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回避出来た令嬢は?  作者: 明月 えま
第4章・帝国編
49/63

悪夢からの脱却

文字ばかり見すぎてると、漢字が理解できなくなる時がある。

( ˙-˙ )

思い出すのは。いつも、灰色。


灰色の世界で、誰かが泣いている。

そこに横たわる白い髪の女。


いや。灰色だから白なのか。


何色なのかわからない。

花に埋もれたようなその白い髪の女の周りで、沢山の人が泣いている。


そう。それは葬儀。


私の葬儀なんだと気がついたのは、8つになった時だった。


沢山の人のうちの数人が、自分の家族の顔と一緒だと、気がついてしまったから。










蝋燭の灯りが揺らめく中、黒い影が尋ねる。


『さあ。そなたの名は?』


『サクヤ』


蝋燭の炎が消える。









優しく笑う人がいる。その人を見ていると世界に色がつく。

笑っているとわかるのに、顔は、よく見えない。

でも、髪は青だ。


手を差し伸べられる。


その手を握ろうと、私は手を伸ばす。





ああ。

また、私は夢を見ている。


救われることのない。

どうしようもない夢を。


そう。終わりまでの道のりを。






ふっと、現実の世界に戻る。

『はぁ。はぁ。はぁ。』

息が苦しい。


汗で身体がしっとりと濡れている。


いつもの部屋。いつものベッド。

大丈夫。まだ、私は生きている。



汗で濡れた衣服を脱いで着替える。ああ。何て嫌な夢だ。どんなに手を伸ばしても届かない。この想いはどうしたらいいのだろう、一方的に救いを求める自分の弱さが嫌な気分をさらに強くする。


まだ明け方まで時間があるというのに、目が醒めてしまって眠れない。


窓の外の、夏でもうっすらと霜が降りる景色を見る。


窓ガラスが冷たい。

当たり前の事なのに。

落ち着かない。




そう考えていると、随分と早い時間に侍女が来た。

着替えを済ませた私を見て、遠慮せずに呼んでくださいませと言われる。

早めの朝食を食べ終わる頃に、なぜか長姉が来た。

『一の姉さま。こんなに朝早く、どうされたのです?』

不思議に思っていると、姉は少し悲し気な顔で言う。

『今から、荷物をまとめなさい。貴女は、ここを出る事になりました。』



ここを。出る。



ああ。とうとう、その時が来たのかと思う。

夢で見た好色そうな公爵。意地の悪そうな、我儘そうな跡継ぎの息子。縁談の伝達が何度か来ていた事は知っている。私は、あの者達の所に行くのか。


黙って、用意を始める。


『必要最低限で。後の荷物は、おいおい送るから。』

と、姉に言われる。

『そう・・・。』


私の荷物など、とても少ない。必要最低限と言われ、少しの服と、魔石を持った。


1時間もかからなかった。


姉が急にポロポロと涙をこぼす。

『一の姉さま。泣かないで。』

そう言っても。姉は嗚咽をこらえて泣く。


泣きたいのは、私だ。


『サクヤ。なかなか会えなくなるけれど。幸せになるのよ。』

姉が言う。


幸せに?どうして?姉は、知らないのだろうか。一の兄さまは伝えていないの?


帝国内でも、そんなに会えなくなるものだろうか?そう考えていると、次男と三男、2人の兄がやってくる。

『二の兄さま。三の兄さま。』

『用意はできたかい?サクヤ』

次兄が尋ねる。


『無事に、送り届けるのよ。』

姉が泣きながら言う。


そして、次に言われた言葉で、私は衝撃を受ける。

『東は遠いから、ここより暖かいと思うけれど。暑さで体調を崩さないようにするのよ。』


『東?』

困惑し、呟いた私に気が付き、次兄が苦笑する。


『一の。サクヤにちゃんと説明していないな。サクヤ。かわいい私たちの二の妹。君は東の守護者の元に行くのだよ。今から、僕らと一緒にね。』

そう言って、優しく笑う。

『大丈夫だ。ちゃんと兄が連れて行ってあげるよ。』

三の兄が頭を撫でる。まるで、私は子供のようだ。


帝国の貴族の元に行くのではない?兄達が、私を、東に連れて行ってくれる?


あの人に


もう一度。


会える・・・?



我慢していた涙が頬を伝い落ちる。

姉に抱きしめられる。


温かい、優しい姉。


『きっと、会いに行くわ。だから、泣かないで。元気で。』

姉が、涙で濡れた私の顔を拭いながら言う。


『さあ、行くよ。』

兄達に促され、人目を避けるようにローブを纏う。


私の銀髪は目立つからだ。


緊張で手が震える。

兄達が優しく私の手を取る。



その瞬間、ふわりと兄達の魔力に包まれるのを感じた。








明るい。


そして、熱気が急にまとわりつく。

『暑いわ。』

そう言うと、

『リレイラだからね。』

と、二の兄さまが言う。


確かに、この間見た街並みだ。異国の街。

『船着き場に向かうよ。』

兄と共に、東大陸行きの船に乗る。


初めは楽しかったが。船旅には数時間で飽きた。

何より、大陸に着くと言う事は。兄達と別れるという事だ。


青い青い水平線。


初めて見る海鳥。


船に当たってきらめく波。


落ち着かない。不安がつのる。


自分の弱さに嫌気がさす。船内にいると、庶民用の為、薄暗く陰気でさらに気が滅入る。

そう思っていても、着実に時間は流れていく。


何もできないまま。

時間と共に流されていく。


ホバルを抜ける。

どうやら、途中、兄達が力を使ったようだ。

治安が悪いらしく、賊から認識できないように船に魔術をかけているようだった。

おかげで、当初、船員から聞いていた5日ではなく、4日でロイメールに着こうとしている。


不意に船外が騒がしくなる。

そういえば、入国が厳しくなっていると言っていたなと考える。ここまで来て、入国拒否されるなど、あるのだろうか。


一のお兄様が、話を通しているとの事だったけれど。

そう、ぼんやりと考えていると、二の兄さまが

『来たか。』

そう、ぽつりと呟いた。

身体が強張る。

『サクヤ。可愛い二の妹。幸せになるんだよ。』

三の兄さまが、私をギュッと抱きしめる。

『二の。大丈夫だ。君はラトルの祝福を受けているからね。』

代わって、二の兄さまが私を優しく抱きしめる。


『兄さま?私・・・。』

そう、言いかけた言葉を遮るように、船室のドアがノックされる。

『どうぞ』

兄が私を離して言う。




開かれたドアの向こうに、あの人が立っていた。


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黎明 ルークスタッドの後日談、連載中 不器用令嬢、騎士になる カイウスの恋愛話、主に嫁視点を書いてます。  こちらもよかったら読んで下さい。
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