魔術師ビークの決意
本日2話目です。ご注意下さい。
「何を怖気図いたのか。やる気が無いなら、さっさとその役を降りるんだな。」
そう言ったのは、帝国シガール公爵家の筆頭魔術師。
「そうではありません。計画が粗いと申し上げたのです。」
ビークは、表情を変えずに言う。
「ハッ。東の子供のままごとのような魔術師など、とるに足らぬわ。堂々と乗り込んでいって、順番に始末してゆけばよかろう。」
筆頭魔術師が声を張り上げる。
魔術師にも順列がある。これ以上、ビークの発言は許されなかった。
ロイメールの王城襲撃は、当日、一人ずつ順番に乗り込んで要人を弑していくというだけだった。
計画とは名ばかりの、戦闘狂が集まっている。
いや。正しくは半数なのだが。
クランガルドは魔術師を門下に置く際に、人となりを重要視する。魔力量の大、小に関わらず、人となりをみて魔術師を育てて来た。
その穏やかな気風と、この戦闘狂の男達とは違う。
そして、この筆頭魔術師。噂によると、若かりし頃、クランガルドへの入門を断られたという。それを今でも根に持ち、ビークはやり玉に挙げられる。
やはり、クランガルドから拒否される程度の男なのだと思う。
戦闘狂の中に、西の魔女と呼ばれる女が一人いる。
随分、年齢は上のはずだが、見た目は20そこそこ。地方で何かあったら喜んで一人で出て行き、殺戮を楽しみ、血を浴びて嗤っているような女だ。
沢山の怨念に取りつかれ、もはや、地場の魔力まで歪めてしまうほどに、その存在は異常である。
この2人だけは止めねば。ビークは唇をかみしめる。他国と言えど、無関係な者まで遠慮なく蹂躙するのだろう。
そうなれば地獄絵図だ。
あの日、『あなたは、他国で魔術師として大成されるわ』と、そう言った美しいクランガルドの夢見は、今はどこにいるのだろう。
クランガルドの館で見た死に瀕する夢見。あれは、サクヤ様の形を取った何かだった。
確かに、サクヤ様の魔力を感じたが、何か違った。
気が付いたが、そんな事をシガールに教える義理など無い。
サクヤ様・・・。
ダクロス様を初め、優しいクランガルドの方々が末の妹をとても大切になさっていたのを知っている。
その存在に、その美しさに、決して叶わぬ恋をした。
その恋を諦めるきっかけが、サクヤ様本人から言われた、他国で大成するという言葉。
貴女の横で、貴女を守ることはできないのだと悟った。
決して外れる事のない夢見の予言。
あの時、きっと帝国にいなければ結ばれる事などかなわないのだと、初めから諦めてしまったのは正しかったのか。
貴女は、今、一体どこにいるのか。
もっと、貴女の傍にいたら、何か変わっていたのではないかと、もう変わりようのない過去を振り返る。
馬鹿みたいだ。
ただ。
ダクロス様は、東への侵略をひどく嫌がられた。
サクヤ様の状況に手を尽くしていると言って、この侵略にクランガルドが関わらなかった。ダクロス様に何かの思惑があるのだろう。
それが何か、解らないが。
止めなければ。
その思いだけが強くなる。
この、馬鹿げた侵略を。
決して、シガールの思い通りにはさせない。
取り残された会議室で、冷めたお茶を飲み干して、ビークは立ち上がった。




