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回避出来た令嬢は?  作者: 明月 えま
第3章・南国リレイラ編
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帰路

静かに船は進んでゆく。


帰りの出発は、結局1日延びたのだが、海は静かに凪いでいて、海鳥たちを時折眺めていると、あっという間に1日が過ぎ、翌日にはホバルの領海に入った。

水の精霊の力を受けた少女は、その後も目覚める事なく眠ったままの為、リンゼイの部屋で様子を見る事になった。


海原を抜け、クロー川に入る。


リレイラでの日程が延びたが、普通より早い速度で航行している為、後れを取り戻して帰国できるらしい。


この船にも慣れたのに、あと数日と考えると寂しい気がする。

リオンは事後処理に追われ、船内でも日中は仕事をしている。正直、退屈。


今日は帰国する前に、午後からタリスさんに魔防の刻印を入れてもらうと言われている。

外部からの魔力での介入、攻撃を防ぐ為の魔法を見えない刻印で身体に刻む。もう、5回ほどしてもらったのだが、まだ完成ではないらしい。

特段、痛みがある訳でもなく、私はいつも座って終わるのを待っているだけなのだが。多少、疲れるけれど、何が変わったのか自覚は無い。


リオンと一緒にタリスさんの部屋を訪れる。

少し甘く、不思議な煙草の匂い。


「おい。余程暇らしいな。」

リオンの言葉に、タリスが苦笑する。

「間違いない。」


煙をくゆらせ、窓辺に座るタリスさんは、元々美形なこともあって、不思議な雰囲気だ。

キセルを持つ指は男性の物でありながら、白く長く、爪もきれいで本当に美男子だ。

まあ、私の好みはリオンなのだけれど。これは好きな人からすると、本当にたまらないだろうな。

溢れる魔力と才能。美形。基本、明るい。そしてどこか廃退的な雰囲気を併せ持つ。甘え上手で。なぜか危うさを感じる。関わると、誰もが構いたくなるような人だ。


引きこもっていたため、そんなに仲の良いと言える存在がいない私と比べると雲泥の差だ。


ああ。いいなあ。友達。


そんな事を考えていたら、クスリとタリスさんが笑う。

「レイちゃん。僕らが仲よさそうに見えて羨ましい?」

ずばり言い当てられてドキッとする。


「ええ。とても素敵だと思いますわ。」

ここは正直に述べておく。どうせ、この高スペック達にはかなわないのだ。


「大丈夫だよ。心配しなくても。それよりも、リレイラでは最後、最も効果的に、全部持って行ったじゃない?さすが、リオンが選んだ人だなあって感心したんだけど。」

「えっ?」

一瞬、何を言われたのかわからない。


「タリス。余計な事は言うな。」

リオンがタリスを睨む。

「待って。何の事ですの?」

最後を持って行ったって、あの、虹?


理解した瞬間に、心の底から身体が冷えたような気がする。

そうだ。この人達が、何も用意していない訳ないじゃないか。私、余計な事をした?


「ローズ!」

リオンに手を取られて引き寄せられる。

「タリス。いい加減にしろ。」

少し怒っている様子のリオン。


「ほら。リオンは君が一番好きだよ。」

そう言って、タリスが笑う。


「ごめんね。からかうつもりじゃ無かったんだよ。僕こそ、表には一切出ないようにいているからリオンの隣にいる君が眩しく見えた。君はリオンに相応しいよ。そして、きっと、君にしかリオンの隣は務まらない。どうせ、リオンは何も言っていないんだろうけど。レイちゃん、虹の姫君とか渾名がついてしまってリレイラで大人気だけど。教えてもらってないだろう?」

言われた言葉に固まる。


は?


虹の姫君?


「全く。時期を見て話すつもりだったのに。お前は。」

リオンがため息をつく。

「どういう事ですの?」

いやいや。勘弁してほしい。なるだけ、目立たないように生きてきたのに。

そもそも、私は姫じゃないって!


