もう1つの乙女ゲーム
帝国編開始です。
帝国編はダブルヒロインとなります。
よく視点が変わるので、投稿文の長さがまちまちになります事をお伝えしておきます。
魔の山と呼ばれる霊峰ヒルロは一年を通してその頂きに雪を冠する。
そのヒルロの中腹にクランガルドの館がある。
古くは、もっと山の麓に居を構えていたらしい。
だが、数代前、120年ほど前の当主が帝国の拡大を嫌い、隠遁するように山にこもった。
当時、帝国は西大陸の7割を支配下に置いていたが、帝王は満足せず、さらなる領土拡大を目指した。クランガルドの当主は、これ以上の血が流れるのを嫌った。帝国に属する有数の魔術家であるクランガルドの抜けた穴は大きかったが、それでも、帝国はその後、西大陸全体を支配下に置いた。その後、クランガルドは貴族籍を剥奪された。
世間と隔絶するように過ごしてきたクランガルドの一族であったが、その圧倒的な魔術の知識に教えを乞いに訪れる者は後を絶たず、結局、数十年後には、魔術師の実力者はクランガルドに師事した者達ばかりになったため、帝国としてもクランガルドの復権を認めるしかなく、クランガルドは魔術師達の強い後押しの元、以前と変わらぬ侯爵家として帝国に属する事となる。
『寒いわ。』
ヒルロ山から吹き降ろす冷たい風が、窓から入る。
部屋に置いていた魔石の効果が切れたのだろう。
サクヤは、寝台を降り、引き出しを開ける。
魔石を手にして、部屋に置かれた魔道具の中に入れると、ふわりと温かい空気が部屋を覆った。
サクヤはクランガルドの現当主の2番目の妹である。
当主である長男、次男、長女、三男、そしてサクヤ。5人兄弟の末っ子として生まれた。長兄とは20も年が離れており、小さい頃から、長兄が父親と間違われる事も多かった。
三男とも10は離れている。年が離れて生まれたサクヤは、3人の兄と、姉に本当にかわいがられて育った。
クランガルドの直系の者は、5歳になった時、儀式を受ける。
魔術を介し、大いなる力を得るため、秘儀とされた術は、その血を受け継ぐものにしかできない。
髪色は魔力の影響を強く受けるため、サクヤは光を冠する者だと思われていた。実際、光の魔術が得意だった。しかし、儀式を受けた時に、事態は一変する。サクヤの身体の中から、光の精霊が出てきたのだ。そうして、サクヤの髪は銀色になった。
以降、魔力量はほどほどにあるものの、魔術師としては伸びなかった。そうして、夢をみるようになる。
何物にも染まることのない銀の髪。
色素の薄い青の瞳。
サクヤはクランガルドの中でも、まれにしか現れない、夢見の力を持っていた。
クランガルドの者は儀式後、正式な名をつける。家族は、いくつかの名前を用意して、選ばせようとした。
しかし、サクヤは自分で言ったのだ。
『違う。私の名前はサクヤよ。』と。
夢見は夢を見るたび、まるで、その代償とでもいうかのように徐々に視力を失っていくのだ。それを補うように、光の精霊が夢見とともに存在する。なぜか、昔からそういうものだったらしい。サクヤもその伝承通り、光の精霊リノが常に一緒に存在する。
サクヤは沢山の夢を見た。
そうして、気が付いてしまった。思い出してしまった。
自分の前世というものを。
ここが、その前世のゲームとそっくりな事を。
<砂漠の光は雪の乙女に>という題名の乙女ゲーム。前作に対となる、<夢の花は森の乙女に>がある。
前作が東大陸を舞台とし、砂漠の光は西大陸が舞台だった。
サクヤは、どちらもプレイした。と、いっても、メインキャラだけ。自分がいる西大陸版、砂漠の光は帝王の息子3人がメインの攻略対象だった。
が。サクヤは話の途中で出てくる帝王に惹かれた。推しが攻略者じゃなくって、時折、ストーリーの端々にチラリと出てくるだけの父帝王ってどうよ?と思ったが。
とにかく、その顔を半分長髪で隠した帝王が好みだったのだ。いや、何と言いますかね。俺様で第六天魔王信長ちっくな。もう、いかにも中二病です。みたいなキャラだったんですけどね。今考えると、なぜ、あのキャラに惹かれたのか解らない。
ストーリーの中で、攻略対象が子供の時に、父親が呪詛を仕掛けられた毒入りの酒を飲んでしまう。その呪詛+毒で、顔面に醜い痕が残り、以降、長髪で顔半分を隠すようになるわけなんですよ。それで、毒殺されそうになったのを見た第1王子は人間不信に陥っているという。第2、第3王子は覚えてなくて。第3王子は庶子で。何てありがちストーリー。
