もかつて自分を遥かに上回る強敵を前に、自分を鍛え上げざるを得なかったのだという。
そのとき彼女がやったことは、剣の鍛錬以外のすべてを捨て去ること。
魔法など見込みのない分野に費やす時間を捨て、ただ剣だけを極めた。
俺は剣の才もなければ、魔法も駄目だ。
だが――毎日コツコツと積み重ねる継続力なら誰にも負けない自信があった。
だから俺はトレーニングの強度を限界まで引き上げ、体力だけを徹底的に鍛え抜くことにした。
◇
メシは人一倍食べた。
吐きそうになっても絶対に吐かなかった。
走り込みは通常の倍の距離。荷重訓練は誰よりも重い装備。
やがて迎えた高所での行軍訓練。
フル装備で山を登り、誰もが一人二人と脱落していく中、俺は最後まで歩みを止めなかった。
山頂に立った瞬間、昇る朝日が俺を照らした。
その光景を見たとき、山を超えたのだと実感した。
それからの俺は小隊行動で遅れることがなくなった。
さらに鍛え上げた足腰は俺の戦闘能力を底上げし、武器を振るう際の踏ん張りも、敵の一撃を受ける耐久力も桁違いに変わった。
「筋肉は裏切らない!」
……以前レオンがそんなことを言っていたっけ。
あいつにもまた会いたい。
今の俺を見てもらいたい。
イモータル・ランの仲間として受け入れてくれたあの日の礼を、改めて伝えたい。
◇
それからは俺の“疲れ知らずの加護”が本当の意味で生きるようになった。
ピタリとはまったパズルのように。
普通の兵なら、一日中走らされれば足は棒になり、夜通し戦えば息も絶え絶えになる。
だが、俺と共に動く仲間はそうはならない。
行軍の歩みが乱れない。夜襲の集中力が切れない。
「カイルが一緒だと、不思議と力が湧く」
仲間たちはそう言った。
軍人としての生活の中で、俺は自分の加護がどれほど価値を持つのかを理解した。
少数で動くからこそ、一人一人が無駄なく力を出せることが求められる。
セドリックはその一点を徹底して鍛え上げた。
「数で劣るなら、一撃で仕留めなさい。持久戦はお前たちの得意だが、長引けば隠密は破綻します」
俺たちは敵の補給線を断ち、砦の地下に忍び込み、時には敵将の寝所まで踏み込んだ。
疲れを知らず、夜を駆ける俺たちの存在は、やがて敵国の兵の間で噂となり、
「常闇に走る亡霊」――そう呼ばれるようになった。
時が経ち、俺はその部隊の隊長を任されるようになった。
仲間を率い、任務を成し遂げる責任を背負う。
かつて「お前は足を引っ張るだけだ」と言われ続けた俺が、今は部隊を導く立場にいる。
◇
やがて俺は、王国内でも一目置かれ、セドリックの懐刀と呼ばれるようになっていた。
不敗の銀狼と讃えられる彼を、縁の下から支える黒い影のような存在。
任務は多岐にわたった。敵地深くへの潜入、要人暗殺、補給路の破壊。
疲れを知らぬ俺たちにしか成し得ない作戦ばかりだ。
それが常闇の疾駆――シャドー・ストライドの名を敵国に轟かせていった。
こうして俺が率いる特殊部隊は、敵国にも恐れられる存在となっていくのだが……
それはまた別の物語だ。