「リレイラの王城で君が虹をかけたのが非常に民に受けた。君の姿を絵姿に移したようなものまで出回っているらしい。もともと、商業特区扱いの都市要綱を作ったのは私だからな。非常に嫌だが、作るなとは言えない。もともと、王族のわがままにリレイラの民は辟易していた所があった。そんな自分たちの住む場所の枠組みが変わる。経済が自由になる。頭を押さえつけていた王はいない。新しい物事に向かう民は、何を心の支えにしよう?となるだろう。君はあの時、不安をかかえていた民衆の心を掴んでしまった。君がどう思おうと、リレイラの民は君を神聖視するだろうな。」

「・・・嘘でしょう?」

「君は私が嘘を言っているように見えるか?」

「嘘であってほしいわ。」

ため息にならないように、息をつく。


「帰ってからが大変だろうね。噂は遅れて商人が運ぶ。リレイラでは、幼い子供の中に、君が水の精霊と話しているのが見えた者がいたようだよ。純粋な子供がキラキラした目で君がきれいだったと話すものだから、さらに人気が高まっている。8月夜会では、レイちゃんは相当注目されるだろうから、リオンが過保護になるよ。」

くすくすと笑うタリス。


8月夜会。そうだ。夜会。

考えると胃が痛くなりそうだ。


王城で行われる夏の一番大きな夜会。


「心配しなくていい。君は私の隣にいればいいんだ。目立ちたくなかったら何も話さなくていいし、夜会に出るのがこれで最後でも構わない。」

そう、リオンが言ってくれて、少しホッとする。


「リオン。夜会にレイちゃん出したくないのはリオンでしょ。」

そうタリスさんが言ったので、驚く。


「うるさいタリス。さっさと刻印入れろ。」

ちょっと不貞腐れた様子で話すリオンは、彼には珍しく子供っぽくて。


「いいねえ。皆して結婚してしまって。僕だけ置いて行かれたなあ。」

ボソリと言うタリスさん。


「君なら、その気になれば、すぐに結婚できるだろうに。」

そう話すリオン。一緒に相槌を打つ。

夜会とか行ったらキャーキャーなりそう。


「んー。ピンとくる人がいない。」

「そうか。」

「あ。そう言えば、母さんから、ババアにならなくて結構だとこの間言われた。」

「お元気か?」

「元気。変わらず、あそこに住んでる。」

「そうか。君が結婚して子でも作って同居したらどうだ?」

「孫の守りをしている母さんなんて、想像できないな。」

「・・・。何も言わずとも、君の母君がいるだけで子供が大人しくなりそうだな。」

「そうかも。」

タリスが苦笑する。

一体、どんなお母様なんだろう?タリスさんが美形だから、きっと美形なんだろうけど。


そう話をしている間に、準備ができたらしく、新しく魔防の刻印を入れてもらった。何にも見えないけれどね。

あと、2回で刻印終了らしい。夜会までに2回、屋敷に来て入れてくれるとのこと。



夕方になって、リオンも船室で一緒に過ごしている。

ゆっくりした帰りの船の中で、そういえば、こんなに長くリオンと過ごしたのは初めてだと改めて思う。帰ったら、また、昼間はお留守番か。

そう考えると少し寂しくなった。

仕事を終わっても、ソファで書類を読んでいるリオンの隣に本を持ってきて座る。


魔防の刻印を入れてもらったせいか?少し疲労感があって、眠い。

2ぺージ目ですでにああ、頭に内容が入らないなあと思っていると、バサリと書類を置いたリオンに、本を取り上げられる。


ベッドに連れて行ってくれようとしたのだろう。抱え上げようと回された手を止める。

「いい。リオンと一緒にここにいる。」

眠くなっていて、思考が低下しているからか。自分の欲に忠実に、リオンに抱き着いた。

「大丈夫。一緒にいますよ。」

耳元で囁かれる、低く、甘い、優しい声。


ああ。この、幸せな時間が長く続けばいいのに。

そう思いながら、眠気に負けて目を閉じる。



日の長い夏の夕暮れ。

船は静かに航行を続ける。



リレイラ編、終了です。


誤字報告について。です。


昨日は何人もの方からご指摘頂きました。とてもありがたくて。拝み倒したいくらいです。気になる表現のご指摘、お待ちしてます。


昨日から20件以上のご指摘を下さいました神様。ええ、あなたです。1人しか該当しないもの。もう、国語の神様と呼ばせて頂いております。


今日と明日は仕事でして。修正は、そのまま適用出来る所はそのまま適用しますが、そのまま修正適用できない所は、夜になって対応します。

それでは、今日も元気に働いて来ます!

(*´∀`*)

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黎明 ルークスタッドの後日談、連載中 不器用令嬢、騎士になる カイウスの恋愛話、主に嫁視点を書いてます。  こちらもよかったら読んで下さい。
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