だから、帝王が呪詛と毒を受ける前の美しい顔見たさに、何度も第1王子ルートやりましたよ。そのうち、そこだけスクショ取って、ゲームしなくなりましたけどね。
で、何が問題かと言うと、はっきり言おう。
サクヤは、ヒロインでもモブでも何でもなかった。ストーリーにかすりもしない。悪役令嬢でもない。
なのに。それなのに、どういう運命のいたずらか。
滅多に下りない山を下り、一度は挨拶をせねばならんと父親に連れていかれた王城の園遊会は、あの、毒杯を飲むシーンと一致したのだ。
しかも、全員が飲む挨拶の乾杯の時。
サクヤは血の気が引いた。時折、見ていたのだ。前世の記憶だけでなくて。夢を。倒れて血を吐く、その時はまだ王ではなかった。次代の王の姿を。
乾杯と叫ばれるその直前。
『だめっ!!!』
そう叫んでしまって、集まる周囲の視線を浴びる。緊張のあまり、サクヤは意識を失った。
本来ならば、父親は私の力は隠し通しておきたかったらしい。
だが、私の失態は、失態ではなく、次代の王を守った夢見として帝国中に話が広まってしまう。
最早、隠し通す事など不可能だった。
緊張で倒れてしまったのをこれ幸いと、身体が弱いと言って、父は私を屋敷に連れて帰り、2度と表には出さなかった。沢山の人が、私の夢見を希望して、わざわざヒルロの中腹まで登って来た。
見ようとして見れるものでは無いと言って、家族は私を守ってくれた。
それでも、私が何かに接して、気になってしまうと、それに関連する夢を見るのだ。見てしまったものはしょうがないので、父や兄に報告した。必要と判断された情報だけが、王家や関連する者に伝達される。
徐々に徐々に。私の視力は低下していった。
魔石によって、温まった部屋で、自分の未来を思う。
帝王に関わらなければ、何もなく過ごせたかもしれない未来。知っているゲームの内容とも大きくズレた。
だが今、サクヤの見る未来の夢は悪夢だ。死を連想させる未来ばかりが自分の前には広がっている。
文字の情報でも、何かを見てしまうと、すぐに夢を見るため、家族は私に必要最低限な教育と情報を与えるだけに止め、私は守られている。
それも、もう、終わるのだろう。
幼い頃から時折、夢に見ていた東の守護者。
彼に会えば、何か変わるかと思っていた。
たった1回だけ。おぼろげにしか見えない未来で、一緒に笑っているイメージが見えたから。
賭けてみた。
わざわざ、遠いリレイラまでお兄様に連れて行ってもらった。
あんな遠い地に転移の魔法を使わせるなど。 お兄様にどれほどの負担を強いた事か。
それでも、帰ってからの生活は変わりない。
新しい夢も見ない。見るのは悪夢だ。
ならば。初めから、一緒にいてくれる光精霊のリノを通して、そのお顔をよく見ておけばよかった。
ため息が零れ落ちる。
どうして、自分の目で見たいと思ってしまったのだろう。確かに、待っていたらあの噴水で出会えると確信していた。夢の中でチラリと見た私はなぜかその場にリノを連れていなかった。渋るリノを説得し、わざわざ離れていてもらったのに。
最後まで、あがけとお兄様はおっしゃった。でも。充分、行き遅れの私だ。この世界の常識も必要最低限。詰め込まれたのは、膨大なクランガルドの知識と魔術。
どうせ、魔術は学んでも、私自身の魔力が低く、使用する能力が無いから安心であると判断され、当主であるお兄様と同じだけの知識を与えたと言われた。
どう、役に立つのだろう。
『もう一度、会いたい。』
ぽつりとつぶやく。
好かれるなど、思ってもいない。ただ。どうして私はこんなに生きることに執着しているのだろう。
最早、推しであった現帝王など興味はなかった。
何度も夢に見た。私の未来に関わるかもしれない。たった一人の光のようだった。救いの手のように感じた。
その手に触れる事も出来たのだ。声も直接聞いた。お兄様とは違う、少し危うさを感じる不安定な魔力ではあったが、優しく穏やかなその力は膨大で。
何を後悔することがあるだろうか。
私が出来る事は全てやった。
私の夢見の力を求めて来た人の中にも、何かに必死で思い詰めて来た人達がいたのではなかっただろうか。家族に守られ、自分の事ばかりに必死で。与えられた力を使わず。私の力で何かを見れば、救われた人がいたかもしれないのに。私には罰が当たるのだろうか。
でも。どうか。出来る事なら。
どうか。神様・・・・・。




