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Ep.9

犯人は暴けた。

だが、この事件が反乱前の不祥事として広まれば、ウィンザー公爵は必ず計画の中止を命じる。


それでは断罪イベントに間に合わなくなる。

そんなこと、絶対に許されない。


(……流れを変える)


私は一歩、セシルに近づいた。

焦りを押し殺し、あくまで優雅に微笑む。


「――ほほほ……! あぁ……おかしい!」


思わず吹き出す。

張り詰めた空気が、一瞬だけ軋んだように揺れた。


「何がおかしい?」

セシルが低く問いかける。


私はくすくすと笑いながら、息を整えて言った。


「いえ……あなた、今なんとおっしゃいました?

“か弱い女性”? “フェアじゃない”?」


ゆっくりと、腰の細剣に手をかける。

鞘から抜ける瞬間、金属音が静寂を裂いた。


「私が? “あなたごときより”弱いですって?」


セシルの表情が変わった。

その僅かな歪みに、私は確信を得る。


アニメで見たあのシーンが脳裏をよぎる。

「女みたいな顔しやがって」と笑われた敵を、

血の海に沈めた、あの場面。


「……あら、ごめんなさい。うっかりしていましたわ」


わざとらしく口元に手を当て、嘲るように微笑む。


(これは賭け。でも――流れを変えるには、これしかない)


「剣よりも、“ダンス”でお相手したほうがよかったかしら――お嬢さん?」


空気が、一瞬で凍りついた。


セシルの瞳がゆっくりと細まり、深く冷たい光を帯びる。

まるで氷の下で雷が鳴るような、静かな怒り。


「……言ったね」


その声は低く、震えるほどに冷たい。

底には、押し殺した怒りが確かにあった。


私は唇の端をつり上げた。――狙い通り。



――現在。


「リリアナ、その“お嬢さん”って煽り……とんでもない地雷だよ」


モブロックが呆れたように言った。

彼は少し真面目な顔をして続ける。


「セシルにはね、誰よりも“男らしさ”に執着する理由があるんだ」


私は静かに耳を傾けた。


「彼、幼いころさ。家の政略の都合で女装を強いられてた時期があったんだよ。

細い体に整った顔立ち、声まで高くて、周囲からは“セシリアお嬢様”って呼ばれていたらしい」


(……セシリアお嬢様、ね)


想像してみたら、思わず苦笑が漏れた。

あのセシルが、そんな屈辱を味わってきたなんて。


「それが、彼の中で深い傷になったんだ。

だからこそ、“男らしく”“正々堂々と”が彼の口癖になった。


戦う時も絶対にフェアプレイ。

――あれは単なる気取りじゃなくて、信念なんだよ」


モブロックの言葉に、私は小さく頷く。

なるほど、あの時あれほど怒った理由がようやくわかった。


唇に指を当て、ふっと笑みを漏らす。

あの時のセシルの目――氷のように冷たく、けれど確かに“人間らしい怒り”が宿っていた。


今思えば、あれは彼なりの“誇り”だったのだ。


「効果はてきめんでしたわ」

私は不敵に笑った。


「いや、それ完全に喧嘩売ってるでしょ……」

モブロックが額を押さえる。


「セシルを排除するには、どうしても“決闘”という正当な形が必要でしたの。

毒も密約も、これ以上は泥沼ですわ。――だから、挑発したのです」


カップの中で、紅茶がゆらりと揺れる。

琥珀色の液面に、自分の笑みが歪んで映った。


「彼の誇りを、真正面から踏みにじってでも」



セシルはわずかに目を伏せ、静かに息を吐いた。

次の瞬間、鞘から閃光が走る。


「ぐっ……!」


鋭い音。

双剣が抜かれ、空気が震える。


魔法双剣ルミナス・フェンサー

淡く光を放ちながら、雷を纏う細身の刃。


その光が床を照らし、壁を照らし――私の瞳にも映り込んだ。


「リリアナ、僕は君に――決闘を申し込む」

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