迎えの準備
「・・・と、いうことで、結局、タリスが迎えに行くと言い出して出て行ったから、呼びかけてハイアード伯爵領で大人しく待つように指示したんだが。」
帰って来て、今日の出来事を楽しそうに話すリオン。
「あらあら。それって。」
「ああ。多分、もう惚れてる感じだな。」
「うふふ。タリスさんにも春が来ましたのね。」
「クランガルドの夢見が、普通の女性であればいいのだが。タリスは女性に優しすぎるからな。悪女でも、嵌ってしまえばコロッと騙されそうだ。」
そう言ってため息をつく。やっぱりリオンは心配性だ。
「悪女でしたら、貴方がお止めになるでしょう?」
「タリスの方が強いからな。止める事など出来ないだろうな。」
「うふふ。大丈夫ですわ。タリスさんですもの。」
「何だ?そんなに親しかったか?」
少しムッとしたリオンの頬をつまんでみる。親しいわけ無いじゃない。会うときはいつも一緒にいるのに。
「やきもちですの?かわいいですわ。リオン。」
黙って手を外される。
「ローズ。」
「うふふ。だって、貴方今まで、タリスさんの事で、そんな事を言われた事ありませんでしたわ。」
「彼は、顔はいいだろう。君はああいうのが好みなのか?」
「まさか。リオンが一番ですわ。確かに、タリスさんは男性でありながら、中性的なきれいなお顔をされていますわ。でも、私、心配症ですの。繋ぎ止めてくださるぐらいの強引さが無いと、安心できませんもの。お優しいだけでは駄目ね。優しい方は誰にでも優しいでしょう?私、我儘ですのよ。私だけに優しくしてくださる貴方を愛していますわ。」
「・・・。君は、随分、変わりましたね。」
リオンに見つめられる。
「まさか。こんなに毎日、一緒にいて、毎日あなたの顔を見て、多少は慣れますわよ。でも、本当はまだ、ドキドキしてますわ。そんなに見ないでくださいませ。」
慣れたと言っても、そのドストライク好みな顔は心臓に悪い。
不意に腕を取られる。
「・・・。確かに、脈拍が上がってますね。」
いや。そうじゃなくて。恥ずかしくなるじゃないのっ!!!
そこで、何で脈拍とか冷静に確認するかな、この理系!!
ちょっと澄ましてみたのに、すぐこれだ。
顔が真っ赤になってる自覚はありますよ、ちゃんと。
ああ、もう、また!これって絶対わざとだ。
「話を元に戻しましょう。タリスがサクヤ嬢を連れてきますが、彼は1人暮らしですので、とてもではありませんが、すぐに女性と一緒に住むような準備はできていません。と、いうより、準備もせずに出て行ったんですよ!」
ちょっと語気が強い。怒ってはいないけど呆れてるのね。リオンは用意周到だから。
「あらあら。意外に情熱的でいらしたのですね。」
「そこで、しばらくは家で預かり、タリスも一緒に住まわせる。客間で、ご夫婦用の続きになっている部屋があるだろう。そこを使わせるから、日中は君がサクヤ嬢をフォローしてくれないか。」
「ええ。わかりましたわ。」
何のかんのと、面倒見がいい事。
「ハイアード領からはどうやって?」
「ホバルがまだ安定していないから、船は一度、ハイアード領を出入りする時に犯罪者や密貿易などがないかのチェックで乗船検査をしているから、必ず、ひっかかる。そこで見つけ次第、我がグラート家の船で直接王都まで移動してもらう。」
「家って船も持ってましたの?」
「ああ。数隻ある。貿易用と情報伝達用に使い分けている。」
「知りませんでしたわ。」
「国の魔術船よりは小さい。」
「お魚釣りとかできますの?」
「君は魚釣りがしたいのか?」
「いいえ。何となく聞いてみましたの。」
ちょっと、あきれたように見られる。
・・・リオンなら、魚釣りでも似合うんじゃない?
「・・・私は魚釣りはしませんよ。私には太公望ほどの余裕はありません。日々の執務でいっぱいいっぱいです。」
どうやら、私が考えている事はすぐに読まれてしまうようだ。
でも、太公望って船釣りじゃないよね?陸から竿を垂らしてるイメージなんだけど?船釣りの太公望・・・。想像すると、かなりイケイケじゃない?
あ。また、私、馬鹿な事を考えている。
翌朝から、使用人総出で迎えの準備をした。リレイラからハイアード領まで普通の船で4日。
魔術船に乗り換えて2日と試算された。
タリスさんの準備は不要として。話の内容から、サクヤ嬢はほとんど何も持たずにやって来る。着替えから、何から、サイズが分からないが、ある程度作っておいてすぐに補正ができるように発注をかける。
何かと、女性は必要なのだ。
どんな方かしら。
転生者なのかしら。
仲良くできるといいのだけれど。
精霊がいないと盲目だとは。難儀な運命だ。
未来が見えるなんて、何て恐ろしい事だろう。
未来がわからないからこそ、私は必死で逃げ回って、変えようとした。
その心は病んでいないだろうか。
どんな気持ちでこの大陸に来るのだろう。
後が無いといえど、全てを捨て去ってやって来るのだ。
出来る事なら力になりたい。
タリスさんと上手くいくといいな。
船で見た、タリスさんを思い出す。
リオンが後から話していた。
タリスさんが煙草を吸うのは、余程落ち着かない時なのだと。
煙草に何やら安定剤系の薬草まで混ぜている時は特に要注意だし、使用している薬が強いから、薬剤に弱い私は絶対に近寄ってはいけないと。
優しくて強く、余裕を見せる中で、ほんの少しの脆さが垣間見えて魅了される。隠された魔術師タリス。
帝国の魔術師はそれよりも段違いに強いとの事だったが大丈夫なのだろうか。
きっと、彼はこれから運命に巻き込まれるのだろう。
何事にも負けず、幸せになってもらいたいと、心から願う。
彼が愛するかもしれない女性。
どうか。幸せが訪れますように。




