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Ep.6

床に魔法陣が浮かび、雷の紋が奔る。

次の瞬間、閃光が彼の剣を包み込んだ。


「雷よ、剣に宿れ――!」


バチバチッという音とともに、光が弾ける。

稲妻の熱が肌を焼き、呼吸すら奪われる。


(……この魔法、アニメで見た《ルミナス・フェンサー》。

雷と光の二属性を融合させた高位剣術魔法)


逃げ場はない。

正面から受けるしか――!


「行きますわ!」


叫びとともに踏み込み、細剣を閃かせた。

だが――


バチィィッ!!


電撃が走った。視界が真っ白に弾ける。

腕から力が抜け、指先が焼けるように痺れる。


「く……ぁっ!」


剣が手から滑り落ち、床に転がる音が響いた。


「しまっ――」


言葉を言い切る前に、セシルの姿が消えた。

次の瞬間、雷光が私の目の前に迫る。


光の刃が、胸を正確に貫いた。


「――っ」


息が喉で詰まり、視界が揺れる。

熱と痛みの中、身体が後ろへと崩れ落ちる。

冷たい石床が頬に触れ、遠くで炎の音がくぐもって聞こえた。


(……次は……負けませんわ……)


それだけを心に刻みながら――

私は、再び闇の底へ沈んでいった。



「……また想定外ですわね」


静かに目を開けると、視界に広がったのは見慣れた天蓋だった。

柔らかなシーツの感触。

窓の隙間から差し込む朝の光が、白く私の頬を照らす。


――また、ここに戻ってきたのね。


息を吐くように呟く。

すでに数え切れないほど繰り返してきた“朝”のはずなのに、

胸の奥に広がるこの虚脱感は、いまだに慣れない。


「……ふふっ。なかなか思い通りにはいかないものね」


唇に笑みを浮かべてみせた。

けれど、胸の内側にあるのは苦い悔しさだけ。


燃え盛る屋敷、焼け焦げた空気、血と雷の匂い。

あの夜の光景は、今でも鮮明に焼きついている。


――セシル。

ウィンザー家。

密約を交わしたはずなのに、彼らは私たちを裏切った。


(いったい、何が起こっているの……?)


私の知らない何かがある。

単なる誤解や偶然ではない。


この世界の“運命”そのものが、私の行動を阻んでいるような――そんな気配。


「……こうなったら、自分の目で確かめるしかありませんわ」


カーテンを開くと、朝の光が一気に部屋を満たした。

冷たい床に素足を下ろし、ベッドから身を起こす。


指先にまだ微かな震えが残っている。

けれど、それでも立ち止まるつもりはなかった。


「西方で……いったい何が起こっているのかを」


鏡の中の自分が、静かに私を見返している。

恐れも迷いも、もう必要ない。


私は再び、運命に抗う剣を取る。

何度でも。何周でも。


たとえ、この世界そのものが私の存在を拒もうとも――。



「密約が……反故にされた?」


再びこの時間に戻った私は、前回の記憶を整理しながら、父――エーデルハルト公爵のもとへ向かった。

破滅の未来を回避するため、前の周回で起こった出来事を包み隠さず話す。


「……前回、密約を交わしたはずのウィンザー家が討伐軍として現れました。

そして、その旗を掲げ、最前線に立っていたのは――セシル・ヴァン・ウィンザー」


父の目が細められる。怒りではなく、深い警戒の色。


「……裏で何かがあったのか」


「ええ。理由はまだ見えません。

けれど――西を敵に回したままでは、国取りは叶いませんわ」


私の言葉に、父は重々しく頷いた。


「その通りだ。だが、どうする?」


答えは、もう決まっている。

考えるまでもない。


「私が行きますわ。西方へ。

直接、ウィンザー公爵とお話をして、真意を確かめます」


沈黙が流れた。

父はじっと私を見つめていたが、やがて小さく息を吐いた。


「……いいだろう。お前の覚悟は、見せてもらった。

エーデルハルト家の代表として見極めてきてほしい」


私は深く頭を下げた。

胸の奥で、静かな炎が再び燃え始める。


(あの“裏切り”が、どんな思惑の上で起きたのか――

 そして……セシル。あなたの真意を、私がこの目で確かめますわ)


次こそ、この手で真実を掴む。

再び悲劇を繰り返させないために。


ウィンザー家を真の共闘者とし、運命を変えるために。

――私の“運命への挑戦”は、次なる舞台へと進んでいく。



「きゃああああああっ!!」


耳をつんざく悲鳴が、夜会の広間に響き渡った。

倒れ伏したのは――私。


絨毯の上に崩れ落ち、唇の端から血がこぼれる。

吐き出された赤が、倒れたワインカップの中身と混ざり合っていくのが見えた。


(……あら? どうして、こんなことになったんでしたっけ?)


頭がぼんやりと霞んでいく。遠ざかる意識の中で、人々の叫び声が断片的に聞こえた。


「リリアナ嬢!?」「誰か、医師を――!」


駆け寄ろうとする侍女たちを、ウィンザー公爵が手で制した。

彼の表情には驚愕と混乱が入り混じる。


――そして、その傍らにただ一人、黙したまま立つ青年の姿があった。

双剣を腰に帯び、ゴーグル型の眼鏡をかけた細身の青年。


セシル・ヴァン・ウィンザー。

その瞳が、冷たくも苦しげに私を見下ろしていた。



数時間前。西方領都、港町リグニス。

入り組んだ運河と街路が交錯する、水の都。


私は、ウィンザー家の居城――風楼館の応接間で、公爵と対面していた。


「ふむ……これはまた驚いたな」


ウィンザー公爵、ヘルマン・ヴァン・ウィンザー。

銀の縁眼鏡を指先で押し上げながら、私の手紙を何度も読み返している。


「“不敗の銀狼”セドリック・モルデンが、我らの味方につくと……?」


「ええ。セドリック様は、私たちの覇業を支えると約束してくださいましたわ」


私は穏やかに微笑み、まっすぐに彼の瞳を見返した。

王室の圧政を正し、新たな秩序を築く――そのための協力を求めて、ここまで来たのだ。


「私たちは、無秩序な革命ではなく、秩序ある改革を望んでいます。

そのためにも、西方のお力添えをお願いしたく」


「……ふむ」


公爵は目を閉じ、椅子の背に深く体を預けた。


「十年ほど前、私はあの男と戦場で刃を交えたことがある。

陣形の綻びを即座に突かれ、我が軍は瓦解した……厄介な敵だったよ」


敵将を評するその声には、憎悪ではなく、かすかな敬意が滲んでいた。


「そんな手強い男が味方になるならば……勝利は約束されたも同然だ」


「では――」


「エーデルハルト公に伝えなさい。“時期の件、承知した”と。

西方は、北方に同調する」


私は深く頭を下げた。

(これで、第一関門突破ですわね……)


しかし、公爵の隣に立つ青年――セシル・ヴァン・ウィンザー――だけは、違った。

その表情には、わずかに陰が差していた。


「……父上。本当に良いのですか。

今この決断を下せば、無用の血が流れることになります」


「承知の上だ、セシル」


ウィンザー公爵は笑みを浮かべた。


「我らの立場を示すためにも、客人をもてなさねばならぬ。

貴族社会では、それが礼儀というものだ」


「リリアナ嬢も、今宵の宴にご出席を」


「光栄ですわ、公爵閣下」


私が微笑むと、セシルのこめかみがぴくりと動いたのを見逃さなかった。

――あの表情。

まるで、私がここにいることそのものを拒絶するかのように。


そして、夜が訪れた。

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